【宇垣美里・愛しのショコラ】ウィスキーボンボンは魅力的な悪女への一歩/第7回

小説・エッセイ

更新日:2020/8/12

 甘いものが好きってことは、お酒苦手なの? なんて、時代錯誤なことを言うのはやめてくれ。辛党だから甘いものはちょっとなあ……なんて、あまりにももったいない! そんなことをほざく輩は、黙ってさっさとウイスキーボンボンを口に放り込むがいい。

宇垣美里・愛しのショコラ

 堅い砂糖の殻の周りに薄くコーティングされたチョコレートをぱりんと割れば、洪水のように口の中に溢れるウィスキー。華やかな香りと共にアルコールで喉がカッと燃えるように熱を持つけれど、その後にやってくるとろりと溶けたチョコレートが静かに熱を奪う。

 辛い物と甘い物は交互に食べれば永遠に箸が進むという。であれば、ウイスキーボンボンはひとつで二つを兼ね備えた、まさに永久機関だ。もうひとつ、もうひとつ……と手を伸ばしているうちに、あっという間に夜が明けてしまった。アルコール度数はだいたい3%くらい。酒豪にとっては物足りない数字かもしれないけれど、それでいて口ではじけたその瞬間は、かなりパンチがきいている。甘く見ていたら痛い目にあうだろう。

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 ウィスキーボンボンを食べている時ばかりは、先祖代々酒豪の家系に生まれたことを感謝せざるを得ない。自分の限界を知りたくて、二十歳を過ぎたころに自宅で一人黙々とウイスキーを飲み続けたことがある。わくわくと飲み始めたのはよかったものの、一瓶飲み切るころにはすっかりこの状態に飽きてしまって、ただただ無駄に酒と時間を消費するだけだな、と悟っただけだった。なので正確に自分の限界はまだ知りえていない。周囲のみんなはアルコールが回って楽しそうでも、ひとりだけ素面だったり、かと思えば飲んでも飲んでも顔色が変わらないので、体調が悪くても申告しづらいこともあった。お酒しかり、性格しかり、何事も適度に強いくらいが一番いいのになあ、なんて思う。ちょっと持て余しているのかもしれない。けれど、きっとこの強さは、ウイスキーボンボンを永遠に楽しむためにこそ、神に与えられたものなのだろう。