まつもとあつしの電子書籍最前線Part1(前編)ダイヤモンド社の電子書籍作り

更新日:2018/5/15

こんにちは。まつもとあつしです。
電子書籍ブームに沸いた2010年。iPadが5月に発売され、各社から書籍アプリが次々とリリース、出版社や印刷会社がいろんな団体・協議会を作ったり、国内メーカーからも電子書籍が発売されたりしました。

 しかし、正直に告白すると、ではいまわたし自身が電子書籍を買って読む、ということを日常的にやっているか?といえばそれほどやっていません。仕事柄数冊持ち歩くのも珍しくないので、ホントはまるっとデジタルになってくれるとうれしいのですが。
 理由はいろいろ考えられます。画面だと読みづらい、あるストアで買った本は、そのリーダー、その端末でしか読めないなど、紙の本に比べて逆に扱いにくくなってしまっていたり………。

 iPadやKindleが生まれたアメリカよりも、実は日本の方が電子書籍の一人あたり購入金額は大きいというのは有名な話です。でも、そのほとんどはケータイマンガというのが実情です。「本」をデジタルで読むのがあたりまえの時代は、まだやってこないのでしょうか?
いえ、少しずつですが、出版社や著者らによるユニークな取り組みがはじまっています。
電子書籍を生み出す人たち、そのゲンバでどんな「本のミライ」が切り拓かれようとしているのか?その最前線を追いかけます。
ビューワー作りからスタートした電子書籍作り
 
 連載第1回は、「もしドラ」こと『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』や、高田純一氏の『適当日記』を世に出したダイヤモンド社の加藤貞顕氏にお話を伺います。


 

ダイヤモンド社 書籍編集局
加藤貞顕(かとうさだあき)

 
1973年生まれ。大阪大学大学院経済学研究科修了。2000年、アスキー(現:アスキー・メディアワークス)に入社。2005年より現職。『英語耳』 『投資信託にだまされるな!』『スタバではグランデを買え!』『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』などの編集を担当。最近はiPhone/iPad用の電子書籍リーダー「DReader」の開発にも取り組んでいる。
 3月にはNHKでアニメも放送される『もしドラ』は、紙の本が220万部、そして電子書籍が12万ダウンロードを突破しています。『適当日記』も12万ダウンロード、アプリ総合ランキングでも1位を飾るなど好評を博しています。
今回のテーマはずばり「どうしたらこんなに売れる電子書籍が生み出せるのか?」です。
「紙」と「電子」両方の特色を活かすこだわり
 
――「電子書籍なんて大して売れない。手間がかかるだけだ」という意見もあるなか、この2作品をはじめダイヤモンド社ではヒットを次々と生み出しています。その成功要因はいったいどこにあるのでしょうか?
 

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●もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら(岩崎夏海/ダイヤモンド社/App Store) ●適当日記(高田純次/ダイヤモンド社/App Store)

 
加藤:ベースの部分には、電子書籍ビューアー(DReader)を自分たちで作ったところが大きいです。本来電子書籍はビューワーの存在を意識せずに「自然に読める」のが理想的です。けれども、いざそれをさがしたところ満足できるものが見つからなかったんですね。もうこうなったら自分たちで作るしかないな、と。
もう1つは「電子書籍ならではの体験」も提供したかったというのがあります。『適当日記』では脚注がポップアップします。
 

 
また、Wikipediaやgoo辞書で単語を調べたり、マーカーを引いた箇所を一覧表示させることもできるようにしました。
 

 
ビューワーの開発には、「編集者の視点」が入っていることも特徴です。たとえば、倍角のダッシュ(―)、2つ連続で使われることの多いこの記号ですが、当時のビューワーで表示させると、2つの記号の間にすき間が空いてしまうことがありました。編集者としてそれはやっぱり我慢できなかった(笑)。ですので、この記号だけビューワー側で文字間を詰めて表示させる、ということをやっています。そういう「紙の本と同じように文字を組みたい」といったこだわりが盛り込まれているのがDReaderなんです。
 
一方で、紙の本を完全になぞらえた訳ではありません。多くのリーダーでは、ページをめくる操作を、画面をスワイプ(指を左右に滑らせる)ことで行っていましたが、たとえばiPhoneでは600ページ以上ある「もしドラ」のページを次々めくっていくのは大変な「作業」になってしまいます。
 
――たしかに指の皮が薄くなってしまいそうですね(笑)
 
加藤:電子書籍ならこうじゃないだろうって(笑)。ですので、画面をタップするだけでどんどんページをめくれるようにしました。タップの速度を速くするとページがめくれるアニメーションも省略するようになっています。このあたりの工夫は電子書籍ならではの「自然な読みやすさ」を追い求めた結果です。
 
いろいろな電子書籍のレビューをみていると、本の中身以前に「読みにくい」「ビューワーが使いにくい」といったコメントが散見されます。せっかく中身が良い本でもそれではもったいないですよね。本来は読者が意識しなくてもよいビューワー、その使い勝手を高めることで、ようやく「本の中身」の善し悪しで勝負するというスタートラインに立つことができたのかな、と考えています。