「白井悠介のなんとかなるさ」⑪ついに事務所が決まった！

　アミューズメントメディア総合学院はゲームやアニメ、マンガ、小説などのエンターテインメントを学べる専門学校です。もちろん、声優に特化したコースもあります。

　ぼくが目指したのは、そのなかでも、わずか1年でしっかりと学ぶことのできるコース。しかも、そこに入学することができれば、1年後に複数の声優事務所を招いた大々的なオーディションに参加することができます。そこで認められれば、晴れて「事務所所属」となるわけです。時間がないぼくからすると、それ以外の道は考えられませんでした。

　でも、入学するためには実力査定オーディションをパスしなければいけない。これが最初の関門です。もはや、一か八かでした。ダメだったら、もう諦めるしかないかも……。

　その結果は、なんと見事合格！　首の皮一枚つながった瞬間です。とてもホッとしたことを覚えています。

　でも、安心している場合じゃない。そのコースに通う生徒はレベルが高く、プロ意識も相当なもの。ウカウカしてたら置いていかれちゃう！　今度こそ真面目に授業を受けて、1年後のオーディションで結果を出してみせるんだ！　これまで以上に熱い気持ちを抱いたぼくは、無我夢中で努力を続けました。

　そして1年後。待ちに待ったオーディションの開催です。それを前にして、ぼくはひとつめの専門学校時代のことを思い出していました。

　長野から上京し、同じ夢を持つ仲間たちと切磋琢磨した日々。ときに悔しい想いをすることもあったけれど、2年間走り続けた。それなのに、その集大成となるオーディションを受けず、ぼくはチャンスを棒に振ってしまった。

　そのときは「なんとかなるさ」と楽観視していましたが、正直、後悔することもあったんです。あのオーディションを受けていたら、すでにデビューできていたのかな、と。時間は巻き戻せないからこそつらくて、悔しくて、だから「なんとかなるさ」と自分を誤魔化してしまったのかもしれません。

　でも、今度こそ勝負する。このオーディションで絶対チャンスを掴むんだ！

　オーディション期間は約1カ月。その間、毎日のように複数の声優事務所がアミューズメントメディア総合学院を訪れ、希望する生徒を審査してくれます。まるで就活する大学生のように、ぼくは気になる事務所の審査に挑みました。

　ただし、「オーディション合格」といってもさまざまな形があります。

　養成所生としての合格だった場合は、一から養成所で学び直し、あらためて事務所に所属するための審査を受けなければいけない。さすがにそんな時間もお金もない。だからこそぼくは、ひとりの声優としての合格を狙っていました。本所属じゃなくたっていい。預かり合格や準所属でも構わないから、どこかぼくを拾ってくれ……！

　すると、ある事務所から声がかかりました。そう、いまぼくが所属しているEARLY WINGです。

「準所属という形で、うちに来ませんか？」

　そのひとことは、いまだに忘れられません。準所属であれば、マネージメント対象として扱ってもらえるということ。つまり、声優としてお仕事ができるんです！

　ただし、当時のEARLY WINGはまだできたばかりの事務所で、男性声優がほとんど所属していませんでした。そこで少し迷いが生じます。はたして、このまま所属したところで、男性声優としてのぼくをちゃんと売り出してくれるんだろうか……。

　でも、それは逆にチャンスとも言えます。男性声優が少ないのならば、必然的に若手のぼくが目立つことになるのではないか。むしろ大手の事務所に所属するよりもチャンスに恵まれるかもしれない。ここに入れば、きっと「なんとかなる」。

　ぜひ、よろしくお願いします！

　こうしてぼくは、EARLY WINGとともに声優としての第一歩を踏み出すことになったのでした。いやぁ、よかった。本当によかった。

　さて、次回からはいよいよ白井悠介の「声優デビュー編」がはじまります！

構成協力＝五十嵐 大　写真＝干川 修　スタイリング＝小林かおる　ヘアメイク＝川口愉里恵