身体から強烈な線香の匂いが… 死を知らせる香り/蝦夷忌譚 北怪導②

文芸・カルチャー

公開日:2020/6/5

大ヒットご当地怪談『恐怖実話 北怪道』の続編がよりディープになって帰ってきた! 道内の民家や住宅地など生活圏内で、いま現在進行形で起きている怪事件、霊現象… 実はあなたの周りにも⁉ もっとも身近で恐ろしい北のご当地怪談を試し読み。

『蝦夷忌譚 北怪導 』(服部義史/竹書房)

お知らせ

 池田さんは札幌市の南区のマンションで生活している。

 今は亡き、両親が残してくれたものなので、築年数は相当古い。

 それでも思い出もあれば、それなりの広さもある。

 一人暮らしとはいえ、快適なものであった。

 

 ある日のこと。帰宅した池田さんは、室内に充満する噎せ返る程のお線香の香りに驚く。

 臭いの元を部屋中探してみるが、何処にも当て嵌まる場所はない。

 仕方がないのであちこちの窓を開けて、換気をする。

 暫くの間換気し続けるが、若干臭いが薄まった状態にしかならなかった。

 しょうがない、と諦めて、その日はそのまま寝ることにした。

 

 翌朝、起床するが、まだ室内には臭いが残っているような気がする。

 仕事に着ていくスーツの臭いを嗅いでみるが、自分の鼻がおかしくなっているのか、よく分からない。

 念の為と、消臭スプレーを振り掛けて、職場に向かった。

 

 数日後、帰宅した池田さんはマンションの入り口で、見知った住人の荒木さんと会う。

「どうもこんばんわ」

 いつものように軽く挨拶すると、神妙な顔をした荒木さんが言葉を選びながら話し始める。

「あのね、今日、大変だったのよ」

 彼女の話から、色々と事情が分かった。

 その日、池田さんの階下で、住人の遺体が発見された。

 どうやら孤独死らしいという。

 死後数日は経過していた。

 異臭に気付いた住民が通報し、事が発覚したという。

「確かにねー、変な臭いがしてたよねー」

 そう言われても、池田さんが感じた異臭というなら、お線香しか思い当たらない。

 その後は、別に何も気にならなかった。

 自分の鼻が鈍感なのかな、と思いつつ、荒木さんと別れた。

 

 同じマンションの住民が孤独死と聞かされると、何とも言えないものがある。

 環境や年齢的なことを含めて、とても他人事には思えない。

(まあ、成仏してください……)

 池田さんは見知らぬ誰かに手を合わせた。

 

 翌日、取引先の三輪さんと街中で出くわす。

 お互いに仕事の途中だったが、丁度、昼時ということもあり、御飯を一緒に食べることにした。

 蕎麦屋に入り、会話をしながら蕎麦が出てくるのを待つ。

 最近の景気やら仕事の話で盛り上がるが、池田さんにはどうしても気になることがあった。

 三輪さんの身体からお線香の強い匂いが立ち上っていたのだ。

 会話のタイミングで触れてみようと思っていたが、その間もなく、蕎麦を流し込んだ二人はそれぞれ仕事に戻った。

(だけど営業で、あの匂いは拙いよなぁ)

 そうは思ったが、取引先である以上、触れないことが大人の対応だったと自分を納得させる。

 

 それから二週間ほど過ぎた頃、会社に若い男性が訪ねてきた。

 池田さんを指名してきたらしく、応接室で会話をする。

「初めまして。私、アーク工業の明石と言います。今後は前任の三輪に変わりまして、担当を致して参りますので、宜しくお願い致します」

 どう見ても大卒の新人らしい雰囲気が漂っている。

「へぇー、この時期に部署替えとかあったんだ。まあ、そんな硬くならないでさ、これまで通りに宜しくお願いしますよ」

 明石君は必死に丁寧な言葉で話そうとするが、所々おかしな台詞になってしまうところが池田さんを笑わせてしまう。

「いやー、いいわ君。そういえば三輪さんは元気なの? まさか大出世してたりして」

 おどけた池田さんに対し、表情を曇らせる明石君。

「いや、あの……。ちょっと亡くなってしまいまして……。それで私が担当という形になりまして……」

 池田さんは言葉を失う。

(ちょっと前に会ったばかりだよ。あの人、めっちゃいい人だよ。それが何で?)

 明石君の説明によると、自宅で突然倒れ、そのまま帰らぬ人となったらしい。

「持病があったの? 心臓発作とか? え、何で、どういうことなの?」

 感情的になった池田さんに、明石君は言葉を選びながら説明する。

「多分……、上司とかなら病名とかを知っているとは思うんですが……、何分、私レベルでは、そういう話は伝わってこないものでして……」

 まあ、そうだよな。

 取引先の池田さんにまで詳細を説明する義理はない。

 ただ、間違いなく三輪さんは亡くなってしまっている。

 半ば放心状態になりながらも、丁寧に何度も頭を下げていく明石君を玄関先まで見送ってあげた。

 

 この後、池田さんは同じような状況を三度味わう。

 一人目は、やはり取引先の津田さん。

 二人目は、仕事帰りによく立ち寄るお弁当屋さんのおばちゃん。

 三人目は、後輩の品川君。

 皆、突然亡くなってしまった。

 最後に会ったときには、それぞれが強烈なお線香の匂いを漂わせていたという。

 

「これって、ただの偶然ですかね。そういうことが分かる体質になったってことですかね」

 後輩の品川君のときには注意をした。

 しかし、誰もそんな臭いを発してはいないと言っていた。

 

 実は池田さんも、自身の身体からお線香の匂いを感じたことがある。

 それまでの経験に比べて弱い臭いだった為、消臭スプレーを大量に振り掛けると異臭を感じなくなった。

「もし……もしね、そういう兆しというのだったらと思ってね……」

 今現在、池田さんは消臭スプレーを持ち歩く生活をしている。

<第3回に続く>

この記事で紹介した書籍ほか

蝦夷忌譚 北怪導 (竹書房怪談文庫)

著:
出版社:
竹書房
発売日:
ISBN:
9784801922525