紅白歌合戦はメタルか否か!?/メタルか?メタルじゃないか?①

エンタメ

公開日:2020/12/24

 “新しいメタルの誕生”をテーマに“BABYMETAL”というプロジェクトを立ち上げ、斬新なアイディアとブレること無き鋼鉄の魂で世界へと導いてきたプロデューサー・KOBAMETAL。そんな彼が世の中のあらゆる事象を“メタル”の視点で斬りまくる! “メタルか? メタルじゃないか?”。その答えの中に、常識を覆し、閉塞感を感じる日常を変えるヒントが見つけられるかもしれない!!

第1回 紅白歌合戦はメタルか否か!?

メタルか? メタルでないか?
Photo by Susumu Miyawaki(PROGRESS‐M)

メタルとは何ぞや?

 と、いきなり問いかけられても、十人十色の「俺のメタル」論が存在し、熟練したメタラーでも明快な答えを出すことは難しいのではないだろうか。念のため断っておくが、これからワタクシがこの連載で繰り返し用いる「メタル」というのは、金属そのもののことではない。音楽ジャンルのひとつである、ヘヴィメタルの俗称としてのメタルだ。

 

 冒頭の問いかけに戻るわけだが、メタラーでは無い者にとっては「そんなの知る訳がない」というのが正常な反応だと思う。メタルと言われて世間が思い浮かべるのは、こんなイメージではないだろうか。伸ばしっぱなしのロングヘアに厳つい鋲が付いたレザージャケットにピチピチのパンツを履いて、デスボイスで「DEA〜TH!!」とか叫んだりする、耳障りな音楽――。ある側面だけ見ればその通りなのだが、決してそれだけではない奥深さがあるのだ。

 例えば、北欧には北欧神話をベースにした壮大で流麗な、南米にはトライバルでエネルギッシュな、そして日本には見た目のキャッチーさも含めたエンタテインメントとしてのメタルがあって、そのどれもが独自の発展を遂げながらそれぞれがメタルとしてのアイデンティティーを保っている。みんな違うけど、みんなメタル。この、カオスな時代に突入した2020年でもなお脈々と生き続け、メタルを持続可能ならしめているものの正体とはなんなのか? 日常の中に転がっている「あれもメタル、これもメタル」な事象を拾い上げながら、メタルの正体を考察していきたいと思うのである。

 どことなく生きづらさが漂うこの世の中にあって、閉塞した空気感をぶち破るためのヒント(成分)がメタルに含まれているのではないか? 我々が当たり前のように理解している日常や既成概念が、実は鋼鉄のフレームでできたメタルのメガネを通してスキャンしてみれば、脳内にまったく違う景色が見えてくるのではないだろうか。

 メタルか? メタルじゃないか?

 そんなシェイクスピア的な問答も含めて、「メタルとは何ぞや?」を考えてみたい。

“継承”こそがメタルの重要なファクター

 ということで、年末である。連載第一回のお題は、「NHK紅白歌合戦」だ。紅白はメタルなのか? という問いが成立しているのかどうなのかは置いておいて、結論から言えば、紅白はメタルだと思う。今年でなんと、第71回! もうそれだけでメタル臭がプンプンと漂ってくる。先ほども触れた通り、メタルにおける重要なファクターのひとつとして、“継承”というものがある。肉体は変われども脈々と受け継がれていく様こそがメタルではないだろうか。北欧メタルのバンドたちが北欧神話に根ざした曲を、長い金髪を振り乱しながら奏でるのは、彼らが継承したDNAを鳴らしているのだとワタクシには思える。

 それにしても、71回だ。ほとんど神話である。さらに歌合戦なのだから、バトルである。神話、バトル……メタル。間違いない。

 まだある。それは紅白のブレなき“お約束”感だ。これをメタル風に変換すれば〝様式美〟ということになる。紅白ならぬ、ディープ・パープルといったところだ。一昔前の例で恐縮だが、現代に繋がる紅白のイメージと言えば……小林幸子さんのもはや装置と呼ぶべき巨大衣装の登場と、白組のトリで登場するサブちゃんこと北島三郎さんの超ファンク演歌楽曲『祭り』で出演者全員踊りまくるというメタル・フェスも真っ青な光景だ。さらにそうした白熱バトルの決着方法はと言えば、その年の顔とも呼ぶべき著名人が「審査員」として謎の基準による審査を行い、会場にいるオーディエンスの挙手を日本野鳥の会がまるで速弾きギタリストのように数えるというクラシカルなスタイル。はっきり言って、どっちが勝っても見ている方はそんなに気にしていないのだが、そのまま惰性で見てしまう「ゆく年くる年」まで含めて、随所に「待ってました!」が詰まりまくったパッケージ感は盤石、いや鋼鉄だ。冒頭で世間の抱くメタルのイメージを記したが、紅白とメタル、まるでレーサーXの超絶ギターソロのユニゾンを聴いているように符合するではないか。誰しもに刷り込まれた予定調和を恐れずに、来るべきところで来る!――これをメタルと言わずして何をメタルと言うのか?とワタクシは思わずにはいられない。

 

 ちなみに、「メタル紅白歌合戦」というものが開催されたとして、今年の紅白それぞれのトリは誰になるだろうか。白組はたくさんいて難しい。今年活躍して、さらに大御所となると……AC/DC、ディープ・パープル、マリリン・マンソン、メタリカあたりはアルバムを出しているからかなり有力な候補だ。しかし、ここはオジー・オズボーンで決まりではないだろうか。御歳72。紅白よりひとつ先輩のメタル・レジェンドだ。今年1月にはパーキンソン病を患ったことを発表し、2月にはアルバム『オーディナリー・マン』をリリースした。全米、全英チャート共に最高3位をマークしている。ガンズ・アンド・ローゼズのダフ・マッケイガン(B)やレッド・ホット・チリ・ペッパーズのチャド・スミス(Dr)などをメンバーに加え、エルトン・ジョンやラッパーのポスト・マローンをゲストに迎えるなど、音楽的チャレンジも行っていて実に見事なアルバムだ。メタル紅白2020の白組トリはオジーで当確だ。

 

 紅組は逆の意味で難しい。圧倒的に母数が少ないのだ。男女比で言えば、まるで日本の国会のようだ。ここに、メタルというジャンルが抱えるジェンダー問題が潜んでいる。が、この話題はまた別の機会に譲ろう。選出するのであれば、今年リリースしたアルバムも好評なナイトウィッシュ。しかし、ワタクシはあえてここに小池百合子東京都知事を推したい。ミュージシャンでもメタラーでもないのは百も承知だが(いやもしかしたら隠れメタラーという可能性も大いにある)、今年の顔となった女性と言えば彼女を置いて他にいないだろう。「密です」というお茶の間のバイラルチャートNo.1とも言える大ヒットナンバーを携えて、マスクの奥からアーチ・エネミーも真っ青の強烈なグロウルボイスが飛び出してくるかもしれないぞ。

 年初からカオス一辺倒であった2020年、その締め括りとなる大晦日に、テレビの前で繰り広げられる合戦の様は、1秒単位の正確さで、1ミリのブレも無く、全てが譜面通りに正確無比な様式美で描かれる壮大なシンフォニー。まさにメタルオペラ。それでは良いお年を。

取材・文=谷岡正浩

メタルか? メタルでないか?
Illustration by ARIMETAL

<第2回に続く>

KOBAMETAL(コバメタル)〇プロデューサー、作詞家、作曲家。
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