「何持ってんねん!」家の段ボールを漁ってたら“怪しいオモチャ”が出てきて…/実家が全焼したらインフルエンサーになりました③

文芸・カルチャー

公開日:2020/6/18

実家は全焼、母親は蒸発、父親は自殺…。新橋で働くサラリーマン“実家が全焼したサノ”がインフルエンサーになるまでの軌跡を描いた、笑いあり・涙ありのエッセイ集。

『実家が全焼したらインフルエンサーになりました』(実家が全焼したサノ/KADOKAWA)

大人のオモチャを見つけた話

 店が経営不振に陥った後も、父はアダルトビデオの販売を辞めませんでした。

 理由はよくわかりません。

 それでも僕たち親子が、なんとか生活することができていたのは、おそらく、父の店の隣でたこ焼き屋をやっていた僕の祖母が、本当に生活が苦しいときは助けてくれていたからだと思います。

advertisement

 しかし、そんな生かさず殺さずの環境が、ダメな父をさらにダメにしていきました。

 母と離婚し、酒に溺れ、どんどんダメになっているのに、自分が変わらなくてもギリギリ生きていられる。そんな状況が、実は1番つらい状態なのかもしれません。

 そんな父は、とにかく現実逃避ができる刺激を求めていました。

 そして競馬や麻雀、パチンコなどのギャンブルにどんどんハマっていきました。

 その過程で、怪しい方々との交際も増えていったようでした。

 ある日、僕は部屋の隅に段ボール箱が置いてあるのを見つけました。

 興味本位でその箱を開けてみると、中には、食器や本など、雑多なものが入っていました。

 さらに段ボール箱を漁っていると、拳銃のようなものが出てきました。

 雑多すぎるだろう、と思いました。

 その銃に使う弾らしきものも、ビニール袋の中に何発も入っていました。

 当時の僕は、それをオモチャだと認識しつつも、友達と遊んだことのあるオモチャの銃とは明らかに違う重みに少し怖くなりました。

 一緒に入っていた弾も、プラスチックのBB弾ではなく、重い金属の弾でした。

 僕は父のもとに駆けつけ、「何? この鉄砲!」と言って、父に銃を見せました。

 すると父の顔は真っ青になり、「何持ってんねん!」と僕に強く怒鳴って、すぐに銃を取り上げました。

 ダメな父ではありましたが、僕には決して強く怒ったりしない人だったので、僕は驚いて泣きそうになりました。

 でも、普段なら怒らない父がこんなに怒るということは、やはりこの銃は本物なのかもしれない、僕はそう思いました。

 そして思い切って父に、「これって……、本物?」と尋ねました。

 すると父は慌てて、「そんなわけないやろ! オモチャや!」と答えました。

 たしかに本物の拳銃が家にあるわけがない、そうは思いつつも、父のこの慌てようを見るとなんだか信じられません。

 僕は「オモチャなんやったら、これちょうだい! これで遊びたい!」と言いました。

 すると父はまた慌てて、「アホか! これはな、あれや、あの……大人のオモチャなんや!」と言いました。

 このとき僕はまだ小学校低学年だったので、「そうか、オモチャには子供用もあれば、大人用もあるのか。だから、こんなに本物みたいな銃なんだな。僕も早く大人になりたいな」と納得してしまいました。

 父は、「おまえも大人になったらいっぱい遊んだらええねん」と言い、銃を大事そうにしまいました。

 大人になった今、僕は当時思い描いていた大人のオモチャと、現実の「大人のオモチャ」のギャップに絶望しています。

 ちなみにこの銃が本物だったのかどうかは、結局わかりません。

<第4回に続く>