会社が家代わり!? アニメーターの過酷な生活/『アニメーターの仕事がわかる本』⑦

アニメ

公開日:2020/4/29

長時間労働で低賃金、パワハラ、作画崩壊とか怖いニュースが多すぎ…一体、どんな働き方をしているの? 社会問題にすら発展したアニメーターの働き方と現実を、人気作画監督・西位輝実の実体験と取材。アニメーターの世界を歩くための、ゆるくてシビアな業界入門書です。

『アニメーターの仕事がわかる本』(西位輝実、餅井アンナ/玄光社)

第2章 問われる働き方

にしー先生:さて、アニメーターがどういう仕事なのか、アニメ業界がどんな構造なのか、ざっくりわかってきたかな?

もちい:ところどころ「えっ?」って言いたくなるところはありましたが、おおむね理解しました!

にしー先生:じゃあウォーミングアップはこれくらいにして。いよいよこの業界内の暗黒面に踏み込んでいくとしようか!

もちい:えっ!? あれでウォーミングアップなんですか!?

にしー先生:ここからは「アニメーターがどんなふうにして働いているのか」を、ハードな現実に即してオブラートに包まずお届けするよ。

もちい:き、気を確かに持ってついていきます……。

1日中絵を描く、描き続ける

もちい:作業の流れは1章の説明でだいたい把握できたんですけど、実際にどんな感じで毎日お仕事をしているのかっていうのが気になっていて。

にしー先生:それは気になるよねー。ちなみに、もちいちゃんは「アニメーターの働き方」って聞いて、どんなイメージが浮かぶ?

もちい:やっぱり、「毎日会社に集まって、昼も夜もなく机に向かってひたすら絵を描いている」みたいな?

にしー先生:うん。だいたいそれで合ってます! 家でやる人もいるけど、だいたいは制作会社なりスタジオなりに籍を置いているね。自分専用の机があって、毎日出社してきては、ひたすらそこで絵を描くっていう暮らし。

もちい:普通の会社員と同じような感じで毎日通勤するんですね。出社の時間とかも決まっているんですか?

にしー先生:それは会社によってまちまちかなぁ。「朝10時までに出社してください」ってところもあるし、全然決まっていないところもある。
終わりの時間も「徹夜は厳禁なので夜は帰宅してください」ってところもあれば、24時間開いていて常に人がいるところもあるよ。

もちい:禁止されるっていうのは、放っておくとわりと徹夜が横行しちゃうってことなのでは……?

にしー先生:(ぎくっ)……まあそうだね。この業界は夜型の人も多いですから。普段の仕事だったら朝10時からお昼すぎあたりに始めて、22~24時くらいまで頑張るっていうパターンが結構あるかなぁ。

もちい:一般的な9~17時勤務と比べると、タイムテーブルがまるっと後ろにズレてる感じですよね。(あれ? それにしても勤務時間長くない?)

会社が家代わり!? 家に帰らない人も

にしー先生:あとは、アニメーション制作の会社って8割が東京にあるんだけど、その中でも西寄りの練馬や杉並にかなり固まっているのね。
路線でいうと西武新宿線と西武池袋線、それから中央線の沿線。で、会社からは交通費が出ないところもあるから、みんな節約のために自転車や徒歩で通える距離にアパートやマンションを借りることになる。
そうなると「終電」という区切りを気にしなくていいから、結果ズルズルと居残ってしまいがちに……というわけ。

もちい:な、なるほどー。(えっ? 交通費出ないの?)

にしー先生:家に帰らないでスタジオに寝泊まりしちゃう人とかもいるしねー。私も若いときはよくやっていたけど、机に突っ伏して寝たり、机の下のスペースに頭を突っ込んで横になったり。実家が関東の半端な距離にある人は賃貸の部屋すら借りてなくて、スタジオが家、お風呂は近所の銭湯かネットカフェのシャワー、スポーツジムで済ますみたいな猛者もいるんだ。

もちい:なぜそんな過酷な生活を!?
やっぱり、仕事の量が多いから……?


にしー先生:個人の生活習慣もあるだろうけど、そういうことだね。

もちい:うう、ネットニュースとかを見ていても「アニメーターは長時間労働が当たり前」っていう話ばっかり出てくるじゃないですかー。1日10時間労働も全然珍しくないとか。
さっきのタイムテーブルにしたって、それくらい働いていますよね?

にしー先生:それは全然珍しくないね。むしろ全体の平均が10時間くらい。(テレビの)放映が始まるとつねに納期に追われている状態で、どれだけやっても時間が足りないの。
休日もなかなか取れないうえに不規則で、それも「やった、今日は休みだ!」というよりは「疲れて具合が悪いから動けない」って感じだし、体力がないと厳しい仕事だと思うよ。

もちい:ひえぇ、長時間労働で休みも少ない……。ネットで出ている情報に近いんですねえ。

<第8回に続く>