【宇垣美里・愛しのショコラ】ショコラマカロンのご褒美/第5回

小説・エッセイ

公開日:2020/6/5

 普通なら、それこそ元からセットで売られているようなものなら、マカロンの特徴でもあるかわいらしいパステルカラーのものを色とりどりに組み合わせているものだ。
 それなのに、もらった箱に入っているのはそれぞれ濃さの違ったブラウンのものばかり。たまにビビットなカラーがあるかと思いきや、間にはさまっているのはチョコレートのガナッシュだ。見事にショコラ尽くし。それはきっと私がチョコレートが好きって知ってるから。

「本当に優しい人だなあ……」確かに自分の味方はいて、きっとずっと気にかけ見守ってくれている、そんな温かい事実に胸がいっぱいになって、夜行バスが高速に入るころにはもうぼろぼろと涙が止まらなくなっていた。ぎゅっと紙袋を抱きしめながら、むぐむぐと泣きながら頬張ったマカロン。こんなにかわいいのに、甘くておいしくて、なんだか救われたような気がした。もうちょっと頑張ろうと思えた。

 あの時から、私は大きな仕事や大変な出来事を乗り越えた後は必ずマカロンを買って帰る。選ぶときはもちろん、彩りなんて気にせず好きなものばかりを箱に詰める。ちょっと財布に響く値段だけれど、それがいい。だってご褒美だもの。贅沢している気分に浸らせてもらいたい。ふんわりとやわらかいマカロン生地は噛むとさくりと音を立ててほろほろに崩れる。たっぷりと中に挟んであるクリームは濃厚で、チョコレート単体で食べる以上に力強さを感じるのはなぜなんだろう。

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宇垣美里・愛しのショコラ

 もう夜行バスには乗ることはない。東京で道に迷うことも、生まれ育った土地を卑屈に感じることも。小さな嫌味に傷つくような繊細さは、とうの昔に捨てた。けれどきっとずっと、私は私にマカロンを買い続ける。さくっ、もっちり、ふわっと広がる華やかな香り。これだからこのご褒美はやめられない。

【筆者プロフィール】
宇垣美里(うがき・みさと)
兵庫県出身。2019年3月にTBSテレビを退社し、4月からフリーのアナウンサーとして活躍中。チョコレートのほか、無類の旅好き、コスメ好きとしても知られる。週刊誌、WEBサイトでコラムやエッセイなど多数連載中。19年にはファーストフォトエッセイ「風をたべる」を刊行。

撮影=中村和孝(まきうらオフィス)/ヘアメイク=AYA(LA DONNA)/スタイリスト=小川未久(宇垣さん衣装)、片野坂圭子(雑貨)/編集協力=千葉由知(ribelo visualworks)