命を賭して正しさの証明を…壮大な地動説証明ドラマ 『チ。-地球の運動について-』 /マンガPOP横丁㊷

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更新日:2021/1/29

『チ。―地球の運動について―』(魚豊/小学館)
『チ。―地球の運動について―』(魚豊/小学館)

 例えば、昨年末に行われた漫才のNo. 1を決めるコンテスト『M-1グランプリ2020』で優勝したコンビの大会後のコメント。「3年前の決勝では、某大御所審査員から酷評をされて最下位になったが、自分たちのお笑いスタイルを諦めず貫いた結果、実を結んだ」。これぞプロの芸人魂。自身のお笑いに関する信念を貫いたその姿勢、非常に輝かしくてしびれた!

「ある事象や命題などに関し、正しいと固く信じて疑わない心を持つ状態」または「神仏を固く信じること」という意味を持つ言葉、“信念”。世の中はその信念を持った人により、成長または変化させられてきたといっても過言ではない。実際、先ほどの2020年のM-1チャンピオンは今回の優勝で、一般の人が見てきた漫才の形をアップデートさせた。

 未知の分野に挑むときは決まって周囲からの批判や冷やかな声などの厳しい壁が立ちはだかるもの。そこから認められるまで信念を貫き取り組むその勇気と気力は、並大抵のものではない。今回は、触れたらいけない思想に触れると即処刑される社会の脅威に屈することなく、己の信念を貫き伝えた1人の天才少年から地球が動き出す物語、魚豊先生の『チ。―地球の運動について―』(小学館)をご紹介!

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 時は15世紀の中世ヨーロッパのP王国某所。この地域では、信仰されている宗教“C教”に背く異端な思想を持つ者を弾圧し、最悪火刑に処されるという社会が成り立っていた。そんな中で生きる、12歳というヤバい早さで大学への進学が決定し、将来を有望視されている天才少年のラファウは、いわゆる世渡り上手な人間で、合理的に生きていれば快適に過ごせるという考えを持っていた。そんな性格に由来して、非常に理不尽な世の中でも彼の中では「チョロい世界」だと、甘く見ていた。

 しかし、彼を育ててきた養父から進学を機にやめるよう催促されているものがある。それは彼が趣味としていた天文学だ。実はC教のもとでは、「宇宙の中心には地球がある」「地球は特別なので神が宇宙の中心に創った」という教えが正統で、違う思想を持つことはタブーとされていた。彼は教えられた宇宙と地球の関係に違和感を持ちながらも、養父の顔を立てるため神学を専攻すると宣言し、半ば諦めようとしていた。だが後日、ラファウにとても大きな転機が訪れる……。

 ある日、養父のポトツキから彼の知人であるフベルトの身柄の引き取りをお願いされる。彼は、かつて取り組んでいた“研究”が異端思想と認定され捕らえられていた人物。そんなフベルトへラファウが接近すると、フベルトが衝撃の一言を放つ。それはラファウが異端へ足を踏み入れる第一歩となる、“禁じられた研究”への誘い……太陽を軸に地球や他の惑星が回るという、ひとつの仮説に関すること。これをフベルトは“地動説”と呼んだ。ラファウは地動説を合理的で美しいと感じてしまい、その説の可能性を信じ、立証へと導くため一世一代の決意をするのであった―。

 学校などで習ったとは思うが、かつて地球中心にその周りを太陽やその他の惑星が回る“天動説”と、太陽の周りを地球とその他の惑星が回る“地動説”が存在していた。この作品は、神によって創られたという天動説信仰に対し、命を賭してタブーど真ん中の地動説を天才少年ラファウが証明するという、スペクタクル天文学証明ドラマだ。バレたら一発アウトで即処刑という緊張感の中で物語は進んでいく。特にラファウの行動を注視する異端審問官・ノヴァクがたびたび迫るシーンは、ドキドキハラハラものだ。ちなみに、地動説と言えば、提唱者のコペルニクスやガリレオ・ガリレイなのだが、本作品では出てこない。その人物が存在しない違う世界線での物語だと勝手に思い込んでいるが、果たして。今後も一切登場せずに進行していくのか気になるところ。

 すでに我々は地球の運動に関しては“地動説”が正しいという答えを知っている。そこをあえて別の歴史として描いた天動説vs地動説の物語。天才少年に課せられた想像を絶する地動説立証への生き様と行方をぜひ観察していただきたい。


文・手書きPOP=はりまりょう