文章を書くのは苦労の連続だが、この上なく楽しい作業。誰もが本を書けるシステムを公開!/書くことについて①

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公開日:2020/12/10

「文章を書く」とは、「自分の考えを伝える。意見を言う。主張を述べる」ことに尽きる。長年にわたりベストセラーを多数書き上げた作家・野口悠紀雄氏が、自らの「書くことについて」を解き明かした新時代の文章読本。「日々の継続」を「驚くべき成果」に変える文章法がここに…!

書くことについて
『書くことについて』(野口悠紀雄/KADOKAWA)

はじめに――誰もが本を書ける

苦労の連続だが「この上なく楽しい」作業

 私は、2019年には書籍を9点刊行しました。そして、現在ウエブ連載を5本書いています(うち4本は毎週、1本は隔週)。これは、ずいぶん大変な作業だとお考えの方が多いでしょう。

 しかし、決して大変ではありません。

 本書で提案する方式を用いれば、どんな人でも(つまり文章を書く才能に恵まれていると自覚しない人でも)、この程度の分量の文章を書くことができます。

 本書で紹介するのは、私自身が行なっていることの説明です。

 このシステムは、きわめて有効に機能しています。この方法に従えば、確実に、記事や書籍を書くことができます。

「あまり苦労せずに書ける」といいたいところですが、実際には、作業は苦労の連続です。「大変な作業ではない」といったのに「苦労の連続」というのは、矛盾していると思われるかもしれません。しかし、矛盾ではありません。なぜなら、本書が提案している方法に従えば、苦労はあるけれども、間違いなく成果を得ることができるからです。それが重要な点です。

 もう1つ重要なことは、本を書く作業が楽しいものになることです。「文章を書く作業は苦労の連続だ」といったのに「楽しい」とは、ずいぶん混乱していると思われるかもしれません。しかし、決してそうではないのです。

 自分の考えが1つの体系にまとめ上げられていくのを体験するのは、とても楽しいものです。さらに、それが書籍などの形で公開されて、多くの人々の目に触れるだろうと考えると、もっと楽しくなります。

 ここで述べているのは、昔から多くの人が無意識的に行なってきたことです。

 それをIT(情報通信技術)、とくにクラウド技術の助けを借り、また、音声認識というAI(人工知能)の力を用いて行なう仕組みに組み上げていることがポイントです。

 この仕組みの本質は、多くの人がこれまでやってきたことです。それを新しい技術の助けを借りて明示的な仕組みとすることによって、「アイディア製造工場」といってもよいようなシステムを作ることが可能になるのです。

 これによって、魔法のように本を書き上げることができるようになりました。

これまでの文章読本には「最も重要な点」が抜けていた

 これまで多くの「文章読本」が書かれてきました。本書がそれらと違うのは、「テーマをいかにして探し出すか?」、「アイディアを逃さずに保存するにはどうしたらよいか?」、「それらを組み上げていくには、どのようにするか?」といった作業を重視していることです。そして、それらについて、具体的な仕組みを提案していることです。

 多くの文章読本は、文章をいかに正しく、読みやすく、印象に残るように書くかを論じています。これらは重要なことです。実際、本書でも第6章でこれを論じています。

 しかし、こうした注意は、何もないところから始めて文章を書き上げていくためのアドバイスではありません。これは、文章が目の前にあり、それを改良する場合の注意です。こうした注意に従うだけでは、そもそも最初の文章ができません。

 編集者や校閲者の立場からすると、それでもよいでしょう。しかし、著者の立場からすると、もちろんこれでは不十分なのです。

 何もないところに文章を書くには、まず書くテーマを見いだす必要があります。そして、それに関して浮かんでくるアイディアを逃さずに捉え、それを成長させていくことが必要です。

 ところが、多くの文章読本は、こうした点について親切なアドバイスはしてくれません。「一番重要な点が抜けている」といわざるをえないのです。

 これまでの文章読本は、文章のスタイルに重きを置きすぎました。しかし、何よりもまず、中身が必要なのです。本書では、これを「アイディア」という言葉で表現しています。これこそが重要なのであり、文章のスタイルや表現方法はその後の問題です。

