ふんを食べ続けて、ふんを出し続ける。スカラベのみごとな食べっぷり/ファーブル先生の昆虫教室③

スポーツ・科学

更新日:2020/7/7

朝日小学生新聞の人気連載「ファーブル先生の昆虫教室」が、1冊の本になりました! たのしいイラストとやさしい文章で、ファーブル先生が昆虫たちのおもしろい生態を教えてくれます。昆虫たちの奥深い世界に、大人も好奇心をくすぐられる児童書です。

『ファーブル先生の昆虫教室』(奥本大三郎:文、やましたこうへい:絵/ポプラ社)

スカラベ⑤ いじわるな実験

 ころころ、いっしょうけんめいふんの玉を転がしていくスカラベのところにもう一度もどってみよう。

 下り坂で玉が勝手に転がっていってしまっても、上り坂で玉がなかなか動かなくなっても、スカラベは平気だ。がんばりやなんだね。いっぽう、どろぼうのスカラベは、ねたふりをして玉にはりついている。あつかましいね。

 そこで私は一つの実験を思いついた。この玉がまったく動かなくなったらスカラベはどうするか、と考えたんだよ。

 調べるのはかんたん。玉にぐさりと針をさし、地面までつき通した。

 さあ、玉はびくともしない。スカラベはどうするか。

「あれ、おかしいな?」

というように、スカラベは、ふんの玉のまわりを調べている。あとでどろぼうになってやろうと、玉にくっついたまま転がされてきたお手伝いのスカラベも、玉が動かないので下に降りてきた。

「何か事故でもあったの?」

 そして持ち主といっしょになって、玉の下を調べているよ。

 2ひきとも、玉の下に頭のへりをスコップのようにさしこんで、ぐいぐいほりさげていく。とうとう玉はぐらぐらゆれ、持ちあげられて、ぽろりとはずれた。大成功! スカラベは意気揚ようと玉を転がしていく。

 でも、「ちょっと待った」と私。

「まだ何か?」

 人間だったら迷惑そうに言うところだけど、もちろんスカラベはもんくなんか言わない。

 今度はもっと長い針をさしてやった。そうかんたんにはぬけないぞ。さあ、どうする。

 スカラベたちはさっきと同じように玉の下に、頭のへりをさしこむけど、今度は針が長いので、いくら背のびをしても玉からぬけないよ。

「では、少しだけサービス」

 私はスカラベのあしの下に平たい石を置いてやった。

 すると、この石をふみ台にしてやっと針がぬけたんだ。でもこれはスカラベの手がらではないよね。

text : Daisaburo Okumoto

スカラベ⑥ スカラベの食べっぷり

 今日はスカラベが、自分の巣穴に運びこんだふんの玉をどうするか見てみよう。

 一度自分の巣穴の中にふんの玉を運びこむと、スカラベは食べること食べること。もりもり、もりもり、玉がなくなるまで、休まず食べつづける。私が時計片手にはかってみると、スカラベの食事はなんと12時間もつづいた。おどろいたなあ! ふんの玉がもっと大きかったら、きっと、もっともっと食べつづけたことだろう。

 なにしろ、ふん玉の材料は、もともと、牛や羊が草を食べて栄養分を吸いとったカスだから、たくさん食べないとスカラベの吸収する栄養がたりないんだ。

 そうやって食べているうちに、スカラベのおしりから黒い針金というか、ひものようなものが出てきたんだよ。

「何だろう、これは?」

 みんなは何だと思う?

 いやいや、食事のあと、おしりから出るものといえば、うんちにきまっているよね。これはスカラベのふんなんだ。もとのふんの玉は食べられてどんどん小さくなっていき、その反対に、黒いひものようなスカラベのふんはどんどんのびていく。

 スカラベはとうとう玉をすっかり食べつくし、そのひものようなふんは、長さが3メートルにもなった。

「ひとつ、スカラベのふんの分量をはかってみよう」と私は考えた。きみたちならどうする?

 そう、精密なはかりがあれば、重さがはかれるよね。でも、それがないときはどうすればいい?

 私は、目盛りのついたビーカーに水を入れ、そこにスカラベのふんのひもを入れてみたんだ。すると、ふんのひもの体積だけ水かさが増す。その分量はスカラベ自身の体積と同じだった。

 つまり、この虫は、ひと晩かかって、自分の体と同じぐらいの分量のふんの玉を食べ、同時に同じぐらいの分量のふんをしたんだ。

 よく食べ、よく出しました。健康健康。すごい大食らいだね。おかげで、牧場はきれいにそうじされ、清潔に保たれているわけだ。

text : Daisaburo Okumoto

<第4回に続く>