まつもとあつしの電子書籍最前線Part4(前編)電子本棚『ブクログ』と電子出版『パブー』からみる新しい読書の形

更新日:2018/5/15

電子書籍に興味を持っている方なら「ブクログ」あるいは「パブー」という名前をどこかで聞いたことがあるはずです。いずれも、渋谷に本社を置く株式会社paperboy&co.が展開するサービス。前者は読書好きの人が便利に使えるネット上の本棚、後者はBLOG感覚で本を書いたり、販売することができるサービスになっています。
 

昨年の電子書籍ブームで、関連サービスをスタートさせたプレイヤーは多いものの、読者向け・作者向け両方のサービスを一手に行う会社は多くはありません。その狙いは何なのか、また将来に向けてどんな展望を持っているのか、2つのサービスを主導する吉田健吾取締役副社長に詳しく話を聞きました。

吉田健吾(株式会社paperboy&co.取締役副社長 ブクログ・パブー プロデューサー)●1998年同志社大学商学部卒業。応用通信電業株式会社を経て2004年、「ロリポップ!」などの個人向けインターネットサービスを運営するpaperboy&co.に入社。ブックレビューコミュニティ「ブクログ」、電子書籍作成・販売プラットフォーム「パブー」を企画・プロデュース。
――paperboy&co.ではブクログとパブー2つのサービスがありますが、今、世の中的によく知られているのは、ブクログということで、よろしいでしょうか?

吉田:そうですね。実際のユーザー数ではブクログのほうが多いですね。もう7年ぐらいやっているサービスなので。パブーはまだ1年ぐらいです。
ただ、ここ1年ぐらいのメディア露出でいうと、パブーのほうが、取り上げていただくことが多くなってきています。とはいえ、まだ、基本的な認知ということでいうと、ブクログのほうが、たぶんあるのかなという感じですね。

――ではブクログについてまず、お話しを伺えればと思います。7年というとネットサービスの歴史としては長い方だと思いますが、どういう経緯で生まれたサービスなのでしょうか?
 

web本棚サービス「ブクログ」
 
吉田:ブクログが生まれたのは2004年9月でした。2004年というと、paperboy&co.が東京に本社を移し節目となる年です。

 福岡に主軸のサービスであるロリポップと、ムームードメインという、ドメインとサーバのサービスをそのまま残して出てきて、東京で新規事業をどんどんやっていこうという、ちょうどそういう、タイミングだったんです。

 SNSのキヌガサですとか、今は畳んでしまったものも幾つかありますが、この時期にかなり色々なものを立ち上げました。ブログサービスJUGEMを始めたのもこの頃でしたね。

 当時は家入(創業者の家入一真氏)が個人的に、いろんなものを作ったりしていました。僕と家入が話をしていて、ネット上に自分の本棚を作れたら面白いんじゃないか、というお話をしていて。読んだ本とかをもともと「見せびらかす」イメージで考えていたんです。

 ですから、あんまり「管理」という側面は、そんなに考えていなくて。「俺、こんな本読んでるんだぜ」というようなのを――。

――すごいだろう、みたいな。

吉田:そんな風にまずは見せるというようなところで、最初は話をしていて。ああ、おもしろそうだねっていって、気がついたら、家入が作って持ってきていたという。作ったよ、みたいな。

――完全に、個人で作られた?

吉田:そうです。できたよって言われたんで、びっくりしましたね。

電子書籍元年から1年。本棚サービスに集まる注目。
 
――先日のブックフェアでは、本棚サービスが花盛りでした。

参考:ブックフェア2011リポート「電子書籍はハードボイルドなミライを迎えるか」 ?
 
