仕事を始める前にハンドクリームをひと塗り。香りがもたらす意識を切り替える効果/暮らしのなかに始まりと終わりをつくる⑦

暮らし

2020/5/29

暮らしの中に終わりと始まりをつくる

著:
出版社:
幻冬舎
発売日:

自粛で家に籠もりがちだからこそ“日々の暮らし”を大切にしたい。心身を保つ日々のちょっとした工夫や習慣を「暮らしのおへそ」「大人になったら、着たい服」の編集ディレクターにして“暮らし”にまつわる数々の著書を持つ一田憲子さんがご紹介します!

『暮らしの中に終わりと始まりをつくる』(一田憲子/幻冬舎)

仕事を始める前にハンドクリームを塗って、意識を「今」に導く

 掃除やストレッチなど朝のルーティンを終えたら、なるべく早くパソコンの前に座ります。ぐっすり眠って目覚めた起きたての頭はとにかくフレッシュ! パフォーマンスが最高の時に原稿が書きたい! と思うので……。掃除途中にすでにパソコンを立ち上げておき、机の前に座るとすぐに書き始めるのがいつものパターン。ただし、椅子に座って、原稿を書く前にやることがあります。それがハンドクリームを塗ること。

 ちょっと奮発して上等な、いい香りのハンドクリームをデスクの上にいつも置いておき、「さて!」と椅子に座ると、まずそれを取って手に塗ります。ふわりといい香りが立ち上り、「締め切りギリギリだ!」と焦っていても、心をふっと緩めてくれるし、「なんだか今日は気が乗らないなあ」と思っていても、頭をクリアにし、集中力を高めてくれる気がします。

 30代の頃、私はいつも寝不足でした。「忙しい、忙しい」というのが口癖で、常に時間に追われていた気がします。でも、今から思い返してみれば、おそらく書いていた原稿の量は今の半分以下だったと思います。なのに、どうして時間が足らなかったのか……。それは、「仕事に取り掛かるまで」に時間がかかったから。

 仕事をしなくちゃいけないんだけれど、やりたくない。仕事が好きなんだけど、疲れている。人間というのは、相反する感情をいつも心に抱えているよなあと思います。効率を上げるためには、「今」にまっすぐアクセスするしかけを作ればいいんじゃなかろうか、と思うようになりました。

 そこで、利用することにしたのが「香り」です。私が使っているハンドクリームは、「グロウン・アルケミスト」のオレンジとバニラの香り。ちょっと気分転換したい時には、「ジュリーク」のローズの香りを。パソコンの前に座った直後は、「明日までにあれをしなくちゃ」「このアポイントを取らなくちゃな」と意識があっちこっちへと飛んでいます。でも、ハンドクリームを取り、手の甲に少量をのせて、ゆっくり手全体になじませて「あ~、いい香り」と、鼻を膨らませている間に、散りぢりだった意識が、自分の手の中へ戻ってくる気がするのです。あれこれ気になることはあるけれど、今私ができるのは、目の前の原稿を書くこと……。

 逆に、緊張を解いてリラックスする時に使うのも香りです。フリーライターは、自宅で仕事をするので「暮らし」と「仕事」の間に線引きをするのがなかなか難しい。家事や育児をしているお母さんも、24時間忙しく立ち働いて、なかなか「ここから休憩」という時間を取れないのではないでしょうか? そんな時「本日閉店!」とシャッターを下ろすお手伝いをしてくれるのが香りなのです。アロマキャンドルを焚いたり、お風呂に好きな香りの入浴剤を入れたり。五感を使うということは、「頭を使う」のとは、まったく違うこと。五感を刺激することで、体の中の別の機能がむくむくと目覚めてくるような感じがします。そして、「香り」というしかけを使うことで、フル稼働していた頭がだんだんクールダウンしていく……。

 たかが香り。「香りを使って気分転換を」というのはよく聞くフレーズです。でも、実際に、自分の体の中に起こっている作用を分析してみると、これがなかなか面白い! それは、私にとって「直接」と「間接」の違いを理解することでもありました。原稿を書くテクニックや、取材の仕方など、よりよく仕事をするための「直接的」な方法には限界があります。でも、環境や体、心を整えるという「間接的」な方法には、いろんな可能性が秘められている……。クンクンと鼻を動かしながら、そんな見えない力を味方につけたいと思います。

<第8回に続く>

この記事で紹介した書籍ほか

暮らしの中に終わりと始まりをつくる

著:
出版社:
幻冬舎
発売日:
ISBN:
9784344036000