眠れない夜に試すこと/『運動音痴は卒業しない』郡司りか⑮

小説・エッセイ

公開日:2021/1/15

郡司りか

 先日、雑誌『ダ・ヴィンチ』さんのほうでインタビューしていただきました。その内容は、発売中の本誌2月号の「走れ!トロイカ学習帳」を読んでいただけますと幸いです。

 なので、今回はその前日に眠れなかった夜の話をします。

 

 とりあえず布団に入ってみた。明日はいよいよインタビュー当日だな。

 実はその日の前日もYouTube編集で徹夜をしたので、頭の回転が遅いというか、なんなら逆回転している様子も見られたのに、目は冴えてしまって眠れません。

 

「走れ! トロイカ学習帳」は、ライターの北尾トロさんの連載です。トロさんの書かれた「裁判長! ここは懲役4年でどうすか」シリーズは大学生の頃からずっと愛読していました。

 なのでまさか会えるなんて、そんなまさか、信じられない。しかもご本人がインタビューしてくださるということで何を話せばいいのだろうか。。

 

 でも、ちょっと待って。

 やっぱりこんな夢みたいなことが現実であり得るのだろうか?

 実はずっとドッキリの線を疑っていたので、自分なりに再捜査することにしました。

(今回のお話はドッキリなのだろうか。けれども、こんなに手の込んだドッキリを仕掛ける意味はないはずだ。もしくは、何かの手違いかな。いや、でもダ・ヴィンチさんがそんなミスするわけない。あ!! わかった! たぶん、宇宙の謎の光によって担当編集者さんやトロさんが操られて、このような機会をいただけたということだろう!! この推理は良い線いってるぞ。)

 

 そうこう考えているうちに、深夜2時半を回りました。

 

 実は、私は今まで眠れなかったことは殆どありません。遠足でも修学旅行でも眠れたし、自分の結婚式の前日だって、布団に入ればちゃんと眠れました。だから、眠れない日の対処法をあまり持っていないのです。

 

 そんな私でも唯一眠りが浅くなってしまう日があります。それは滅多に行かないディズニーランドに行く前日です。楽しみだからというより、遅刻して友達に迷惑をかけてはいけないという不安から眠れなくなる小心者なのです。そのときの対処法を今やってみようか!

 

 まず、ものすごい勢いで、あの黒いネズミが柵を越えて走ってくる様子を想像します。そして声に出して「1ミッ○ー」と唱えます。

 2人目がまた柵を越えます。「2ミッ○ー」。3人目がまた越えて「3ミッ○ー」「4ミッ○ー」「5ミッ○ー」「6…」「7…」の繰り返しをします。

 600の黒ネズミが柵を越えたところで3時を回りました。

 

 だめだ、インタビューとディズニーの関連性が感じられないせいか、この対処法が通用しないみたいです。こうなったら、奥の手を使うしかない!!

 トゥントゥルルルルントゥントゥルル

 目覚ましが鳴り気がついたら朝でした。しっかり眠れたのです。

 起き抜けの私の頭には何百人ものトロさんがいました。

 その日、新宿に向かって初めてお会いした北尾トロさんは、私が昨日想像で会った何百通りのトロさんよりもずっと、優しくて面白くて、真理をついてくるイカしたおじさんでした。

<第16回に続く>

プロフィール
1992年、大阪府生まれ。高校在学中に神奈川県立横浜立野高校に転校し、「運動音痴のための体育祭を作る」というスローガンを掲げて生徒会長選に立候補し、当選。特別支援学校教諭、メガネ店員を経て、自主映画を企画・上映するNPO法人「ハートオブミラクル」の広報・理事を務める。
写真:三浦奈々