速読術はいらない。忙しい人に知ってほしい読書のコツ/「記憶力」と「思考力」を高める読書の技術⑨

文芸・カルチャー

公開日:2020/7/24

忙しい人でも簡単にできる、法律家のすごい読み方を伝授! 木山 泰嗣氏が仕事にも学びにも効く読書法を紹介します。読解力はもちろん、記憶力、思考力のすべてを鍛えることができる著者独自の手法が満載です。

『「記憶力」と「思考力」を高める読書の技術』(木山泰嗣/日本実業出版社)

8 読書量を増やせば速読術はいらない

多くの人が速読術を身につけようとする理由

 タイトルと目次をみて、その後にページをパラパラめくって小見出しを眺めるだけで頭に入るとか、1日に何十冊も読めるようになる、などという速読術は、楽しむ読書には有害でしかないと思います。

 そうした速読術は、リサーチや仕事での資料の読み込みなどでは役に立つでしょう。しかし、自由で気ままにアフタヌーンティーを楽しむような「至福の時間」を過ごす醍醐味がある読書のはずなのに、そのような技術を駆使して必死に読むことに何か意味があるのでしょうか?

 もちろん、人によって評価は分かれると思いますが、少なくともわたしには価値があるとは思えません。特に、物語の深さや文章の妙味に楽しさを覚える小説などについて、こうした技術を適用してその人は何を得ようとするのでしょうか?

 「速読か遅読か」というテーマを扱った読書に関する本の近年の傾向をみると、後者を強調する本が増えていると思います。多くは小説家や作家による主張です。それはそうでしょう。そもそも、小説や物語を紡ぐ書き手が、速読したいと思うはずがないからです。

 それでは、速読術を身につけようとする人は、なぜ本来楽しむ対象である本を速く読もうとするのでしょうか?

 答えは簡単です。多くの人が、読書をしたいけど、時間がない。本を読みたいけど、苦手だという意識があるからでしょう。

忙しい人に知ってほしい読書のコツ

 読書のコツをいうとすれば、速く読むための技術を学ぶのではなく、読みたい本だけを多く読むことだと思います。それを繰り返していれば、前節で述べた理由により、自然と読むスピードは速くなります。

 ただし、「多く読み続ける」という地道な蓄積、つまり長期間にわたり継続的に読書を行う習慣が必要になります。このときに、読者のみなさんが仕事などで忙しいことを前提にすると、読書は決して義務的な作業になってはいけなくて、自由で楽しいものでなければいけません。

<第10回に続く>