テーマ発見器に似た“質問ジェネレーター”とは? 文章完成までの流れを図式でわかりやすく解説!/書くことについて⑨

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公開日:2020/12/18

「文章を書く」とは、「自分の考えを伝える。意見を言う。主張を述べる」ことに尽きる。長年にわたりベストセラーを多数書き上げた作家・野口悠紀雄氏が、自らの「書くことについて」を解き明かした新時代の文章読本。「日々の継続」を「驚くべき成果」に変える文章法がここに…!

書くことについて
『書くことについて』(野口悠紀雄/KADOKAWA)

3.質問ジェネレーター

異質な考えに接する

「仕事をしながらテーマを見いだす」と述べました。ただし、テーマを見いだす方法は、それだけではありません。テーマ発見器はありませんが、その近似物を作ることはできます。以下に述べる「質問ジェネレーター」がそれです。

 この方法の要点は、異質な考えに接する機会を作り出すことです。自分1人の考えに閉じこもっていては、質問はなかなか出てきません。質問は、異質な考えに接することによって出てくるのです。その具体的方法を以下に述べます。

本を読んで著者に質問する

 異質な考えに接するために最も効率的なのは、本を読むことです。

 そして、そこに述べられている考えに対して質問をすることです。もっといえば、そこで述べられている考えに反論することです。それによって問題を掴むことができます。

 これは、普通考えられている読書法とは異質なものです。多くの人は、本から教えを受けようとしています。つまり、著者から知識や考え方を学ぼうというのです。

 しかし、ここで推奨している方法は、そうした受け身の読書ではなく、もっと積極的なものです。最初から喧嘩腰で本に臨むのです。本に対して批判的な態度で接し、異議を唱えようとするのです。

 私は、アメリカで大学院の学生として勉強していたとき、図書館の本を読んでいて、「この考えは間違っているのではないか?」といった類の書き込みがあるのを見て、大変興味深く思いました。考えてみると、昔から、多くの人が本に書き込みをしていました。

 なお、カレントトピックス(時事問題)については、新聞や雑誌の記事について、同様のことを行なうことができます。

講義とブレインストーミング

 異質な考えに接するためのもう1つの方法は、講義をすること、あるいは研究会のような集まりで発表することです。ここでの質問から、新しい発想が出てきます。

 私は、新型コロナウイルスの感染拡大で集会ができなくなるまで、毎月1回、特別講義と称して公開講義を行なってきたのですが、この大きな目的は質問を出してもらうことでした。

 あるいは、ブレインストーミングを行なって自分の考えを出し、それに対して質問をしてもらうことが考えられます。能力の高い人たちとのブレインストーミングなら、多くを期待することができます。ブレインストーミングについては、第7章で詳しく述べることとします。

メモと対話する

 対話のメモを見直すことも有用です。他の人の考えに接すれば質問が出てきます。こうしたメモには、手書きのものが多いでしょう。これらは、写真に撮り、データベース化します。

 自分のメモを後から見ることは、しばしば有用です。状況が変わってその問題を新しい観点から、つまり、別人のような視点で、見ることができるからです。

 何週間も前のメモを見て、「こんなによいことを考えていたのか!」と自分で感心することもあります。そうしたものが見つかると、貴重な玉手箱を持っているような気持ちになります。ここで提案しているシステムは、昔から作家が書いていた「創作ノート」と同じものですが、AI(音声入力)とクラウド管理(グーグルドキュメント)によって、遥かに強力な仕組みになっているのです。これは、自分自身との対話、です。これをグーグルドキュメントのコメント機能の活用で進められます(第4章)。

私は質問をたくさん持っている

 私は質問をたくさん持っています。私が最も恐れるのは質問がなくなってしまうことですが、当面は恐れることはありません。質問が次々に湧き出してくるからです。本章の2で述べたように、仕事を進めていることが、問題を捉えるための最強の方法です。

 私は、子供の頃から、疑問を持ち続けてきました。例えば、つぎのようなことです。

 分数の割り算は、分子と分母を逆にして掛ければよいのはなぜか?

 夜が暗いのはなぜか? 星は無数にあるのだから、不思議なことだ。「宇宙が膨張しているからだ」という答えを知ったのは、ずいぶん後のことです。

 なぜメキシコとアメリカの間にはこれほどの豊かさの差があるのか? カリフォルニアに留学していたとき、アメリカの豊かさを見て、毎日のようにそう考えていました。いまに至るまで満足できる答えを見いだせません。

 友達同士で問題を作っていたこともあります。

 マーティン・ガードナーの数学パズルが面白かったのは、問題の設定が面白かったからです。私は、いまでもたくさんの質問を持っています。そして、さまざまな方法によって、これらの質問に対する答えを見いだそうとして努力しています。

 例えば、つぎのような質問です(これらは、新型コロナウイルス期以前の日本経済に関するものですが)。

 ・人手不足なのに、なぜ賃金が上がらないのか?
 ・日本企業の売上高は伸びていないのに、なぜ利益が増えるのか?
 ・日本の産業は元気がないのに、なぜ株価が上昇するのか?

漠然とした問題設定ではだめ

 原稿依頼やインタビューなどで、私がそれまで関心を持っていなかったこと、あるいは漠然としか意識していなかった問題を示されると、大変ありがたく思います。

 そのことについて関心を寄せることになるからです。

 ただし、それは、具体的なテーマを示された場合であって、「日本経済の問題点について」とか、「技術の新しい進展について」といった漠然としたテーマでは、このようなことにはなりません。「いかにしたら生産性を高められるか?」、「いかにしたら豊かになれるか?」では、問題の設定が広すぎ漠然としているため、答えを出すことができません。もっと操作可能な形で問題を設定しなければなりません。

クリエイティング・バイ・ドゥーイングのまとめ

 以上で述べたことを、図2-1と2-2で説明しています。

 文章の作成について多くの人が考えているのは、図2-1のような方法です。つまり、「まずテーマを見つけ、それから仕事に着手し、文章を徐々に成長させていって、完成する」という方法です。

 それに対して、図2-2に示すのが、「クリエイティング・バイ・ドゥーイング」の方法です。つまり、「とにかく始める」のです。なお、この際に、本章の3で述べている「質問ジェネレーター」の助けを借りることもあります。

 そして、第4章で述べる「アイディア農場」の仕組みによって、アイディアを育てていきます。さらに、第5章で述べる「アイディア製造工場」で最終的な完成品を作ります。

 重要なのは、一方向的な動きだけでなく、逆向きの動きもあることです。

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第2章のまとめ

1.テーマを捉えることこそ重要です。「質問を考え出すこと」といってもよいでしょう。これができれば、仕事の8割は完成したことになります。

2.テーマを捉えるために最も有効なのは、「とにかく仕事を始めること」です。仕事をしていれば、そこからテーマや質問が生まれてきます。これが、「クリエイティング・バイ・ドゥーイング」です。

3.テーマや質問は、異質なものとの出会いによって生まれます。これを積極的に行なおうとするのが、「質問ジェネレーター」です。

続きは本書でお楽しみください。