キャプテンコラム第10回 「もしもエジソンが電子書籍を作ったら?〈その②〉」

更新日:2011/10/17

ダ・ヴィン電子ナビ キャプテン:横里 隆

ぼくたち電子ナビ編集部は学生時代の部活動のようなところがあります。
だから編集長じゃなくてキャプテンなのです。
そしてネットの海を渡る船長という意味も込めて。
みんなの航海の小さな羅針盤になれたらいいなと。
電子書籍のこと、紙の本のこと、ふらふらと風まかせにお話ししていきます。

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 前回は、発明王エジソンの名言「天才とは1%のひらめきと99%の努力である」の本来の意味を説明しました。

 エジソンが意図したのは「どんなに努力しても1%のひらめきがなければ何の役にも立たない」、すなわち”アイデアこそが大切”ということだったと。
 そして、同様にどのような表現であろうと商品であろうと「1%の発明」が必要だということを。
 そのつづきで今回は、電子書籍における「発明」についてお話ししたいと思います。


 みなさんもご存知のように、電子書籍は紙の本と異なって多様な機能を備えることが可能です。画像や動画を添付したり、音を付加したり、不特定多数の人たちと一緒に読書体験を共有(ソーシャルリーディング)したり。
 そうなると、多機能であることが電子書籍における発明であるように思ってしまいがちです。でも、それは発明ではなくて「便利な機能」なのではないでしょうか。
 エジソンの言葉を借りれば、便利な機能は「99%の努力」のほうに属するものだと思うのです。制作者がコストや時間や人的パワーをかけて一生懸命がんばれば実現できるものですから。もちろんそれもまた大切なことなのですが、発明ではありません。
 ぼくたちはよく、「クリエイティブな発明によってもたらされるよろこび」と「最新テクノロジーによる便利な機能によってもたらされるよろこび」とを混同しがちだと思うのです。確かに両者は重なっているところもあります。最新テクノロジーの開発段階では発明も数多く成されることでしょう。ただ、前者がコンテンツの中身に関する発明であるのに対して、後者はコンテンツを形にする際の発明なのです。それは紙の本における印刷技術や製本技術に近いものと言えるでしょう。

 とくに電子書籍はデバイス(読書端末)が多機能であるがゆえに、容易にその機能に頼ってしまうことができます。そして本来なら新しい表現が必要とする「ひらめき」や「発明」をないがしろにしてしまう危険性もあるのです。
 「がんばって音も付けてみた」とか、「がんばって動画も付けてみた」とか、「がんばってSNSと連携させてみた」とか。
 がんばることはいいことですが、やっぱりそれは「努力」の領域だと思うのです。エジソンが見たら「がんばってはいるけれど努力で作られたもので、ひらめきも発明も入っていないよね」と言うかもしれません。

 では、もしもエジソンが電子書籍を作ったらどのようなものを作るでしょうか?

 ぼく自身まったく天才でもなんでもないのでエジソンがどのような作品を作るかなんてとても想像できませんが、ぼくたちが主催した「ダ・ヴィンチ電子書籍アワード2011」で入賞した作品の中にヒントはあると思います。
 読者賞に選ばれた『ママ、読んで!おやすみ前のおとえほん』は、絵本に母親の朗読音声を吹き込むことができるようになっており、それを子どもたちに楽しんでもらおうという作品でした。審査員のひとりとして選考に参加していたぼくは、これは画期的な発明だと衝撃を受けました。
 多くの電子書籍で音や音声を活用した作品は多数存在しましたが、そのほとんどは制作者サイドが演出して録音し、コンテンツに付加しているものでした。そんな中で『ママ、読んで!おやすみ前のおとえほん』はユーザーに自らの朗読音声を録音させるという発想の転換(=アイデア、ひらめき)によって作られた作品でした。
 単なる発想の転換だけではなく、「親から子への読み聞かせ」という伝統と意義の深い行為を最新テクノロジーによってカタチにしたものでした。録音される音声には母親から子どもへの溢れる思いが込められるのです。

 これはすごいことです。ユーザーの愛情をコンテンツの要(かなめ)としてパッケージングして完成する書籍などかつてあったでしょうか。子そもにとっては世界で唯一無二の宝物の本となるのです。この電子書籍の最大の発明はそこにあったと思います。
 勝手な妄想ですが、こんなこともあるかもしれません。母親を病気や事故でうしなった子どもの手元に『ママ、読んで!おやすみ前のおとえほん』が残されるということも。彼らは、読み聞かせしてくれる母親のやわらかな声を、そこに込められた思いとともに何度でも何度でも反芻(はんすう)することができるのです。
 派手な機能や演出はなくとも、明確な発明が芯にある電子書籍は、人々の生活や人生に深く関わり、影響を及ぼしていくと思うのです。
 もしもエジソンが電子書籍を作ったら、きっとそんな作品を創作したのではないでしょうか。

 電子書籍は、まだ生まれたばかりのメディアです。これからどのように花開いていくのか予測はできませんが、ぜひ、たくさんの「1%のひらめき」と、たくさんの「99%の努力」によって百花繚乱のときを迎えられるようにと、切に願っているのです。

(第10回・了)
 
 
※キャプテンコラムは基本、毎週月曜日の12:00に更新します。次回、キャプテンコラム第11回は8月22日(月)の12:00にアップする予定です。 よろしければぜひまたお越しください。今回もまた、つたない文章を最後まで読んでくださってありがとうございます。どうかあなたが、日々あたたかな気持ち で過ごされますよう。

よこさと・たかし●1965年愛知県豊川市生まれ。信州大学卒。1988年リクルート入社。94年のダ・ヴィンチ創刊からひたすらダ・ヴィンチ一筋! 2011年3月末で本誌編集長をバトンタッチし、電子部のキャプテンに。いざ、新たな航海へ!

第1回 「やさしい時代に生まれて〈その①〉」
第2回 「やさしい時代に生まれて〈その②〉/やさしい時代における電子書籍とは?」
第3回 「泡とネットとアミノメの世界の中で」
第4回 「電子書籍の自費出版が100万部突破!〈その①〉/メリットとデメリット」
第5回 「電子書籍の自費出版が100万部突破!〈その②〉/出版界の反撃」
第6回 「海、隔てながらつなぐもの」
第7回 「ITユーザー(あなた)は電子書籍の行間を読むか?〈その①〉」
第8回 「ITユーザー(あなた)は電子書籍の行間を読むか?〈その②〉」
第9回 「もしもエジソンが電子書籍を作ったら?〈その①〉」
第10回 「もしもエジソンが電子書籍を作ったら?〈その②〉」
第11回 「大きい100万部と小さい100万部」
第12回 「ぼくがクラシックバレエを習いつづけているわけ」