人を動かすチカラを手に入れるには? 相手の行動で理解すべき2つのこと/神トーーク③

ビジネス

公開日:2020/6/15

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『神トーーク 「伝え方しだい」で人生は思い通り』(星渉/KADOKAWA)

相手の行動における「背景と理由」を理解する

 こちら側の話も聞かないで、頭から否定してきたり、一方的に怒る人っていますよね。それらの行為が、人望など得ることができない最悪のパターンだということを、あなたはもう理解できているはずです。

 そこで、人の心を動かすうえで理解しておかなければならないことがあります。それは、普通だったら理由も聞かずに否定をしたり、怒ってしまうことでも、「なぜ、相手がそうしたのか理由を聞く」ことです。

 たとえ、一般常識では“間違い”とされていることであっても、あなた自身が“ありえない!”と思うことであっても、否定されて当然と思われることであっても、まずは相手が「なぜそういうことをしたのか」という「理由」「背景」を理解しようとする姿勢を見せることで、相手はあなたに「安心感」を覚え、相手の態度は大きく変わります。

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「人の心を動かす」力を身につけるのならば、「人はどんなによくないこと、間違っていることでも、人それぞれその発言、行動に至ったその人なりの理由がある」ということを理解しましょう。そうすることで、「自分とは違う意見の人でさえ動かしてしまうチカラ」を手に入れることができるのです。

 では、その方法とは? 具体例で解説していきましょう。

 たとえば、仕事で重要な会議があったとします。

 あなたは上司として、その会議でのプレゼンテーションを部下に任せていました。

 プレゼンテーションの資料は事前に目を通して、あなたがOKを出しています。

 ところが、会議が始まる時間になっても、プレゼンテーションを任せていた部下は会議室に現れない。電話をしても出ない。あなたの部署のプレゼンテーションは、会議の開始から30分後に始まります。

 そうこうしているうちに、プレゼンテーション開始5分前……。

「これはかわりに自分がやるしかないな」と思った時に、ついに部下が会議室に姿を現し、さっそうと説明を始めたのです。

 プレゼンテーションは無事に終了しました。会議が終わった後で、遅れてきた部下に「何をしていたのか?」と聞くと、部下はこう答えました。

「ちょっと気になるところがあって、プレゼンをさらにいいものにすべくギリギリまで改善しておりました」

 あなたからすれば、「会議に遅れてくるのはナシだろう。遅れるにしても、せめて遅れると連絡をするべきだ」という思いです。

 しかし、部下は「プレゼンテーションは会議開始から30分後とわかっているのだから、それまでに間に合えばいい」と思っています。今回の会議でもっとも重要なのは、プレゼンテーションでこの企画を通すこと。だから、資料を最高のものにするためにギリギリまで粘ったことは“正しい行い”だと思っています。

 さて、あなたはここで、部下とどのようにコミュニケーションを取るでしょうか?

 どうすれば、この部下は、あなたが思っている通り「会議に遅れることはよくない」「遅れる時は連絡をしよう」と反省し、これからの行動を改めるでしょうか? また「この人(上司であるあなた)は信頼できる。この人についていこう」と思うでしょうか?

 まずは、あなたが考える対応の仕方を5個、書き出してみてください。





敵を作らない「コミュニケーションの極意」

 まずは、人の心を動かすどころか、部下からの信頼も人望も得ることができない「やってはいけない例」を紹介しましょう。

 会議終了後……、

上司(あなた) 「ちょっと、いいか」

部下 「はい、何でしょうか?」

上司 「大事な会議に遅れてくるなんて、お前は何を考えているんだ! たまたまプレゼンがうまくいったからよかったが、社会人として時間に遅れるなんてありえないぞ」

部下 「いや、プレゼンの資料をギリギリまで修正していたんです」(大事なプレゼンだっていうから頑張ったのに、別にそんな言い方をしなくてもいいだろ)

上司 「何をしていたかを聞いているんじゃない。会議に遅れてくること自体がありえないと言っているんだ。時間はちゃんと守れ。いいな?」

部下 「わかりました」(全然、理解してもらえてないじゃん。プレゼンだってうまくいったのに……)

 わかりやすくお伝えするために、少々大げさにしてみましたが、こういう上司って意外といますよね。

 では、この場面を「人の心を動かす安心感」の原則に従って実践するとどうなるか、あなた自身が考えた対応と比較してみてください。

 会議終了後……、

上司(あなた) 「プレゼンお疲れ様! 素晴らしいプレゼンのおかげで無事に企画も通ってうれしいよ! それにしても、今日の会議に遅れてきたけど、何かあったのか?」

部下 「ありがとうございます。会議に遅れたのは、重要なプレゼンだったので、ギリギリまでプレゼン内容をいいものにしようと粘っていたからです」

上司 「なるほど。だから、あんなにいいプレゼンができたんだな。ありがとう! ちなみに、もしプレゼンの時間が予定の時刻よりも早まってしまった時は、どう対応する予定でいた?

