「超エリートご主人様」が「塩対応メイド」のご機嫌取りに右往左往!? 今までなかった奮闘ラブコメ

マンガ

公開日:2020/11/6

『メイドの岸さん』(柏木香乃/講談社)
『メイドの岸さん』(柏木香乃/講談社)

 相手に対してスマートかつ細かな気配りなどを巡らす“神対応”に対し、冷たく無愛想な態度で相手と接するのが“塩対応”。この2つの言葉は、どちらとも某有名アイドルグループの握手会で広まったものだそうだ。神対応は「神ゲー」「神曲」など「神〇〇」という一連の言葉の延長線で生まれたのはなんとなくわかるが、「弱い」「つまらない」などという格闘技界の隠語「しょっぱい」から転じて塩対応という言葉は誕生したそうだ。今回調べながらその経緯について初めて知ったが、塩対応という言葉を作った人のセンスはなんだかスゴい。さて、今回は神対応…ではなく、塩対応でありながら華麗に対応するメイドさんを喜ばせたいと、エリート家系のご主人様が奮闘する、柏木香乃先生の『メイドの岸さん』(講談社)をご紹介!

超エリートのご主人をフォローするメイドさんは、とても不愛想!?

 早瀬貴一朗。彼は日本有数の名家・早瀬一族の次期当主。数々のグループ企業を束ね、25歳にして兆を超える総資産を持ち、政界・財界の重鎮も一目置くような超エリート男子だ。家柄、人柄、人脈、そしてルックス、全てにおいて非の打ち所がない絶対的完璧マンには、唯一の欠点があった――それは、身の回りのことを人の手を借りないとできないほど“生活力”が著しく低いこと。カバンを渡そうとすれば、上下逆さまにして書類を撒き散らすくらい救いようのないドジを踏み、自らを“ポンコツ”と認めていた。

 そんな残念な欠点を持つ彼を華麗にフォローしてくれる人物がいた。早瀬家で働く、メイドの岸さんだ。その働きっぷりはとても優秀すぎて、貴一朗にとって彼女なしの生活は考えられないくらい大切な存在となっていた。

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 そんな超エリートがすがるほどに頼るメイドの岸さんだが、貴一朗は彼女に関して気になることがあった。それは、「岸さんの笑顔を見たことがない」ということ。貴一朗が岸さんに何か尋ねるとき、彼女は無表情で無愛想な態度、いわゆる“塩対応”での受け答えしかしたことがない。このことに、貴一朗は「呆れられてしまっているのでは…?」と、メイドの離職という最悪の状況も含めて危機感を抱いていた。そこで彼は、岸さんをさまざまな方法で喜ばせ、信頼を回復させようと試みる。果たして、貴一朗の嫌な予感は当たってしまうのか、もしくは岸さんが喜んで笑顔を見せてくれるのか――ポンコツな一面を回復しようと奮闘する貴一朗の長く甘い日々が始まるのであった!

 完成されている主人とメイドとしての関係性、そして、仕事上の相性も最高だということは全編を通して読んで感じとれる。岸さんが無表情ということもあって、貴一朗には彼女の心の中が読めないため、その仲はアンバランスなように感じるが、貴一朗の不足部分を岸さんが見事にフォローすることで素晴らしいバランスをとっている。岸さんの“塩対応”は、単純にコミュニケーションに関してだけで、実は、“神対応”の女神なのだ。

「~っス」といった口調で淡々と素っ気なく話すのが特徴の岸さんだが、貴一朗が健気に喜ばせようと奮闘する姿に対する、岸さんが“わずかに”見せるリアクション。これが本作最大の見どころのひとつであり、今後の物語展開の重要なポイント。これに読み手はニヤッとしちゃうはず!

 プレゼントを渡してみたり、日頃のフォローっぷりを褒めたりと、貴一朗が不器用ながら岸さんへ仕掛けるさまざまな作戦は、岸さんの目にどう映り、心はどう動いていくのか。貴一朗目線、あるいは岸さん目線、とそれぞれの視点で本作を読み進めていくと、一層お互いの“想いのギャップ”に悶え楽しめるだろう。

 ありきたりなメイドものとはちょっと違う、ポンコツ主人と無愛想メイドの不器用でもどかしいラブコメディをぜひ味わっていただきたい。


文・手書きPOP=はりまりょう