テーマを見いだす第一歩は「仕事を始める」!? ただ始めるじゃない“始めやすい”仕掛けを解説/書くことについて⑧

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公開日:2020/12/17

「文章を書く」とは、「自分の考えを伝える。意見を言う。主張を述べる」ことに尽きる。長年にわたりベストセラーを多数書き上げた作家・野口悠紀雄氏が、自らの「書くことについて」を解き明かした新時代の文章読本。「日々の継続」を「驚くべき成果」に変える文章法がここに…!

書くことについて
『書くことについて』(野口悠紀雄/KADOKAWA)

2.クリエイティング・バイ・ドゥーイング

テーマを見つけるには「考え抜く」しかない

 では、どうしたら、「適切なテーマ」や「よい質問」を見いだせるでしょうか?

 テーマは何もしないでいるときに天から降ってくるものではありません。また、テーマ探しをやれば必ず見つかるというわけでもありません。「ボタンを押せば適切なテーマが示される機械」などというものも、ないのです。

 よいテーマを見つけるためには、「つねにテーマ探しを意識し、さまざまな情報を捉え、考えに考え抜く」ということしかありません。

 探して探して、探し続けるのです。「2階の窓から飛び降りたくなるほど」探さなくてはならないのです。

「たくさんの情報を収集すればテーマが見つかる」というわけでもありません。あまりに大量の情報を集めれば、情報洪水に飲み込まれて、方向を見失ってしまうでしょう。

仕事を続けていればテーマが見つかる

 2002年に『「超」文章法』を書いたときには、「テーマの発見は8割の重要性を占めているにもかかわらず、明確な方法を見いだすことができない。具体的な方法はない」と書きました。

 では、この問題については、全く答えがないのでしょうか?

 実は、この点について、私の考えは変わりました。以下でそれについて述べます。

 テーマを見いだすための最も確実な方法は、「仕事を続けること」です。仕事を続けていると、その中から新しい疑問が生じ、新しいテーマが見つかるのです。

 これを「クリエイティング・バイ・ドゥーイング」ということにしましょう。

「ラーニング・バイ・ドゥーイング」ということがいわれますが、知的生産においては、「クリエイティング・バイ・ドゥーイング」が重要なことです。これは、「仕事をしながら創り出す」ということです。アイディアの多くは、仕事がある程度進んだところで出てくるのです。

 テーマも同じです。「テーマ探しをやって適切なテーマを探し当て、それから仕事を始めて進めて完成させる」ということは、滅多にありません。

 そうではなく、「何かのテーマで仕事を始めていろいろ調べたところ、別のもっと適切なテーマがあると分かり、実はそれが本当の金鉱であることを見いだし、テーマをそれに変更して仕事を進める」という場合のほうが多いのです。つまり、テーマも、試行錯誤でしか見いだせない場合が多いのです。

とにかく仕事を始めること

 したがって、必要なのは、「とにかく始める」ことです。準備ができてから始めるのでなく、準備がなくとも始めるのです。

 多くの人は、テーマが見つかってから動きます。その順序を逆転させることが必要なのです。「とにかく何か書いてみる」、「すると成長する」。このことを、私は、毎日実感しています。

 仕事の中で一番難しいのは、出発することです。出発すれば進みます。そして完成します。

 多くの人は、テーマが見つからないから始めないのですが、そう簡単にテーマが見つかるはずはありません。そして、仕事を始めないと、そのことに頭が向きません。しかし、仕事をとにかく始めることなら、誰にでもできます。

「クリエイティング・バイ・ドゥーイング」は、本書が提案する最も重要なノウハウの1つです。そして、本書は、ただ「始めよ」というのでなく、そのための仕掛けを、以下のように提案しています。

思いついたことを音声入力で書き留める

「仕事をとにかく始めることなら、誰にでもできる」といいました。しかし、しばらく前までは、PCで作業をする場合においても、「仕事を始める」ことに対して一定の障壁がありました。

