彼の人生は“殺し”から“推し”へ!? 『そのオタク、元殺し屋。』/マンガPOP横丁㊸

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更新日:2021/1/29

『そのヲタク、元殺し屋。』(Ko-dai/KADOKAWA)
『そのヲタク、元殺し屋。』(Ko-dai/KADOKAWA)

 とある出会いがキッカケで、今までの生活が一変するほどに没頭した事柄や分野はあるだろうか。好きすぎてその道を極めながら踏み込んでいく“ヲタの世界”。今や世間に浸透するようになった“ヲタク”という存在。さらにそのジャンルも多岐にわたっている。そしてヲタクになる人もそれぞれで、「え、こんな人が!?」と風貌からじゃわからないほどの意外な人が実はヲタク! なんてことも最近ではよく見られる。そんな今回の作品の主人公の職業は、元殺し屋だ。ということで、前回ご紹介した『チ。―地球の運動について―』のような、出会いで人生が一変し、命をかけてその信念を貫くところは共通しているが色味が全く違う、元殺し屋の男のヲタ活動コメディ、Ko-dai先生の『そのヲタク、元殺し屋。』(KADOKAWA)をご紹介します。(※今回は作品を考慮し、“オタク”を“ヲタク”と表記しております)

 平和なイタリアの街の裏側で暗躍する、“その筋”では知らぬ者はいない、彼の手にかかればオトせないモノなどない伝説の殺し屋がいた。彼は通称『フィレンツェのT・O(ジ・オラクル)』で、名はマルコ。そんな彼が突如姿を消し…2ヵ月後、彼は日本にいた。しかもアニメイベントライブのチケット落選に絶望する、美少女キャラがプリントされたTシャツを着たひとりの“ヲタク”として!

 彼が目覚めたのは、殺しの任務中。ターゲットの部屋に飾られていた1体の美少女フィギュアが運命の出会いとなった。それはまさに一目惚れ。使命感に駆られたマルコは、突如すべての殺しを放棄し、肩書きを捨て、迷いもなく日本へと向かった。となれば、この勝手な行動に黙っていられないのは、裏社会の人間たち。何も知らずに日本でヲタ芸をするマルコの陰で、彼の捕獲を狙う刺客たちが次々と来日し、足跡を追いはじめる。いつの間にか狙われる立場となったマルコ…。果たして、人を殺す凶器を、人を応援するブレードなライトに持ち替えて充実した日々を過ごすヲタライフの行方は―。

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 殺しに関しては天才クラスだったマルコ。しかし闇仕事からの解放感によるものなのか、ヲタ活動をしている時の、そのまま彼をあらわすようなイキイキとした表情は輝いていて、読んでいる方もテンションが上がる。取り組む姿勢は、殺し屋と時代と同じで本気だ。全力でヲタ芸もするし、プレミアチケットが手に入れば絶叫もする。実に楽しそうな彼の生活が感じとれる。ちなみにはりまは、POPライターになるキッカケとなったコミック専門の書店員になる前は全然違う職種についていたので、マルコがヲタクになるまでの衝撃と新しい刺激を受けた一連の感情は、非常に共感できる。読んでいて感じたのは、「殺しと同じレベルに妥協しないマルコのヲタ活を邪魔しないで!」だ。

 そして、この作品の肝である刺客たちの捕獲活動だが、これが実に色々とめんどくさいのだ! もちろん、マルコを狙う彼らの目は鋭い……ハズだった。それぞれの登場序盤までは。

 派遣された女性諜報員・ビビアナはなんと腐女子! 子どもの頃、日本のアニメに魅了され腐りはじめるというなかなかのクセモノだ。だから、彼女が来日したときにゃどうなるか……当然テンション爆上がり。もちろん組織はそのことをわかっていません。そんな、日本のヲタ文化に誘惑されながら任務に挑む彼女の動きや表情は要チェックです。

 さらにもう1人の刺客の男・アンドレが派遣されるのだが、こちらは色々とヤバい。というのは、街を巻き込みながら狙ってくるからなのだ。そんな彼の任務の様子にも刮目していただきたい。それらをひっくるめてひとこと言うならば、ヲタク文化で溢れた日本、スバラです。

 マルコが銃を持ち鋭い目でシブくカッコよく決める……その横で美少女の抱き枕を抱いている表紙が目印。この一枚絵で、シリアス展開の崩壊を彷彿させるが、期待していただいて問題ない。そして緊迫感とゆるヲタシーンのバランスが絶妙。みなさんを飽きさせないヲタ活マンガとして、自信を持ってオススメします!


文・手書きPOP=はりまりょう