まつもとあつしの電子書籍最前線Part4(後編)電子本棚『ブクログ』と電子出版『パブー』からみる新しい読書の形

更新日:2018/5/15

電子書籍でコンテンツは変わるのか?
 
――たしかに時代劇とかで、こうやって(両手で巻物を拡げて、読み進めながら)、巻物の厚みで、あとどれぐらいかわかるっていう感じですよね――なるほど、おもしろいですね。

中身自体は、けっこう変わってくるんでしょうか。つまり、自費出版で原稿用紙に向かうのと、ブログっていう、横書きのWeb上のインターフェイスで、作品の内容は影響を受けるのでしょうか?

吉田:そうですね。従来の作品と同じように、よくできているなあと思います。マンガにしても、小説やその、文字のテキストの作品にしても、おそらく、ローカルで、テキストのものだったら、Wordかテキストエディタで書かれているだろうなというものが多いですし。

マンガの場合は、コミスタ(マンガ制作ソフトのコミックススタジオ)だったり、フォトショップで描かれて、画像を出力しているものが多いので。いまのところ、まだパブーは、制作というより、発表の場所という感じになっていますね。

よくできているものについては、やはり、今までもそういう作り方をずっとしてきている人の、新しい発表の場所という形で使っていただいているので。

――なるほど。

吉田:パブーのなかでの作り方というのは、たぶんまだ、ユーザーさんもそんなに慣れていないですし、新しい作られかたというのも、まだそんなに発見されていないというか。

――そうですか。なんか、マンガ見ていると、うまく表現できないんですけれど、何かが違うというか。違うというのは、その、ペラペラめくっていくマンガと、こう受ける印象が違うんですけど。なんだろうっていうのが、ちょっと自分では、よくわかってなくて。もし、何か、感覚をお持ちであればと思ったりしたんですけども。

吉田:たぶんそれでいうと、パブーとか電子書籍っていうものが、わあわあ言われる前から、Webマンガっていう、ジャンルが。

――ありましたね。

吉田:Webマンガのジャンルの作品と、今、パブーに出ている作品には、近いところあるかなという感じはします。Webマンガだとやっぱり、見開きを使わないですし。

――そうですね。

吉田:1枚。1ページずつの展開で進んでいく。いわば紙芝居的に進んでいくような感じになっていて、そのへんのテンポは紙のマンガとはちょっと違うのかなという感じはしますね。

気になる版元との関係
 
――先ほどお話しにあったようにブクログは、出版社さんの宣伝媒体として成立しつつあります。一方でパブーは、言ってみれば、作家の掘り起こしのような場にもなるのかなと思います。もともとそういった機能を担っていた出版社とは、競合関係にはならないんでしょうか?

吉田:出版社のみなさんがどう思っているか、ちょっとわからないんですけど、僕らは全然そうは考えていないですね。

ただ作家の方、マンガ家さんとか、個人の方が、自分ですぐにやりたいということでいうと、紙はやっぱりスピードが遅い。準備もやっぱり必要ですし、読者の手に渡るまでに時間がかかります。

先日のウメさんが公開した『スティーブズ』っていう、スティーブ・ジョブスをマンガ化したやつがあるんですけれども。あれも、出そうって思い立ったのが夜中で、次の日の朝ぐらいに、もう公開をして、その日1日で何千ダウンロードされて、とものすごくスピーディーだったと、うめさんがこないだ仰っていたんですけど。
 


うめさんの作品『スティーブズ』
 
そういったスパンの短いものは電子で出して、ゆっくり時間をかけてというものは、紙でという棲み分けが生まれていくのではないかと。たぶん、しばらくそのまま続くのかなと思っています。

向き、不向きもあると思うんですね。文芸作品のようなものは、紙のほうが、ハードカバーで重厚に作って、本そのものの質感自体が体験になっていると思うんですね。そちらのほうがたぶんよい体験を読者さんに与えると思いますし。

もう少し、ライトなマンガだったり、R25のような小さい単位の記事、コンテンツ――Webのコンテンツに近いものですね――というのは、電子のほうが早くて、向いているのかな、と思っていて。

