まつもとあつしの電子書籍最前線Part2(前編)赤松健が考える電子コミックの未来

更新日:2018/5/15

PDF版が出せないのはなぜなのか?
 
――その1点とは?
 
赤松:PDF版が今、なかなか「出せない」ということです。(注:取材時点。その後5月1日から「ラブひな」「放課後ウェディング」のPDF版の無料配付を再開)

――「出さない」ではなく「出せない」ということですね?Twitter上では「Jコミが海賊版撲滅のためにPDFを無料配付する、という理念を捨ててしまったのではないか」という懸念もありましたが。
 
赤松:いえ。震災の影響から広告業界全体が自粛状態になっていて、純広を入れなくてはならないPDF版の配付が難しい状況なんです。連休が明けるまでは難しいですよね。アルヌールは純広ではなくネット広告を使っているので、問題無く掲載できていますが。

Twitter上での赤松氏とJコミ利用者とのやりとりはTogetterにまとめられている。
 
――自粛状態とはいえ、年間の広告予算は決まっていますから、どこかのタイミングでまた出稿ということになるはずですけれども、確かに今は難しいというのは分かります。
 
赤松:広告付き無料PDF版は続けるというのが、Jコミの方針です。近日中にこれまでPDFで展開した4作品の再配布をはじめる計画です。すでにかなりの数がダウンロードされた作品ですので、掲載する広告の数は減らしますが。

ただPDF版にはもっと根本的な課題もあります。これまでのβテスト作品のように大量にダウンロードされる、つまり「売れる」作品以外には、広告主がなかなか広告を出したがらないということです。この問題に関しては、「複数作品の広告枠のまとめ売り」によって解決できそうですが、そうなると当然作家の収益は減るでしょう。

Googleと協力する利点とは?
 
――一方で、キーワード連動型で自動で表示されるものであれば、そういった問題は回避できる。
 
赤松:そうですね。作品の内容・ジャンルを問わずに広告が入っていきます。収益は純広よりは劣りますが、それでも万単位にはなることが見えてきました。(筆者注:電子書籍はよほどのヒットとならない限り、作者にもたらされる利益は万単位にも至らないことが多い)実際、作者の方々にも喜んで頂いている、であればこれでも良いのではないか、という意見がJコミの中でもありますね。

わたしとしてはPDFは続けたいし続けるというのは、いま述べたとおりなのですが、広告と作品とのマッチングが非常に大変です。広告主に作品の原稿をチェックしてもらわないといけないし、作者はやはり広告主にあれこれ言われるのは嫌な方が多い。さらに広告の順番を決めているのも私だし、クリック数も報告しなくてはならないし、現状かなりの手間になっています。

その点Googleは、いま我々がやっているそれぞれの先生への銀行振り込みさえも自動でやってくれるコースがあるそうで、凄いの一言です。担当者がついて密に連携を取りながら作業できたのも有り難いですね。

Googleとは広告の掲載基準についても密に協議したと語る赤松氏
 
――Googleは広告掲載サイトには一定の基準を設けていますが、視覚的に過激な表現が含まれるマンガでもAdsence型の広告を表示することができるのでしょうか?
 
赤松:これまでの取り組みでは、該当するページには広告を表示せず、Jコミの自社広告を表示させて回避する仕組みになっています。この判断を結構マメにやっていて、今までに作品が掲載できなかった事例はありません。このあたりもAppleやAmazonのポリシーとは大きくことなる点ですね。

――なるほど、興味深いですね。Googleも「Googleブックス」「Googleエディション」のようなブラウザベースの電子書籍サービスを展開していますから、このJコミでもいろいろと経験値を積みたい、ということなのかも。後編を続きます。後編では、新たに始められた「違法絶版マンガファイル浄化計画」を中心にお話を伺っています。
※後編はこちらから※