キャプテンコラム第9回 「もしもエジソンが電子書籍を作ったら?〈その①〉」

2011/9/5

ダ・ヴィン電子ナビ キャプテン:横里 隆

ぼくたち電子ナビ編集部は学生時代の部活動のようなところがあります。
だから編集長じゃなくてキャプテンなのです。
そしてネットの海を渡る船長という意味も込めて。
みんなの航海の小さな羅針盤になれたらいいなと。
電子書籍のこと、紙の本のこと、ふらふらと風まかせにお話ししていきます。

 発明王エジソンの名言「天才とは1%のひらめきと99%の努力である」の正しい意味をご存知でしょうか?

 エジソンといえば誰もが認める発明家です。蓄音機や白熱電球の実用化で有名になった企業家でもあります。そんな彼が残した有名な言葉が「天才とは1%のひらめきと99%の努力である」です。


 誰でも一度は聞いたことのあるこの名言、その意味は「世の中で天才といわれる人ですら、ひらめきは1%に過ぎない。残りの99%は努力して成し遂げたものなのなのだ」というもので、すなわち”努力が大事”的な意味だと、ぼくはずっと思いこんできました。
 ところが、それは誤った解釈だったようなのです。エジソンが意図したのは「どんなに努力しても1%のひらめきがなければ何の役にも立たない」、すなわち”アイデアこそが大切”ということだったらしく、ぼくを含めた世間の一般認識とは真逆の意味だったのです。
 後年、エジソンはこんな事を言いました。「記者によって努力を強調する文章に書きかえられてしまった」と。

 「1%のひらめき」が大切だというのは、ありとあらゆるものに言えることです。それは、商品、表現、もっと言えば人間関係や恋愛にも共通するものです。
 努力だけで作られたありきたりなものは、商品でも、表現でも、恋愛でも、堅実なものではあるかもしれませんが、そこに驚きやトキメキはありません。
 ぼくたちの身のまわりにある「いいなと思うもの」には、必ず何らかの「ひらめき」や「アイデア」が含まれているはずです。エジソンにちなんで、それを「発明」と言ってもいいかもしれません。 
 そのことはもちろん、表現物のひとつである小説やマンガにも言えることです。ゼロからイチを生み出す発明が、まず何よりも大切なのです。
 例えば小説やマンガでいうと、文章力や絵のうまさはある程度「99%の努力」でまかなえるものです(もちろん努力では到底到達できない圧倒的なものもありますが)。どんなに文章が上手くても、絵が巧みでも、そこに発明がなければ読者のココロをつかむことはできません。設定でも、キャラクターでも、ストーリー上のどんでん返しの仕掛けでも、何でもいいのです。優れた作品には他にはない突出した発明があるはずです。

 もうちょっと詳しく例をあげてみましょう。
 敬愛してやまない小説家の夢枕獏さんの代表作のひとつ、『サイコダイバーシリーズ』におけるサイコダイブという行為と、空海のミイラにサイコダイブするという設定は、まさに発明でした。
 サイコダイブとは、機械を用いて人の精神の中にダイビングして精神的治療を行ったり隠れた記憶情報の探索を行うというもので、その道のプロであるサイコダイバーたちが活躍するという内容も斬新でした。最近でこそ、ハリウッド映画などで似た設定の作品も増えましたが……。
 獏さんにお話をうかがった際に教えていただいたのですが、「最初は、誰も登ったことのない世界で一番高い山に登頂する話を書きたいと思ったんです」とのことでした。自らも山登りをされ、山岳小説も書かれる獏さんならではの発想です。獏さんは続けられました「ただ、実際の世界一の山、エベレストはもう何度も登頂されてしまっている。だったら、人の心の中にある想像上の山で、エベレストを超えるほどの圧倒的に高い山を、その人の心の中に入り込んで征服する話にしようと。その山は人の精神状況の変化によって吹雪になったり雪崩が起こったりする。おもしろいでしょ。そう考えるうち〈登る〉が〈潜る〉に変わってサイコダイバーになっていったんです」と。
 作家が魅力的なコンテンツを生み出す際に、試行錯誤しながら発明に至る道筋が、とてもよくわかるエピソードでした。ゆえに感銘を受けたのをよく覚えています。

 最近のヒット作、小説では『告白』『八日目の蝉』『もしドラ』、マンガでは『GANTZ』『進撃の巨人』『聖☆おにいさん』、アニメでは『魔法少女まどか☆マギカ』『あの花』などなど、それぞれ発明といえるものが核になっています。
 それが何なのか考えてみるのも、また、あなたがおもしろいと思った作品の中に込められた発明を探してみるのも、本やコンテンツの楽しみ方のひとつではないでしょうか。

 さて、次回は電子書籍における発明についてお話ししたいと思います。ときにぼくたちは、「クリエイティブな発明によってもたらされるよろこび」と「機能としての便利さからもたらされるよろこび」とを混同しがちだと思うのです。次はそういうお話を。
 
 ではでは。

(第10回につづく)
 
 
※キャプテンコラムは基本、毎週月曜日の12:00に更新します。次回、キャプテンコラム第10回は8月15日(月)の12:00にアップする予定です。よろしければぜひまたお越しください。今回もまた、つたない文章を最後まで読んでくださってありがとうございます。どうかあなたが、日々あたたかな気持ちで過ごされますよう。

 
よこさと・たかし●1965年愛知県豊川市生まれ。信州大学卒。1988年リクルート入社。94年のダ・ヴィンチ創刊からひたすらダ・ヴィンチ一筋! 2011年3月末で本誌編集長をバトンタッチし、電子部のキャプテンに。いざ、新たな航海へ!

第1回 「やさしい時代に生まれて〈その①〉」
第2回 「やさしい時代に生まれて〈その②〉/やさしい時代における電子書籍とは?」
第3回 「泡とネットとアミノメの世界の中で」
第4回 「電子書籍の自費出版が100万部突破!〈その①〉/メリットとデメリット」
第5回 「電子書籍の自費出版が100万部突破!〈その②〉/出版界の反撃」
第6回 「海、隔てながらつなぐもの」
第7回 「ITユーザー(あなた)は電子書籍の行間を読むか?〈その①〉」
第8回 「ITユーザー(あなた)は電子書籍の行間を読むか?〈その②〉」
第9回 「もしもエジソンが電子書籍を作ったら?〈その①〉」
第10回 「もしもエジソンが電子書籍を作ったら?〈その②〉」
第11回 「大きい100万部と小さい100万部」
第12回 「ぼくがクラシックバレエを習いつづけているわけ」