資料を速く、正確に読めるようになるには… 時間がかかるのは「読書体験の貧弱さ」が原因だった/「記憶力」と「思考力」を高める読書の技術⑥

文芸・カルチャー

公開日:2020/7/21

忙しい人でも簡単にできる、法律家のすごい読み方を伝授! 木山 泰嗣氏が仕事にも学びにも効く読書法を紹介します。読解力はもちろん、記憶力、思考力のすべてを鍛えることができる著者独自の手法が満載です。

『「記憶力」と「思考力」を高める読書の技術』(木山泰嗣/日本実業出版社)

5 本当の「読書の習慣」の効能

膨大な資料を速くスラスラ読める人の共通点

 先ほどは司法修習生だった当時の話をしましたが、わたしが資料の読み込みに時間がかかりすぎて、かつ正確に読み取ることもできないことの原因が「読書体験の貧弱さ」にあったと気づくのには、それなりに時間もかかりました。

 そのことに気づいたのは、速くスラスラ読める人にコツをたずねたら、「本は読まないの?」とか「本を読む感じで読めば普通に読めるよ」という回答ばかりされたからです。そうした回答をもらうと、わたしは「そうか、自分は本を読んでこなかったよな」「大人になって、いまさら読書をするわけにもいかないし、速読術でもマスターしないと無理かもしれない」「正直、もう手遅れだ」と思いました。

 しかし、弁護士になってから年間400冊以上の読書を継続することで、少しずつですが読むスピードが速くなり、また同時に情報をかなり正確に得られるようになったのです。それがいつからかは覚えていませんが、ある瞬間になったというより、徐々に速く読めるようになり、インプットした情報も正確になっていったと思います。

 こうしていまでは、はじめて読む長い判例でも、カフェでコーヒーを飲みながら、くつろいで、30分もあれば第1審、控訴審、上告審のすべてを読むことができ、しかも事例も論点もポイントもさっとわかってしまうほど、読解力は向上しました。

 その読解力は、読む速さだけでなく、読んだ内容も正確に覚えてしまう記憶力も備えています。学生を相手にしているからかもしれませんが(ただし、社会人の大学院生にも日々多く接しています)、判例を読むスピードも理解度も記憶の正確さも、(わたしのまわりの)誰にも負ける気がしません。それくらい、文章を読んで瞬時に理解する力がいつの間にか身についたのです。

 それは何が原因だったのかと問われれば、それまで自分になかった「読書の習慣」だと、はっきりと断言することができます。

本は速読するものではない

 読書の効能はさまざまあるのですが、このように、小説を読むのが速くなるとか、速読で1日に10冊も読めるとか、そういう眉唾のことではなくて、読書を習慣にしていると、仕事に関する読むべき資料を速く、そして正確に読めるようになるのです。

 わたしは読書については、現在でも〝ゆっくり読む派〟で、特に小説は時間をかけて味わいます。いわゆる速読でビジネス書を何冊も読む、などという意味のわからないことはしませんし、できません。わたしは、「えっ、本を読むときに速読なんて本当にできるのですか?」と、いつも思っている「アンチ速読派」です。

 しかし、読書の効能には、読解力と読むスピードの向上が、たしかにあります。これは、そうした目的のために読書を強制的にすることで得られるものではなく、根気よく、楽しく、ゆっくり読む読書を継続することによって、副次的にしかし確実に得られる読解力だといえます。そこから、「思考力」と「記憶力」が鍛えられることになります。

 ちなみに、「ゆっくり読む」というのは精読を意味します。文の1つひとつにこだわりながら、ときに突っ込みを入れながら、そして面白ければ、何回でも読むことです。それで、その本のいいたいことは「こんなことかなあ」と迫っていくのです。目を小刻みに動かして、瞬時に情報を読み取るような技術ではなく、地道な読み込みを繰り返すイメージです。

<第7回に続く>