黙って従うことを尊ぶ文化は、もうやめにしませんか? 青学・原監督流リーダーシップ論/改革する思考こそが、日本を変えられる⑤

ビジネス

公開日:2020/8/5

 大学駅伝3冠、箱根駅伝4連覇など、陸上競技の指導者として、数々の偉業を成し遂げてきた青山学院大学の原晋監督。同氏が異端児と言われながらも貫き通してきたリーダーシップ論を語る。ポストコロナの時代に求められるものとは。

改革する思考
『改革する思考』(原晋/KADOKAWA)

私は空気なんか読みません。絶対に

 一律に行動するということは、一生懸命生きていればあり得ないのです。

 ムードや雰囲気に流されてはいけません。私は「空気を読めよ」という言葉も大嫌いです。

 私は空気なんか読んだことはありません。たとえば、関東学連では監督会議というものが開かれます。監督の発言機会をカウントしていったら、10のうち約半分は私の発言です。他の監督さんたちは、黙っていることが多いのですが、私は黙っていることなんてできない。おかしいと思ったこと、学生のためにならないと思ったことがあれば、躊躇なく発言してきましたし、これからもそれを続けます。発言しない限り、改革などできないからです。

 でも、日本ではこうした態度が好まれないのです。組織に波風を立てる人間というものは……。

 たとえば、経済界でも同じような事例があります。私は常々、株主総会の報道について疑問を持っていました。質問や意見がたくさん出たとなると、「総会は紛糾」という報道がなされます。私は「質問が出ない方がおかしいだろう」と思ってしまいます。ひとつも疑問がないだなんて、そんなことはあり得ない。もしも、数分で株主総会が終わったとしたら、よっぽど風通しのいい会社か、株主がその企業について興味がないかのどちらかでしょう。

 私は、会議自体をぶっ壊そうと思って発言しているのではありません。学生の活動にとって一番いい方法はなにか、それを議論する場だからこそ、発言しているのです。私が異端視されてしまうことが、実は残念でならないのです。

 それでも、私がこうして空気を読むことなく行動しているからこそ、適切な判断が下せるのだと自負しています。まさに、レジリエンス。ふだんから、上からの「要請」に唯々諾々と従っていたら、2020年の上半期にしっかりと活動できたかどうか甚だ疑問です。

 黙って従うことを尊ぶ文化は、もうやめにしませんか?

質の高いフォロワーシップを発揮しよう

 一律、一斉に行動や思考を流されてしまうのは、建設的な「フォロワーシップ」とはとても言えません。

 フォロワーシップとは、組織においてリーダーを支える構成員たちの「生き方」や「あり方」のようなものでしょうか。フォロワーシップというのは、ただただリーダーについていくだけでは実のあるものとはなりません。私が提唱するように、自分が所属している組織、集団を成長させるために常に考え、意見を出し、実行していくことが求められます。

 日本ではフォロワーシップのことが、しっかり理解されていない気がします。リーダーの指示することに素直に従うことがフォロワーシップだと思っていませんか? 大間違いです。もしもリーダーが間違ったらどうします? それでもついていきますか? それで生活が困窮したり、下手をすると命を落とすことだってあるかもしれない。空気を読んでばかりいたら、そうしたことに直面するかもしれません。

 私は青山学院の陸上部ではリーダーですが、より大局に立ってみれば、日本国民であり、東京都民としてはフォロワーでもあるわけです。思考停止していたら、自分が属する集団が間違った方向に進んだ時に気づかないかもしれない。適切なフォロワーシップというものは、自分で考え、そして意見を言うことです。これはクレーマーとは違います。熟考し、建設的な意見を言うことがフォロワーシップの真髄でしょう。そしてフォロワーがしっかりしていれば、リーダーもまた成長することが可能になる。つまり、リーダーには良きフォロワーシップが必要ですし、その逆もまた真なり。

 幸い、私は発言力がある学生たちに囲まれ、リーダーとして結果を残すことができています。たとえば、学生から、「監督、この合宿の意味はどこにあるんですか?」という質問が出てくることは大歓迎です。

 なぜなら、その質問に答えるためには私自身が練習プランや具体的なメソッドについて科学的、論理的に考えなければならず、加えて、学生を説得するためのプレゼンテーション力も磨かなければならないからです。

 指導者は、なにも質問がないことを喜んではダメです。質問、意見がないことを「素直な生徒たちが集まっている」と肯定的に捉えてしまっては、指導者としての成長が止まってしまいます。

 組織として強くなるためには、自分で考え、空気を読まずに発言する人間をどんどん育てなければなりません。

 2020年3月、私が活動の続行を決断したときに、その決定に疑問を呈した学生がいたことで、より深く学生たちの発想に気づくことができました。

 これが本来の教育なんだな、と実感しました。

 教え、教えられ、共に成長する。

 同じような行動様式をとってばかりでは、成長する機会は奪われてしまいます。考えれば、答えは見えてくるのです。

 いま、世界は様々なリスクと向き合っています。ゼロリスクの世の中は存在しません。リーダーは、いや、人間一人ひとりがどうリスクをとるのか、新型コロナウイルスについていえば、どのように共存するかを考える必要があります。

 改革する思考を持って、社会を変えていきませんか? 自分だけが満足するのではなく、他者とのかかわりのなかで、組織をより良いものにしていこうという思いが大切です。そしてそうした発想が習慣化することによって、個人の生活、私たちが住む日常の質が高まっていくはずです。

続きは本書でお楽しみください