――パブーからメジャーデビューされた方はいるんでしょうか?最近、音楽の世界でも、メジャーデビューって、本当に価値があるのか。みたいな議論もあったりしますけれど。

吉田:いや、まだいないんじゃないですかね。

向かうはコラボ、本のニコニコ動画
 
――今後の展望についてお伺いします。パブーがどう成長されていこうとしているのか。今の電子書籍にはさまざまな問題点もありますが、それとどう向き合おうとしているのかなどをお聞かせください。

吉田:そうですね。パブーの今後の目標というか、目指すところとしては、やはり、インディーズ作家の人達が、自由に作品を発表できて、それが売買されて、売れて次の作品につなげられるという、そんなサイクルをたくさん作りたいですね。小さいサイクルの人も方もいれば、大きいサイクルの方もいらっしゃると思うんですけれども。

そういういろんな売買がなされて、なかでは無料もあっていいんですけれども、「読んで読まれて」というサイクルが、グルグルグルグル、たくさん回るような場所にしたいと思っています。

そのためには、ここで読む必然性といいますか、ここしかないコンテンツというのは、その必然性の1つだと思っています。すぐ読めるということですとか。

あとは、もうちょっと、読む側と、書く側のコミュニケーション量を増やしたいなと思っています。やっぱり、作者さんとユーザーさん、読者さんが直接つながれることっていうのは、大きなメリットというか。いままでになかったことだと思うんですね。

携帯小説では、そのへんやっぱり顕著で。読者さんと著者がコメント欄でやりとりして、「じゃあ、こっちにもっていくか」とかそういうコミュニケーションが当たり前に行われている。

そんなふうに、パブーのなかで作品が育つという形になっていくのが、ベストだなと思っていいます。もちろん直接的にコメントで、作品の内容が左右されるということ自体がベストという訳ではなく、それも一例としていろんな展開があるべきだと考えていますが。

あとは、パブーの中で、共同作業というのができていくような感じになっていけば、一番おもしろいのかなと思っています。コラボレーションができるとかですね。

――そうですね。ニコニコ動画のように、私、文字書く、ぼくは絵を描くみたいなこともあるんでしょうか?

吉田:パブーの中で、その情報交換の場所を提供できてないんですが、Twitterなんかで、そういうのを募って、じゃあやります、という動きは出てきてますね。

あとは、先日の震災のあとに、チャリティの機能を出したんですけれども。チャリティ作品として、合同誌といいますか、合版といいますか、大勢で参加をされて、という作品がけっこう増えたんですね。

その場合にも、パブーでこういう本を出すんで、参加される、たとえばマンガの作品でしたら、マンガ家の方、いらっしゃいますか、という呼びかけをされて。で、50人ぐらいが参加した本を出されたんです。そういったこともけっこうありました。

そのあたりを、現状、ユーザーさんが、自分でTwitterで呼びかけをして、自分で集めて、ということをされているんですけど。そこを補助できるような機能ですとか、ユーザーさんが個別に作ったものを、組み合わせて作品にできるとかですね。雑誌とかムックみたいなもの。そういうことができれば、おもしろいかなと思っていて。

今はなんでも独りでできる作家さんで、成り立っているところなんですが、今後は絵はそんなにうまくないんだけど、企画があって、これをやろうとか。編集者の方とか、企画の方とかですね。そういうような立場の人との共同作業の場所へと発展させていきたいなと思っています。

インターネットのよいところの1つは、距離を超えられるところです。会ったこともない人と、一緒に作品を作るとか。そういったところまで発展させていければ……。

――Pixivで活躍しているような人が、絵を描いて、本文は、そういうストーリーがうまい人が作って、パブーで発表して、じゃあ、ニコニコ動画で映像化しましょうとかね。そんな流れになったら、楽しいですよね。

吉田:そうですね、ブクログ共々発展させていきたいと思います。

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■第3回「村上龍が描く電子書籍の未来とは?」(前編)(後編)
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