「お目にかかれて光栄です」を横溝正史流に伝えると… 尊敬する人なら咳にさえ触れてもいい!?/文豪のすごい言葉づかい辞典③

文芸・カルチャー

公開日:2020/6/1

夏目漱石、太宰治、三島由紀夫など、文豪の語彙を解説。手紙、メールで使えば、より気持ちが伝わりやすくなる“すごい言葉づかい”が身につきます。文豪ならではの深い教養とあわせて、絶妙な言い回しを学びましょう。

『文豪のすごい言葉づかい辞典』(山口謠司:監修/宝島社)

画/森松輝夫(アフロ)

昭和に活躍した推理小説家・横溝正史。名探偵・金田一耕助の生みの親である。引用の『スペードの女王』は、昭和35年(1960年)発表の作品。

謦咳に接する

意味:尊敬する人、貴い身分の人の話を直接聞くこと。

よくある言い方:「お目にかかれて、光栄です」

絶妙な言いまわし:「謦咳に接する(触れる)ことができ、幸甚に存じます」

横溝正史『スペードの女王』より
わたしこそ、いちど先生のご謦咳に接したいと思っていたところでした。

貴重な話を聞けた感激を表す言葉

「謦咳に接する」とは、横溝正史が「先生」に対して用いているように、とても偉い方、なかなか会うことができないような目上の方に、直接お目にかかることを表す言い方です。「謦咳に触れる」とも使います。「謦咳」という言葉がもつ意味を、文字の成り立ちから見ていきましょう。

「謦」は、ほとんど聞こえないような、小さくささやかな咳(せき)を表します。そして「咳(がい)」は、風邪の季節に出てくるゴホン、ゴホンの咳のことです。咳がふたつ……そんなものに触れたくはないという方もいるでしょう。

 しかし、「謦咳に接する」というと、話は違ってきます。小さな「咳」にも普通の「咳」にも接するということは、日常の振る舞いに接するということ。近くにいることで、貴重な話も自然と聞くことができるのです。

 使用する際に気をつけておきたいのは、接する相手はとにかく尊敬すべき人に限られるということ。友達や恋人の話を聞く場合には使いませんので注意を。

<第4回に続く>