「仕事を始めよう!」と決心して机に向かって座り、PCの電源を入れるという作業が必要だからです。現実には、たったこれだけのことが大きな障壁になるのです。

 しかし、現在では、この障壁が非常に低くなっています。スマートフォンを取り出し、メモのページを開き、音声入力でとにかく何かを話してみる。それだけの操作でテキストファイルの原稿ができます。これに関して、後で述べるようなさまざまな仕組みを構築していくことが可能です。思いついたアイディアを逃さないようにする仕組み、そして、そうしたアイディアを育てていく仕組み、それらのアイディアをまとめて組み上げ、構成していく仕組みです。これらについてこれから述べます。

 ただ、これらの整備は徐々に行なえばよいことで、とにかくこの第1歩を踏み出すことが創造活動で最も重要なことなのです。

 そうした中で最も重要なのは、「まず何かを書く」ということです。そのための重要な手段が音声入力です。

 仕事を始めていれば、朝起きたときに何か考えが浮かぶはずです。思いついたことを音声入力でメモします。

 昨日、人と会って話したことを思い出してみましょう。そこに何かよいアイディアが潜んでいないか? 昨日読んだ本で、何か手がかりになることはなかったか?

 このようにして思いついたことをすぐに記入できるように、スマートフォンを枕元に置いておきます。

 朝食のときに新聞を読んでいる人も多いでしょう。何か意見をいいたい記事を探します。そして、その記事に対する意見や感想を書いておきます。

 仕事が一段落して立ち上がるとき、アイディアが浮かぶ場合も多いでしょう。

グーグルドキュメントを強く推奨

「とにかく始める」方法として、「スマートフォンのメモのページに音声入力する」と述べました。「とにかく始める」方法は、これ以外にもあります。思いついたことを書き留める方法としては、紙片やメモ用紙、あるいはノートに書き留めるという方法もあります。

 これらのどれを用いてもよいのですが、いつでもどこでも書くことができ、そこから成長させられるという点から、スマートフォンを用いてグーグルドキュメントに書くことを強く推奨します。その際に音声認識を用いることも強く推奨します。

 メモ用紙やノートなどに書き留めたメモは、そこから成長させることが、できなくはないのですが、効率的にはできません。デジタルな形態になっていても、PCというローカルな端末に保存しているのでは、それを成長させていくことが難しいのです。

 アイディアを成長させるためには、文書がデジタル情報の形で書かれており、しかも、それがクラウドに保存されていることが必要です。そうでないと、以下に述べる仕組みはうまく機能しません。ただし、ごく最近では、AI(人工知能)のパタン認識能力が向上してきたので、手書きのメモなどについても、それをデジタル化して処理することが可能になってきました。これについては、第3章で述べます。

どうしたら成長させられるか

 浮かんだアイディアをすぐにキャッチできる仕組みを作った後で必要なのは、それらのアイディアが成長できるような仕組みを作ることです。

 これが第4章で述べる「アイディア農場」です。

 このために、第1章で述べた多層ファイリングの仕組みが重要な役割を果たします。ここで書き留めたアイディアからさらに新しいテーマを見いだしていきます。

 全体の体系を作り上げてしまうと、アイディアが出やすくなります。

 第5章で述べるような方法で全体の体系ができあがってくると、抜けている部分などについて、新しい考えが出てきます。この場合は、その考えをどこにはめ込むかがはっきりしているので、新しいアイディアを書き留めることは簡単です。それとこれまで書いたところとの反応で、さらに新しい発展が期待できるでしょう。

 これによって、「それまで続けていた作業がまた最初から始まる」ということもあります。

 モノを製造する現実の工場では、ベルトコンベアに乗って一方向に工程が進みますが、アイディアを作る工場では、「行ったり来たり、逆戻りしたり」といった過程が頻繁に生じるのです。これが、アイディア製造工場とモノを製造する工場との大きな違いです。

 こうしたメカニズムを活用するためにも、「とにかく仕事を始める」ことが重要です。そして、仕事を始めれば、仕事は完成します。

<第9回に続く>