成虫でいられるのは2週間ほど。土の中で何年もかけて成長するセミの幼虫たち/ファーブル先生の昆虫教室⑧

スポーツ・科学

公開日:2020/7/10

朝日小学生新聞の人気連載「ファーブル先生の昆虫教室」が、1冊の本になりました! たのしいイラストとやさしい文章で、ファーブル先生が昆虫たちのおもしろい生態を教えてくれます。昆虫たちの奥深い世界に、大人も好奇心をくすぐられる児童書です。

『ファーブル先生の昆虫教室』(奥本大三郎:文、やましたこうへい:絵/ポプラ社)

セミ⑤ セミの卵と羽化

 夏に木の枝に産みつけられたセミの卵は、ひと月ほどすると、白かった色が黄色く変化してくる。そしてさらにひと月ほどすると、卵のはしのほうに、点が二つ見えてくるよ。これが小さなセミの幼虫の目なんだ。

 みんなは生まれたばかりのセミの幼虫を見たことがあるかい? 私は一度見てみたくて、毎年、セミが卵を産みつけた木の枝を調べていたんだ。長い間待っていた私はぐうぜん、その瞬間に出あうことができた。

 ある十月の終わりのことだった。

「あーあ、今年もまたセミの卵がかえるところが見られなかったか」

 私はがっかりしながら、暖炉のそばにセミが卵を産みつけた小枝のたばを積みあげた。するとそのとき、目の前でセミの卵がかえりはじめたじゃないか!

 寒い日に、暖炉の火で急にあたためられたのがよかったんだね。野外だと、太陽の光が当たってこんなふうにあたためられたとき、同じように卵がかえるんだろうね。

 野外では、卵からかえったセミの幼虫はぼとりと地面に落ち、しばらく歩きまわってから、土の中にもぐるんだ。

 幼虫は、地上の寒さからのがれるために、どんどん深く土の中にもぐっていく。深いところは地表とちがって、温度がわりあい安定しているんだ。

 幼虫は土の中で植物の根から汁を吸って大きくなる。でもその汁は栄養分が少ないから、セミが成虫になるまで、何年もかかる。アメリカには17年もかかって成虫になるセミがいるくらいだ。その名もジュウシチネンゼミという。

 夏の夕方、公園や庭で、セミの幼虫が出てくるところを観察してごらん。

 幼虫が木にのぼり、安定した場所を決めると、背中の皮がわれて、中からきれいなうす緑色のセミが出てくるよ。

 やがて羽がのび、体の色が変わって飛びたつまでの変身は、観察するだけの価値はある。すごい大変身だぞ。

text : Daisaburo Okumoto

続きは本書でお楽しみください。