「創作ノート」の現代版を作る

 本書が提案する「アイディア製造工場」は、作家の創作ノートのようなものです。

 これまで多くの作家が「創作ノート」というものを作ってきました。いまでは、最新の情報技術を用いて、強力な「創作ノート」を作ることができます。

 これまでは頭の中だけでやっていた操作を、かなりの程度、PC(パソコン)やスマートフォンでの操作として行なうことが可能になっています。まさに、工場と呼んでも大袈裟ではない状況になってきているのです。「植物工場」というものはすでにあるのですから、「アイディア製造工場」があっても、少しもおかしくありません。

 外から入ってくる情報や、頭の中で生まれるアイディアをうまく保存し、整理し、関連付けて新しい体系を作り上げ、書籍・論文などに仕上げていく。これが、アイディア製造工場の目的です。

 まずテーマを探し出します。さまざまなことが頭に浮かんでくるでしょうが、そのうち何が考察に値するものかを判断する必要があります。これが、本書の第2章で述べていることです。

 テーマが決まったら、それに関連するデータや資料を集めます。それと並行してさまざまなアイディアをうまく捉えそれを整理していく仕組みを作ります。これが、第3章と第4章で述べていることです。そしてそれらを組み上げていきます。これが第5章で述べていることです。さらに文章を推敲し、分かりやすく力強いものになるようにします。これが第6章の内容です。

 第7章と第8章では、こうした作業を支えるための環境作りについて述べています。

主要な内容は3つ

 本書の主要な内容は、つぎの3つです。

(1)クリエイティング・バイ・ドゥーイング
「とにかく始める」のが重要なので、そのための仕組みを提案します(第2章の2)

(2)アイディア農場
 アイディアを迷子にせず、育てるための仕組みを提案します(第4章の2)

(3)多層構造で本を書く
 アイディアの基礎単位を積み上げて書籍にします(第5章)

 これらによって何ができるのか、これまでの仕事のやり方に比べてどこが優れているのかについて、各章で述べています。

本を書くのは特殊な人の仕事ではない

 本書で提案している方法は、広い応用範囲を持つものです。したがって、本を書くこと以外にも使えます。

 例えば、会社で新しい事業計画を考える場合に利用可能でしょう。会議のための報告書の作成にも有用です。議事録を作るのにも役立ちます。

 上司から与えられていた問題に対しての解決アイディアや、会議で行なう予定のプレゼンテーションのメモなどは、多くのビジネスパーソンが日常的に作成していることでしょう。そうした作業に対しても、本書の方法論は役に立ちます。

 また、本を書くのは、「著述業」とか「作家」と呼ばれる一部の人たちだけが行なうことではありません。もっと多くの人が本を書くべきです。

 自分史を書くのもよいでしょう。あるいは、家族史を書いたらどうでしょう? ウエブに文章を発表するのは、いまではきわめて容易になっています。こうした機会をぜひ活用すべきです。

学ぶための最強の方法は「本を書く」こと

 学ぶための最強の方法は、人に教えることです。とくに、独学の場合がそうです。

 勉強している人であれば、「本を書く」のは、勉強を進めるための手段だと考えてください。これは、『「超」独学法』(KADOKAWA、2018年、第6章の5)で述べたことです。

 いまでは、教えるために、教壇に立つ必要はありません。自分で本を書けばよいのです。

 具体的には、ブログに「○○講座」といったページを作るのがよいでしょう。例えば、公認会計士の試験を受けるために会計学を勉強しているのであれば、簿記講座を作ります。

 これは、人に教えるという形式をとっていますが、実際のところは、自分が勉強するための手段です。

 

 本書の刊行にあたっては、企画の段階から、株式会社KADOKAWAの伊藤直樹氏にお世話になりました。また、大川朋子氏、黒田剛氏にお世話になりました。何回ものブレインストーミングを通じて、大変有益なアドバイスと示唆をいただきました。ブレインストーミングには、noteの玉置敬大氏にもご参加いただき、アドバイスをいただきました。これらの方々に御礼申し上げます。

 本書の第7章で述べているブレインストーミングは、この方々との実際のブレインストーミングの経験を紹介したものです。

 2020年10月

 野口悠紀雄

<第2回に続く>