吉田:そうでしたね。

――しかし、2004年の時点ですでに、シンプルなコンシューマーが使いやすい本棚としてブクログが登場していたというのは興味深いお話しです。

吉田:いまになって競合のようなサービスはいくつか、日本国内にも登場しています。北米でもDelicious Libraryですとか、Amazonに買収されたところも含めて、いくつかあったんです。そんな中、電子書籍ブームがやってきて、そのインターフェイスが本棚をベースにしているものが多いんですね。

MyBooksもそうですし。やはり本棚というのは、長年慣れ親しんだ、見た目としても非常にわかりやすいインターフェイスなのかなというのは、最近もよく思うところですね。

――ネット記事などもクリッピングできるメディアマーカーも人気がありますが、やっぱり本棚、そこに本が並んでいるということが、単純にわかりすい。

シンプルだがソーシャル志向を持った本棚
 
――非常にわかりやすいサービスではありますが、実際に使ってみると意外と奥深いことに気づかされます。改めてダ・ヴィンチ電子部の読者に機能を簡単にご紹介いただければ。

吉田:現在、PCのブラウザでお使いいただく他に、Mac専用のアプリ、iPhone・iPadアプリ、Androidアプリという、各種プラットフォームのアプリを用意しています。それぞれで多少インターフェイスは違うんですけれども、基本的には本を検索するか、バーコードを読み取るかして、本を指定し、登録をしていくという流れになっています。
 



(左)アプリ内では書籍の検索やバーコードで情報が読み込める (右)本棚には、検索した本を並べることができる
 
 登録する際に、レビューを書いたりですとか、あとはその本の中の気に入った一節を引用して、書いておくことができます。

 星マーク5つでつけるレーティングをしてもらったりですとか。あと、カテゴリーとかタブですね。ユーザーが分類ができるような機能を備えています。

――あと、私が使っていて、すごくいいなと思うのが、TwitterやFacebookと連携してそういった情報を自動的に投稿できる点ですね。

吉田:はい。Twitterとmixi、Facebookと連携しています。

本を本棚に登録した時、レビューを書いた時といった具合に、タイミングは選んでいただけるようになっています。設定をしておけば、自動的に登録しましたというのが、流れていくような感じなので。

フォロワーの立場からは、○○さん、この本登録したんだなといって、おもしろそうだなと感じていただいて、そこから交流が始まったり、実際にその人も本を手に入れたりする。そういったことが、ソーシャルメディアを通じて発生すればいいなというイメージで用意した機能です。

――最初は当然なくて、昨年のTwitterブームなどを受けて、拡張されていかれたわけですよね?

吉田:そうですね。Twitterはけっこう早い段階で連携しました。Facebookは割と最近です。

――家入さんが個人で作られ、paperboy&co.さんのほうで随時バージョンアップを続けている。

吉田:そうですね。家入は個人でサービスを始めたんですけれども、ユーザーさんも気がついたら増えていて、ユーザーさんの要望ですとか、あとは不具合の報告ですとか、そういったものを含めて、ユーザーさんからの声に、なかなかお応えできなくなっていてですね。家入も仕事ですとか、paperboy&co.以外の会社も始めていたと思いますので、かなり多忙になっていたのですね。

 これでは申し訳ないということで。ちゃんと本腰を入れられるようにということで、話し合いをしまして、2009年にpaperboy&coが引き受けることになりました。

――譲渡自体はけっこう最近ですね。

吉田:2009年の10月ですね。そのタイミングで、専属のプログラマーとデザイナーもつけて、リニューアルをして再スタートを切ったという感じですね。

版元のPRの場としてのブクログ
 
――それまではブクログって、知る人ぞ知るというイメージがあったんですけど。2009年頃から、かなりコンシューマー向けに転換した印象があります。

吉田:そうですね。家入が個人でやっていた間については、ほとんどユーザー個人のツールとして、お使いいただくっていうことしか考えていなかったというのが正直なところだと思います。純粋に蔵書管理、読書管理として使われていて。ブログパーツも提供していたので、BLOGでたまに見かけるという感じだったのではないでしょうか?

