「一緒にナンパしよ!」小学2年生の息子を使ってナンパするありえない父/実家が全焼したらインフルエンサーになりました⑥

文芸・カルチャー

公開日:2020/6/21

実家は全焼、母親は蒸発、父親は自殺…。新橋で働くサラリーマン“実家が全焼したサノ”がインフルエンサーになるまでの軌跡を描いた、笑いあり・涙ありのエッセイ集。

『実家が全焼したらインフルエンサーになりました』(実家が全焼したサノ/KADOKAWA)

父にナンパを手伝わされた話

 僕の父は、モテました。

 一般的にモテる人は清潔感があり、高身長で、高学歴で、高収入だと言われていたりしますが、父はそのいずれも満たしていませんでした。

 いつも同じ服を着ていて、外見が特別にいいわけではなく、身長も平均より低く、最終学歴は中卒で、収入はドッグフードを食べる程度に低かったです。

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 それなのに、父は不思議と綺麗な女性にモテていて、母と離婚した後も、何人かの女性とお付き合いしていました。

 僕は、なぜ父がそんなにもモテるのかを、当時父とお付き合いしていた女性に尋ねたことがあります。

 すると女性は、「優しいから」と答えました。

 この本では、父のダメなエピソードばかり並べているので、父の優しさが伝わりにくいと思いますが、たしかに父は、優しい人でした。

 自分が食べる分のご飯を買うお金がなくてもホームレスのおじさんに食事をご馳走したことがあったし、「放っておくのはかわいそうだ」と言って、よく捨て犬や捨て猫を拾ってきて飼っていました。食料に余裕がないときは、父は魚の皮を食べ、僕には魚の身を食べさせてくれる、そんな優しさを持った人でした。

 そんな極端で非合理的な無償の愛が、普段ハイスペックな男性に言い寄られている綺麗な女性にとっては、新鮮で魅力的だったのかもしれません。

 かつて、アップル創業者のスティーブ・ジョブズが、「美しい女性を口説こうと思ったとき、ライバルの男がバラの花を10本贈ったら、君は15本贈るかい? そう思った時点で君の負けだ」と言ったそうですが、僕の父はライバルの男たちがバラの花を贈ったら、持ちきれないほど大量のそのバラを女性の代わりに持ってあげるような人だったのかもしれません。

 ただ、父は優しい人ではありましたが、誠実な人ではなかったので、僕は何度か父にナンパを手伝わされたことがありました。

 ある日、僕と父は2人でカラオケ屋に行きました。

 すると向かいの部屋に綺麗な女子大生の2人組が入っていくのが見えました。

 父はそれを見て、「今の見た? かわいかったなー。おまえもそう思うやろ? じゃあ一緒にナンパしよ! 間違えましたって言って、部屋に入っていってくれへん?」と僕に言いました。

 友達ならまだしも、小学2年生の息子である僕にそう言ってくるのだから、父はかなりクレイジーです。

 ただ、そんな父のクレイジーさに気づいていなかった幼き日の僕は、父の言った通りにしました。

 すると女子大生は、とても驚いていましたが、「かわいい!」と盛り上がってくれました。

 そんな中、父は絶妙なタイミングで僕と女子大生がいる部屋に入ってきました。

 そして、「息子がすいません! 逆や逆、部屋逆! ……僕ら親子2人で来てるんですけど、よかったら一緒に歌いませんか?」と女子大生に言いました。

 僕も、よくわかりませんでしたが父に合わせて「歌いましょう!」と言いました。

 少し強引な提案に、女子大生たちは不審そうにしていましたが、小学生にナンパされた経験なんて当然あるはずもなく、「面白そうだから」と結局食事まで一緒に付き合ってくれました。

 この成功体験に味をしめた父は、それ以降、何度か同じような手口で僕にナンパさせるようになりました。

 しかし、ある日父は失敗を犯しました。

 とあるファミレスへ行ったときの出来事でした。

 僕たちが食事をしていると、近くの席に綺麗な2人組の女性が座りました。

 父は僕の方を見て「行ってくれ、頼む!」と目で合図を送ってきました。

 今思うと、父はお酒を飲んでいないとシャイな性格だったので、自分から見知らぬ女性に声をかける勇気がなかっただけなのかもしれません。

 僕が声をかけると、女性たちは笑顔で応えてくれました。

 その様子を見て、父はまた絶妙なタイミングで会話に入ろうとしました。

 しかし父は女性と目が合った瞬間「あ……」と言って、固まってしまいました。2人は父の小学校の同級生だったのです。

 父は、同級生の女性から「ナンパに息子を使うなんてありえない!」と説教されていました。父は同級生に叱られてしょんぼりしていました。

 それ以降、父は僕とナンパするのをやめました。

<第7回に続く>