突然の爆発音! 警告を無視し、カメラを握りしめてホテルを飛び出した/シリアの戦争で、友だちが死んだ⑤

社会

公開日:2021/1/24

紛争地を中心に取材活動をする桜木武史氏がシリアでの体験を中心に綴るノンフィクション。紛争地取材を始めてからの大けがやシリアでの取材、大切なシリア人の友人を失った経験などを描き、なぜ戦場の取材を続けるのか、そこにはどんな悲劇や理不尽があるのか――。初めてカシミールを訪れてから3年ほどたち、3回目の取材に来ている最中に、その事件は起きた。

シリアの戦争で、友だちが死んだ
『シリアの戦争で、友だちが死んだ』(桜木武史:文、武田一義:まんが/ポプラ社)

待ちに待った本物の「戦場」

 2005年11月14日、初めてカシミールを訪れてから3年ほどたち、3回目の取材に来ている最中に、その事件は起きた。

 その日は、午前中に地元の通信社に顔を出した。しかし、特に大きなニュースは入っていなくて、しぶしぶと滞在先のホテルに帰った。

「今日は特に何も起きないだろうな。何も起きないのは良いことだけど……」

 部屋の窓から外をのぞくと、少なくとも表面上は平和そうに見える、おだやかな町の光景が広がっていた。ぼくは、ベッドに体を投げだして、いつのまにかウトウトと眠りにおちていた。

 どのくらい時間が経ったのか分からないが、大きな音が耳に入り、突然目が覚めた。爆発の音だ。

 夢なのか現実なのかよく分からないまま、あわててホテルの窓から外の様子をうかがった。先ほどまでにぎやかだった繁華街に人影が一切見当たらない。

 おかしい。やはり何か起きたのだろうか。そう思った矢先、銃声が立てつづけに鳴りひびいた。ダッダッダッと重い音だ。眠気が一瞬にしてふきとび、ぼくは転がるように部屋を飛びだした。

 銃はインド軍の装甲車から発射されていて、ダッダッダッとさらに何十発も撃たれた弾丸は、ぼくがいるホテルの真向かいの建物を穴だらけにしていた。壁がボロボロとくずれおちて土煙があがる。気がつくと、ぼくはサンダルをはいたまま、カメラをギュッとにぎりしめ、ホテルの玄関口まで来ていた。

 玄関口から外に出ようとすると、ホテルの従業員があわててやってきて、ぼくの体を手でおしとどめた。

「絶対に外には出るな。すぐ近くで軍が銃をぶっ放している。戦闘が落ちつくまでこの場でじっとしていろ」

 ぼくは言いかえした。

「分かった。でもこの場所にいるかどうかは自分で決める」

 結局、ぼくは従業員の忠告を一切聞きいれることなく、外に飛びだしてしまった。戦闘のまっただ中だ。しかし、いざ外に出ると、あまりにも銃声の迫力がすさまじいので、いったん近くの洋服店に入った。店員がギョッとしてぼくを見る。

「なんだ、なんだ? あんた誰だ?」

 目の前の道で戦闘が行われている最中に、突然外国人が店に入ってきたら、驚くのも無理はない。ぼくはあわてて自己紹介をして、ジャーナリストであることを告げると、店員は何が起きているのかをかいつまんで話してくれた。

 30分ほど前にイスラム武装勢力がインド軍の検問所に手りゅう弾を投げこんだ。犯人はすぐに近くの建物に立てこもり、インド軍が応戦を始めた。ホテルで聞いた爆発音は手りゅう弾だったらしい。そして、インド軍が今攻撃している目の前の建物に犯人がいるという。

 ぼくは礼を言って、立ち去ろうとした。すると、背後から店員のあわてるような声が聞こえた。

「外には出るなよ。危険すぎる」

 今、外に出れば、かなり危ない状況であることは分かっていた。でも、そのときのぼくは冷静な判断力を失っていた。ついに待ちのぞんだ瞬間だ。今日こそ戦闘を間近で見て、しっかりとその様子をカメラにおさめるぞ。そんな興奮とあせりが、頭の中いっぱいに広がっていたんだと思う。ぼくは店員の警告を無視して、店を出てしまった。

 ぼくは壁に身をふせて、インド軍の装甲車をながめていた。数分前まで火を噴いていた機関銃が今は落ちついていた。

<第6回に続く>