 サービスを引き受けて、会社で事業としてやることを考えた時、事業性をどこに置くか?ビジネスモデルをどうするか?という話になった時に、これは版元さんに対して、プロモーションの場所としても、使っていただけるようにしていこうというふうに、内部的には大きく方針を変更したんです。

しかし、インターネット上には本のプロモーションの媒体・場所・手段というのは、あまりないということは、その当時、いろいろ調べる中で、気がついたんですね。Amazonのランキングで、本を上位に上げるために、順位が更新される30分刻みぐらいのタイミングに合わせて、自ら本を買うといった、技術はあるようなんですけれども。

本好きの人がよく見る媒体というと、コミックナタリーさんですとか、まんたんウェブさんですとか。マンガ方面は、そこそこあるのかなという感じなんですが。書籍になると、たぶん新聞社系の、紙の新聞でもある、書評欄のWeb版みたいなところか・・・いわゆるネット「媒体」って、無いなということに気づきました。

 当時は20万人ぐらいユーザーさんがいて、かなりレビューも溜まっていたので、これをうまく活用しようと思いました。つまり、レビューをほかの人がもっと、見に来て、じゃあ自分も、これ読んでみようというふうな――ありていに言えば、ソーシャルな関係性というのをもっと、出していきたいと考えたんですね。

そういった購買のスパイラルが生まれる場を、版元さん向けのプロモーションの場所として、お使いいただこうということで、広告エージェントとしての企画をいろいろ考えてくことを、リニューアルのタイミングから始めました。

そのあたりからは、献本企画をはじめ、いくつか版元さんとご一緒させていただくものが増え、結果、ブクログとしてもリリースを打ちましたので、みなさんの目に触れる機会が増えたと思います。

――mixiにも本を紹介する「お気に入り」という機能がありましたが、他のサービス同様、自動的にAmazonへのアフィリエイトリンクが設定され、そのアフィリエイト収入は、サービス事業者のほうに入ってくる、つまりユーザーには還元されないという作りになっていることが多かったと思うんですけど、ブクログは、ちゃんとユーザー個人に入るように設計されています。(注:Amazonのアフィリエイトプログラムへの参加が必要)

そういうところにも、事業のメインを本のプロモーションに特化されていることがよく現れていると感じました。

吉田:そうですね。アフィリエイト収入も、多少あるにはあるんですが、事業としてどんどん拡大ができるものかといったら、そうではないと考えています。

そこを目指して、大きくしていくというのは、限界があるなと思ったので。そこはそれとして、あればよいなという、ベーシックインカムではないですけど。すでにもうある程度計算ができるものとして考えて、そこはそれとして……という感じですね。

それよりも、その時点では全然なかった版元さんからプロモーション広告費を頂けるような媒体に、メディアに育てていこうというようなイメージでしたね。

――当時、他に事例が無かったということで、版元さんの開拓・営業には苦労は無かったのでしょうか?

吉田:そうですね。ポリシーを変更したあとは、ブクログも含めてpaperboy&co.には営業担当の人間がいなくてですね……。窓口となる人間はいたので、広告代理店さんとお話ししますし、版元さんから問い合わせがあれば答えることはしていたのですが、こちらから営業に行くということは、実は全然出来ていなくて。

たまたまブクログをお使いいただいているユーザーさんで、出版社の方たちが、たとえば河出書房さんの営業担当の方が、ブクログをお使いいただいていて、逆にあちらから「こんなのできますか?」とご相談を頂いたり、という形でした。
 

河出書房から出版された島本理生さんの『あられもない祈り』のプロモーション企画。読者の発売前の作品を読んでもらい感想を募った
 
したがって、最初は知り合いづてで拡がっていった感じですね。我々は広告商品としてブクログをどう開発していけば良いのか?何をやったらいいのか?なかなかわからなくて、手探りの状態だったので。

ご相談できる間柄で試行錯誤しながら企画を開発して、広告商品として出来上がったら、次の展開を考えようという。そういった感じでしたね。