最高級の褒め言葉を伝えたい時に! 二葉亭四迷『浮雲』の言葉で表現すると…/文豪のすごい言葉づかい辞典②

文芸・カルチャー

公開日:2020/5/31

夏目漱石、太宰治、三島由紀夫など、文豪の語彙を解説。手紙、メールで使えば、より気持ちが伝わりやすくなる“すごい言葉づかい”が身につきます。文豪ならではの深い教養とあわせて、絶妙な言い回しを学びましょう。

『文豪のすごい言葉づかい辞典』(山口謠司:監修/宝島社)

画/BISAI

明治の文豪・二葉亭四迷。『予が半生の懺悔』は、亡くなる1年前の明治41年(1908)に、自身の思想の変遷を綴った文章。

俯仰天地に愧じざる生活

意味:心や言動にやましい点がない生きざま。

よくある言い方:「あの方は、誠に立派な人です」

絶妙な言いまわし:「あの方は、俯仰天地に愧じざる人です」

二葉亭四迷『予が半生の懺悔』より
さて『浮雲』の話の序でだが、前に金を取りたい為にあれを作ったと云った。(中略)私は当時「正直」の二字を理想として、俯仰天地に愧じざる生活をしたいという考へを持っていた。

スケールの大きい最高級の褒め言葉

 二葉亭四迷が、代表作『浮雲』の発刊当時を振り返った言葉です。その頃は、影響を受けた儒学の思想にある「俯仰天地に愧じず」を生き方の理想としていたといいます。「俯仰天地」とは「俯き、仰いで見た天地」のこと。つまり、「見渡す限りの何に対しても愧じることのない生活」を望んでいたのです。

 注目したいのは「愧じる」という言葉です。「はじる」には「恥」の字もありますが、こちらは「耳」と「心」から成り立ち、心が耳のように柔らかくなり、心がボロボロになってしまうような〝はずかしさ〟を表します。

 一方、「愧」は心を表す「忄(りっしんべん)」と、意外にも丸いという意味をもつ「鬼」から成り立ち、心が小さく丸く、ちぢこまってしまうような〝はずかしさ〟を表すのです。

 この言葉を用いれば、公明正大で堂々とした、立派な生き方をしている(した)方に対して、「俯仰天地に愧じざる人」と敬意を表すことができます。

<第3回に続く>