見方を変えれば、世界は違って見えてくる。人生の試練に直面したときは…/頭を「からっぽ」にするレッスン④

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更新日:2021/6/28

ビル・ゲイツも絶賛! 読みながら実践できる「瞑想」と「マインドフルネス」の入門書です。毎日10分間、頭を「からっぽ」にする時間を作ってストレスを解消しましょう。誰でも簡単に実践できる心のエクササイズ「10分間瞑想」をご紹介します。

頭を「からっぽ」にするレッスン 10分間瞑想でマインドフルに生きる
『頭を「からっぽ」にするレッスン 10分間瞑想でマインドフルに生きる』(アンディ・プディコム:著、満園真木:訳/辰巳出版)

視点の転換で世界は違って見えてくる

 インドを旅している時、ジョシという男性に出会いました。ある日私がバスを待っていると話しかけてきたのですが、ひと目で好感を覚えるような人物でした。インドに行ったことのある人ならおわかりでしょうが、バスが来るまでかなり長く待たされることもあります。まして山間部ではそうです。私たちはうまが合い、いくつかお互いに共通の興味もあることがわかりました。その最たるものが瞑想でした。それから数週間というもの、私とジョシはさらにいろいろな話をしました。お互いの身の上話もしました。ジョシは毎日少しずつ、これまでの人生のことを語ってくれました。

 私たちが出会う数年前、ジョシは妻と4人の子どもに囲まれて暮らしていました。さらに、夫婦のお互いの両親もそれほど裕福ではなかったので、一緒に同居していました。家が狭くて窮屈ではあったけれど、それでもとても幸せだった、とジョシは言います。しかし、4人目の子どもが生まれてまもなく、仕事に復帰した妻が交通事故で死亡するという悲劇が襲いました。生まれたばかりの赤ん坊と妻の両親も同じ車に乗っていました。ひどい事故で、生存者はいなかったといいます。ジョシがこの話をしてくれた時のことを思い出すと、今でも涙が浮かんできます。耐えがたい苦しみに、ジョシは現実と向き合うことができず、ただ自分の殻の中に閉じこもっていたかったそうです。けれども、両親に言われて思い出したのです。自分にはまだ面倒をみてやらなければならない3人の子どもがいて、子どもたちには父親がそばにいてやることが何よりも必要だと。そこでジョシは子どもたちの世話に没頭し、精一杯の愛情を注ぎました。

 数か月後、モンスーンの季節がやってきました。それとともに、ジョシの住む地方は洪水で水につかってしまいました。水はなかなか引かず、そのせいで病気が大流行しました。村の多くの子どもとともに、ジョシの子どもたちも重い病気にかかりました。ジョシの母親も病に倒れました。2週間のうちに、3人の子どもと母親が死にました。もともと弱っていた母親の死は早く、子どもたちはもう少しもちこたえたものの、病気にうち勝つことはできませんでした。たった3か月のうちに、ジョシは妻、母親、子ども、義父母をなくし、残る肉親は父親ひとりだけになってしまいました。あまりにも多くの悲劇を経験した家にそのまま住み続けることはできず、ジョシは友だちの家に移りました。父親は愛着のある故郷の家を離れられず、そこに残りました。引っ越してから数日もしないうちに、家が火事になったという知らせがジョシのもとに届きました。父親は家の中にいたようだといいます。それが事故だったのか、父が耐えきれなくなってしまったのか、今でもわからないとジョシは言いました。

 話を聞いているうちに、だんだん自分が恥ずかしくなりました。いつでもものごとを思い通りにしようとして、望み通りにならないと不満で、愚痴を言ったり嘆いたり文句を言ってばかりの自分が。列車が遅れたとか、夜中に起こされたとか、友だちと意見が合わないくらいのことで、何をそんなにカリカリしていたのでしょう。目の前にいる人物は、想像を絶する苦しみを味わいながら、なお驚くほど穏やかで落ち着いているというのに。家族を失った後のことを尋ねると、ジョシはこの新たな土地にやってきたいきさつを話してくれました。家族も家も金もなくして、人生に対する考え方がまったく変わらざるをえなかったといいます。最終的に、彼は瞑想所で暮らし、そこでほとんどの時間を過ごすことを選びました。瞑想することによって、過去のできごとに対する感じ方が変わったか、と私は尋ねました。感じ方は変わらない、でもそれらを感じる体験が変わった、と彼は答えました。今でもときどき大きな喪失感や悲しみを感じることはあるが、そのことの受け止め方が変わった、それらの考えや感情の下に、安らぎや穏やかさや落ち着きのある場所を見つけた、というのです。それは決して自分から奪うことのできない唯一のものであり、この先の人生でどんなことが起ころうと、自分の中にはつねにこの戻る場所がある、と彼は言いました。

 これは極端な例かもしれませんが、私たちの誰もが、必ず人生の試練にぶつかります。あんなふうにならなければ、もっと違っていたらと願わずにはいられない状況を(ジョシほど悲惨なものではなくとも)必ず経験します。瞑想はそれを変えられません。ほかのどんなものでもそれは変えられません。人間とはそういうもので、この世界に生きるとはそういうことです。時には、外部の状況によって変わることを求められたり、強いられることがあります。あなたはその状況をマインドフルネスで乗り切らなければなりません。しかし、そのような状況についてあなたがどう考え、感じるかについては、まず経験を形作るのが心そのものだということに気づくのが出発点です。だからこそ心のトレーニングが大切なのです。世界の見方を変えれば、実質的に自分のまわりの世界が変わるのです。

 この点はよく誤解されていて、瞑想するためには人生の夢や目標を諦めなければならないと感じている人がいるようです。けれどもまったくそんなことはありません。何かをなしとげようと努力するのは人間の本能であり、人生において目指すべきものや目的意識をもつことは不可欠です。むしろ、瞑想にはその目標を明確化し、後押しする効果があります。なぜなら、実際にやってみればはっきりわかるように、これらに頼らなくても持続的な幸福感が得られ、「からっぽ」を感じられるからです。そのため、より自由に、楽に生きられるようになります。自分が人生で向かっている場所に自信をもてて、予想外の障害や好ましくない結果に傷ついたり落ち込んだりすることがあっても、それに過度にとらわれなくなります。これはかすかではあっても、とても意味のある視点の転換なのです。

<第5回に続く>

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