部下 「あっ、それについては考えていませんでした。プレゼンは絶対に会議開始の30分後だと思っていたので」

上司 「そうか。まぁ、でも、いいプレゼンだったからな。もし、30分後ではなく早まってしまった時の対応策を準備するとしたら、どんなことが考えられた?」

部下 「会議に参加する人に遅れていくと伝えておいて、出番が早まりそうであれば、連絡をしてくれとお願いしておくとかですかね」

上司 「そうだな。それはとてもいい方法だ。今回は誰かに伝えていたのか?」

部下 「いいえ、伝えていませんでした。次からは伝えるようにします」

上司 「うん、そうしよう。もう1つ、これは君の意見を教えてもらいたいんだけど、いいかな?

部下 「はい」

上司 「もし君が企画のプレゼンを聞いて決裁をする側だったら、会議に遅れてきたけど資料がブラッシュアップされていて最高のプレゼンをした人と、会議に冒頭からちゃんと時間を守って参加したうえでブラッシュアップされた最高のプレゼンをした人。どっちの印象がいいかな?」

部下 「あっ、それはもちろん会議に最初から参加して最高のプレゼンをするほうですね」(すべてはプレゼンのためと思ったけど、やはり遅れるのはよくないな)

上司 「素晴らしい、その通りだね。今回のプレゼンは本当に素晴らしかったので、次はさらにいいものにするために、最初から参加したうえで最高のものを提供するスタンスでいこう! 今日はお疲れ様! ありがとう」

 もう、違いは明白ですね。

「人望と信頼が生まれるメカニズム」の本質

 マーケティング支援事業を行う株式会社ディーアンドエムが「好意が持てる上司の特徴」について、日本全国の男女約1万3000人に対して調査を行いました。その結果、29.1%と最多を占めたのが「責任を持って部下を守ってくれる」でした。責任逃れをしないのは大前提ですが、部下のことを理解しようと努めてくれる安心感が、守られている感覚に直結することは言うまでもありません。

 さて、その視点も踏まえて、先ほどの会話を分解していきましょう。

 まず、会話全体を通して「否定」をしていません。

「絶対に否定をしない」という原則に則っています。

 そして、今回のテーマでもある「頭ごなしに否定をしない」=「相手の理由を理解する」という部分も、「会議に遅れてくるなんてありえないだろ!」と理由を聞かずに怒るのではなく、まずは相手の考えを理解しようと「どうしたのか?」と理由を聞く形で会話が始まっています。

 さらに「会議には遅れずに参加してほしい」「遅れるのなら事前に連絡するようにしてほしい」と、こちらの意図するように動いてもらうための指示ではなく、質問をして本人に気づいてもらうように促しています。理由を聞いても「次からはこうしてくれ!」と指示やアドバイスになってしまうと、間接的に「今回の行動はよくなかった」と言っていることになってしまいます。

 そこで、絶対に否定をしないように、「どちらがいいか?」「どうすればよかったか?」と質問して、相手に自ら「自分の今回の行動は改めたほうがいい」という結論に至ってもらうようにしています。

 さらに「今回以上によい取り組みをするためには、どのようにしたらいいか?」という意見交換をしていますが、今回遅れてきたこと、連絡しなかったことに関しての否定をしていないのがポイントになります。

 このようなやり取りによる、自分のことを否定しない姿勢、理解しようとしてくれる姿勢から、部下はあなたに対して、安心感を覚えるわけです。

 また相手は、プレゼンの内容など、評価すべきことは評価する言葉をかけられているので、自己重要感も満たされます。

 こうして、あなたは部下からの人望と信頼を獲得することができるわけです。

 もちろん、会話の時間、言葉の数は多くを要します。しかし、世の中の多くの人はそのちょっとした手間を惜しむから、なかなか人望を得ることができず、思うように相手が動いてくれないのです。

 私たちは「人の心を動かすメカニズム」を、こうしてロジカルに理解しているわけですから、面倒くさがらずにひと手間かけて、大きな影響力を手にしましょう。

人の心を動かす「神トレ」

自分と違う意見や考え方の人を「頭ごなしに否定する」のではなく、相手がその発言、行動に至った理由に関心を持ち、聞いてみよう。「なぜそう思ったのか教えてもらえるかな?」のひと言を日常で活用してみよう。

<第4回に続く>