「ときには、自分の孤独の世界に入ること」気の休まる時がないSNS時代に必要な考え方/君は君の道をゆけ③

暮らし

公開日:2020/7/30

私たちの心を動かす、哲学者ニーチェの言葉の世界へ。刺激的な言葉の数々を遺したニーチェですが、その中には優しく私たちの背中を押してくれるものも多くあります。「君は君の道をゆけ」と、力を与えてくれるメッセージの中から、厳しくもあたたかい言葉の一部をご紹介します。

『君は君の道をゆけ』(齋藤孝:著、東元俊哉:イラスト/ワニブックス)

のがれよ、
わたしの友よ、
君の孤独のなかへ。

『ツァラトゥストラ』(中公文庫、107ページ)


ときには、自分の孤独の世界に入ること

 他者と付き合うということは、まるで空中ブランコにでも乗っているようなもの。つまり、それだけあやふやで不確かで、疲れることだと思うのです。しかも、人間関係というものは、昭和の頃と比べて確実に、今の時代の方が難しくなっています。

 私は昭和30年代の生まれですが、あの頃は人間関係というものが、よい意味で今より〝雑〞にできていたように思います。そもそも、子どもの数も多いですし、私などは父親が10人兄弟ですから、いとこだけでも30人。人が多くて、とにかくわさわさとしているんですね。

 その頃に比べて、今の時代は一人と一人が出会ったときの緊張感というものがあります。つまり、みんながSNSで繋がっていて、それなりの緊張感を持ち、節度を保って付き合っている。昔なら、何かおかしなことを言ったとしても、次に会ったときにうやむやにして……ということもできましたが、今の時代はSNSで少しでも変なことを言うと、その言葉は半永久的に残り、人間関係がスパッと切れてしまう可能性もあるわけです。

 実際に、これほどSNSが発達してコミュニケーションの量が増えているにもかかわらず、男女の付き合う比率がむしろ減っているのは、どこかで警戒心や緊張感があるからかもしれません。とにかく、疲れてしまう時代なのです。

 そこで、現代を生きる私たちには避難所が必要になります。それはどこかというと、「君の孤独のなか」なのです。そこには誰もおらず、孤独で寂しいけれど、落ち着くような場所なんですね。

 たとえば、絵を描く趣味のある人は、日常で何か嫌なことがあっても、一人で絵を描いていると、自然と孤独の中で落ち着く、というような経験があるかもしれません。ビートたけしさんは、かつてフライデー事件でテレビに出演できなかったとき、ひたすら絵を描いていたといいます。いろいろな思いがあったとは思いますが、一人きりで絵を描き続けていると、心が慰められたというのです。

 傷ついた人は、上手に孤独の中へ逃れるといいと思います。好きな音楽を聴くのもいいでしょう。音楽を聴くときは一人ですから孤独です。その孤独が、一つの避難所、シェルターとなるのです。スマホを充電する短い間でも結構ですから、ぜひ、完全なる孤独の時間をつくってみてください。静かに本を読み、音楽を聴き、その孤独の中で、心の傷んだところを癒やしましょう。

<第4回に続く>