キャプテンコラム第5回 「電子書籍の自費出版が100万部突破!〈その②〉/出版界の反撃」

キャプテンコラム

2011/9/5

ダ・ヴィン電子ナビ キャプテン:横里 隆

ぼくたち電子ナビ編集部は学生時代の部活動のようなところがあります。
だから編集長じゃなくてキャプテンなのです。
そしてネットの海を渡る船長という意味も込めて。
みんなの航海の小さな羅針盤になれたらいいなと。
電子書籍のこと、紙の本のこと、ふらふらと風まかせにお話ししていきます。

今回は、「電子書籍の自費出版が100万部突破!」のその先の、出版界の反撃をシミュレートしてみましょう。

前回の最後、出版界の反撃を考えるうえでのヒントになるのは、「日本のケータイ小説」、「ハリウッドのリメイク映画」、「同人誌マーケット」、だと言いました。順番に考えてみたいと思います。


今世紀に入って日本で大流行したケータイ小説は、出版社が作家・作品を生み出していく既存のシステムから逸脱していたという点で、電子書籍の自費出版と共通する点がいくつかあります。マージナルなポジションから生まれてきたがゆえに、その形態も、文体も、構成も、すべてが自由でしたし、書き手はプロの小説家ではなく、多くの場合、素人でした。

初期のヒット作(『Deep Love』など)を除き、十代の女の子が、自分の発信したいものを同世代に向けて書いていくというものでもありました。このあたりの感覚も自費出版に近いものがあるように思います。そして何より、ケータイさえ持っていれば無料で作品が読めるのです。電子書籍の自費出版作品が、キンドルなどのリーダーさえ持っていれば非常に安価で読めるように。
ケータイ小説は大ブームを巻き起こしましたが、当初、出版界の反応は冷ややかなものでした。「あれは文学ではない」「消費されるだけのもので、内容的にも発展性がない」などなど。

しかし、その後いくつかの出版社が、ヒットしたケータイ小説を書籍化し、その書籍の数々が爆発的な売れ行きを示し、ミリオンセラーが連発したのです。(『恋空』、『赤い糸』など)
ここで重要なのは、出版界によるケータイ小説の取り込みが行われたという点です。出版界に取り込まれ、連携したコンテンツは、ドラマ化、映画化などのメディアミックス展開が実現し、更なるヒットとなっていきました。

話を電子書籍の自費出版に戻します。
日本においてケータイ小説が既存の出版システムと連携したように、電子書籍の自費出版についても同様のことが起こりうるのです。ヒットした作品を、凝った装丁で紙の本として出版する会社が出てくるでしょう。

プロの作家ではない、素人の手による作品であった場合は、ベテラン編集者の手によって再編され校正された「完全版」の再リリースが行われる可能性もあります。同じ電子書籍としても、動画や音声などのギミックを付加し、リッチコンテンツとして出し直す会社も出てくるでしょう。

それはまるで、日本や韓国で作られた優良映画の版権をハリウッドが購入し、豪華な予算をかけたハリウッド映画としてリメイクする作業に似ているかもしれません。
その意味では、電子書籍の自費出版システムは、自然発生した膨大なコンテンツの中から、新たな才能や優良コンテンツをリスクなく選別することができ、二次加工側へ供給する機能を持っていると言えるでしょう。

日本に存在する同人誌マーケットも同じような機能を持っています。コミケなどの同人誌マーケットを見たときに、そこでの活動と、プロのマンガ家としての活動を、平行して行っている作家たちが存在します。
同様に、電子書籍の自費出版システムによる刊行と、既存の出版社を通した紙の書籍もしくは電子書籍の刊行を平行して使い分ける作家たちが生まれてくるでしょう。

同人誌の売上だけで十分な収入を得ているサークルやマンガ家たちがいる一方で、コミケをステップとしてプロのマンガ家を目指す人もいます。当然ながら、それをサポートする出版社も多数存在します。

ケータイ小説や同人誌即売会が盛り上がりを見せ始めた当初、そこに出版社は不在でした。不在どころか、出版社はそれぞれの表現形態を否定的に捉えていた時期もありました。
にもかかわらず、日本の出版界は、ケータイ小説も同人誌即売会も、取り込み、連携し、共存していったのです。

その柔軟さこそが出版界の強みだと考えます。

出版界の反撃などと、大仰な見出しを立てましたが、実際のところ、出版界はダウンサイジングしつつも、しぶとく逞しく、電子書籍の自費出版システムや、出版社を必要としないシステムと、抗いながら手を繋ぎ、共存の道を模索していくことでしょう。

それもまたネット社会の「FREE」と「SHARE」を実現する、ひとつのカタチだと思うのです。

(つづく)

※キャプテンコラムは基本、毎週月曜日の12:00に更新予定です。次回、キャプテンコラム第6回は、「海、隔てながら繋ぐもの」の予定です。今回もまた、つたない文章を最後まで読んでくださってありがとうございます。どうかあなたが、日々あたたかな気持ちで過ごされますよう。

よこさと・たかし●1965年愛知県豊川市生まれ。信州大学卒。1988年リクルート入社。94年のダ・ヴィンチ創刊からひたすらダ・ヴィンチ一筋! 2011年3月末で本誌編集長をバトンタッチし、電子部のキャプテンに。いざ、新たな航海へ!

第1回 「やさしい時代に生まれて〈その①〉」
第2回 「やさしい時代に生まれて〈その②〉/やさしい時代における電子書籍とは?」
第3回 「泡とネットとアミノメの世界の中で」
第4回 「電子書籍の自費出版が100万部突破!〈その①〉/メリットとデメリット」
第5回 「電子書籍の自費出版が100万部突破!〈その②〉/出版界の反撃」
第6回 「海、隔てながらつなぐもの」
第7回 「ITユーザー(あなた)は電子書籍の行間を読むか?〈その①〉」
第8回 「ITユーザー(あなた)は電子書籍の行間を読むか?〈その②〉」
第9回 「もしもエジソンが電子書籍を作ったら?〈その①〉」
第10回 「もしもエジソンが電子書籍を作ったら?〈その②〉」
第11回 「大きい100万部と小さい100万部」
第12回 「ぼくがクラシックバレエを習いつづけているわけ」