進化論を揺るがす“人間×チンパンジーのハイブリッド少年”が立ちむかう、テロ組織との戦い!

マンガ

公開日:2020/12/18

『ダーウィン事変』(うめざわしゅん/講談社)
『ダーウィン事変』(うめざわしゅん/講談社)

 科学を扱う番組で「日々科学は進歩している」という決まり文句をよく耳にする。確かにロボットなどの機械工学や、数光年先の星の発見、探査機による小惑星からの物質の持ち帰り、無人ながら中国が世界で3番目に月に到達した宇宙工学など、かなりのスピードで進歩している。だが、そんな中で進歩してはいけないものもある。それは、倫理から外れた科学だ。その代表的なものとしては、“羊のドリー”で世の中を騒然とさせたクローン生物、そして人間が設計したり、作製したりした生命…たとえば、ヒトとサルとの交配などによる“人工的生命の誕生”が挙げられる。ヒトとサルの交配は、一昔前には「遺伝子が99%一緒で…」などと言われていたが、現実的には難しい。しかし、過去にメスのチンパンジーに自らの“種”を入れ妊娠させる実験を試みた研究者がいるとか。もはや都市伝説。信じるか信じないかはあなた次第だ。

 もしこの都市伝説が現実となる世界があったとしたらなにが起きるのか…。今回は、そんなオモテではタブーとされている生体実験が水面下で行われ成功し、チンパンジーとヒトの交配種“ヒューマンジー”として生まれた少年が、テロリストによって穏やかな生活が乱されるも屈せずに立ち向かう実験的物語、うめざわしゅん先生の『ダーウィン事変』(講談社)をご紹介!

 物語は、カリフォルニア州にある生物科学研究所から始まる。そこではさまざまな動物実験が行われていたが、突然、動物解放同盟(ALA)というテロ組織によって襲撃を受ける。テロ組織の目的は、施設内で実験体として飼われている動物たちを解放すること。組織のメンバーが研究者へ銃を向け威嚇しながら動物をケージから放していくのだが、その時、大量出血して横になっているチンパンジーを発見する。流産寸前で母子ともに命が危うい状態のチンパンジーをどうするか悩んだ結果、メンバーは保護し、病院へ送ることに。結果無事に出産はしたが、生まれたその子はなんと、ヒトとチンパンジーの交雑種“ヒューマンジー”だったのだ。

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 ALAの研究所襲撃から15年後。例のヒューマンジーは“チャーリー”という名前で、チンパンジー研究の権威の博士とその妻のもとで穏やかに過ごしていた。そんなチャーリーに高校へ登校する日が訪れる。チャーリーの母親(博士の妻)は、彼の中のチンパンジーとしての部分がむき出しにならないか不安になりながら、他の生徒と同じ普通の高校生として過ごしていけることを願いつつ、彼を高校へ送った。

 登校し教室へ向かうチャーリー。すると校内は騒然となり、一気に注目を集めてしまう。彼をカワイイという人、近づきたくないという人…さまざまな周囲の反応があるが、そのウラでチャーリーはとある女子生徒と運命的な出会いを果たす。

 比較的好調なスタートを切ったチャーリーの高校生活だったが、そんな生活はすぐ潰されてしまうこととなる。あのテロ組織ALAが過激さを増して動き出し、彼らが15年前に救ったチャーリーを組織に取り込もうと接近を試みてきたのだ。

 果たして一躍時のヒトとなったチャーリーの高校生活の行方は…。かつてダーウィンが提唱した進化生物学の概念を揺るがす一大事変が勃発するのであった。

 ざっくりと言えば、ヒトとチンパンジーのハイブリッドな少年が巻き込まれる、“導かれた運命”との戦いの記録である。そして自然な生物進化を無視した人工交配で生まれた“ヒューマンジー”が存在することで社会にどのような影響を与えるのか、テロ組織ALAの根底にある“ライフスタイルの思想”に関すること、などなど、いろいろなテーマを内包しながら物語は進んでいく。そしてなんといっても主人公のチャーリーのチャーミングなチンパンジー寄りの顔立ちと非常に高い運動能力でテロ組織に立ち向かう姿が見どころで、読者は魅せられてしまうことだろう。

 現実に起きるかもしれないとてもリアルなフィクションストーリー。生物学に思想というあまりなじみのないジャンルに思わず「ウキィィィ!(※サルだけに)」と頭を抱える方がいるかもしれないが、そういった知識がゼロでも充分楽しめるので安心して手に取り、チャーリーの戦いの全てに刮目せよ!


文・手書きPOP=はりまりょう