釣り少年だった子どもの頃から「その日の答え」を探していた/杉田陽平の「妄想力が世界を変える」②

文芸・カルチャー

更新日:2020/11/16

杉田陽平
撮影:江森康之

『バチェロレッテ』では最後のふたりまで選ばれ、“杉ちゃん”の愛称で視聴者から人気を集めた杉田陽平さん。番組最終回後のアフタートークでは改めて告白をするなど、バチェロレッテへの愛の強さを見せつけた。

 男性陣にとっては強敵、視聴者にとっては唯一無二の癒しの存在、そんな杉田陽平さんのパーソナリティを深掘りする連載が開始。第2回からは、幼少期にさかのぼります。子どもの頃の彼の釣りとの格闘は、いまにつながるものがありました。

答えがないものを考えることが好きだった

 街中に落ちているコーヒーの缶を見て、そこにあった物語を想像してしまう……そんな杉田さんの感性はいつ頃から開花していたのか。それは幼少期までさかのぼる。

「僕、子どもの頃から答えのないものを考えることが好きだったんですよね」

 そのひとつの例として「釣り」を挙げる。

「いまでも釣りが好きでよくするんですけど、小さい頃は三重の田舎に住んでいたので、近くに池や川があっていつでも釣りに行けたんです。そうすると、僕はただ釣りに行くだけじゃなくて、もっと魚のことを知りたいって思うようになった。魚の気持ちになりたい、って」

 そこで彼がたどり着いたのは、魚たちが食いつく「ルアー」だった。

「自然と自分で木を削ってルアーを作るようになりました。たとえばその川の魚を釣りたいと思ったときに、まずその魚が何を食べているのか調べる。もしそれが小魚なら、その種類をどれくらい食べてるのかまで採取して調査する。そしてそれそっくりに木を削ってルアーを作るんです。そこで僕は考えます。元気に飛び跳ねているより、弱っている方が食いつきやすいんじゃないか、って。その仮説をもとに弱っている小魚のようにして、釣ってみるんです」

釣れると、だんだんと欲が出てくる

 杉田さんは「まあ、ほぼほぼ当たらないんですけどね」と笑う。魚は頭がよくて、すぐに見破ってしまう。しかし、彼はそこで諦めない。

「魚は頭がいいですから、いたちごっこなんですよね。とにかく仮説を立てて何度も挑戦する。作ったルアーがなかなかうまく浮かないことも多いのですが、そしたら家に帰って重りを前や後ろに移動させて調整してみる。そういえば最近は雨が降っていて弱ったセミが池に落ちて、それを魚が食べていた。そしたらセミの形にしてみよう、とかね。そうしているうちに、いつしか釣れるようになってくるんです。

 でも、そうすると、今度はどんどん欲が出てきます。ビギナーのときは、いかに魚が釣れるかなんです。それはリサーチしていけば釣れるもの。友達にも『こんなに綺麗に餌を再現したらそりゃあ釣れるよ』って言われてしまうわけです。じゃあ、どうすれば一番リスペクトされるのか。それは、一見魚が全く食べなそうなルアーで魚を釣ることです。鉛筆型とかね。

 そうやって魚をうまく騙せるようになったときに、やっと本当に魚の気持ちが知れた気になるんです。とにかく釣りは、季節や場所、性別、産卵期かどうかなどで食べるものはまるで違うし、いつでもシミュレーションをして仮説を立てて、具現化して、ズレをなくしていくことが大切です。そして検証して次に活かしていく。答えは当然ないけど、追いかけていく。その日の答えを追いかけていく。それを小さい頃からずっと繰り返していたんです」

親へのプレゼンが今も活きている

『バチェロレッテ』の番組内では、杉田さんが家族に挨拶するシーンや、家族との団欒シーンも映された。彼は自身の両親について、こう語る。

「うちの親は、どちらかというと厳格な人です。かたくて、ちょっと保守的。だから、たとえばルアーを作るために軽い木が欲しいんだけど、それが隣町まで行かないと買えないときはなんとか交渉しないといけなかった。当然『どうしてヒノキじゃダメなの?』とか聞かれるわけです。ただ、そこでどうしても、とお願いすればちゃんと買ってくれる両親だったので、そこはすごくありがたかったですね」

 幼い頃の彼は、策士でもあった。

「たとえば、高価な針が欲しいと言えば、やっぱり『ホームセンターで売っている安い針でいいじゃん』って言われるわけです。そのときに、この池に住んでる魚はこういう魚で、こういう大きさのものを食べている。安い針だと太すぎて目立ってしまうから、魚が警戒して食べてくれないんだ。食べてくれないと、僕はそのことで頭がいっぱいになってしまう。そうしたらテスト勉強もおろそかになって、成績もあがらないんだ、って子どもながらに親を口説き落としていました。もう、詐欺師ですよね(笑)。でも、今振り返ってみると、それが作品のプレゼンテーションに活きていたりするから面白いわけです」

<第3回につづく>