名手による、珠玉の短編ミステリーに酔いしれる。『犯人のいない殺人の夜』/佐藤日向の#砂糖図書館⑨

アニメ

公開日:2021/1/23

声優としてTVアニメ『ラブライブ!サンシャイン!!』『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』などに出演、さらに映像や舞台でも活躍を繰り広げる佐藤日向さん。お芝居や歌の表現とストイックに向き合う彼女を支えているのは、たくさんの本やマンガから受け取ってきた言葉の力。「佐藤日向の#砂糖図書館」が、新たな本との出会いをお届けします。

佐藤日向

東野圭吾さんの名前を聞いて、最初に思い浮かべる作品はなんだろうか。

『流星の絆』『白夜行』『マスカレード・ホテル』――。

あげたらキリがないくらい、読了後も色濃く私の中に残っている作品が沢山ある。

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東野圭吾さんの作品は、序盤から中盤にかけて宝探しのようにヒントを散りばめたあと、終盤で全てを綺麗に回収し、なおかつ想像もつかないようなどんでん返しと謎解きが待っている。

 

今回紹介するのは東野圭吾さんの『犯人のいない殺人の夜』という、1990年に刊行された作品で、7つの事件が1冊に詰め込まれた短編小説だ。

 

私はこれまでひとつの作品を、時間をかけてゆっくり謎を紐解きながら読むのが好きだったが、この作品をきっかけに短編がこんなに面白く、魅力溢れるものだったのかと、衝撃を受けた。

『犯人のいない殺人の夜』は、たとえるならば東野圭吾さんの一部のトリック特集と言っても過言ではないくらい、7つの事件全てが違う視点で、違う手法のトリックが描かれていた。

 

タイトルの通り、まさに7つの事件全て”犯人がいない”と捉えることができる。

“いない”というよりも、読み手の感覚や感性によって、「この人が真の犯人だ」と断定できる人が変わってくる、そんな作品なのだ。

 

7つの物語に一貫していたのは、生暖かくてじんわりとした不気味さがラストに向けて徐々に増していく雰囲気だと思うのだが、中でも『小さな故意の物語』は、特に印象深かった。

『犯人のいない殺人の夜』のトップバッターがこの物語なのだが、恋と故意がかかっていて、ブラックジョークのようなタイトルだ。

読者は、読み終えるまでこの作品がどうして『犯人のいない殺人の夜』というタイトルなのか、
どんな雰囲気なのか、胸を高鳴らせながらページをめくることだろう。

そして、ひとつ目の『小さな故意の物語』を読み終えた頃には、納得感と不気味さで、なんとも言えない気持ちになる。

“犯人の定義”に当てはめるのであれば、『小さな故意の物語』にはふたり犯人がいる。

しかし、”まさか死ぬとは思わなかった””ついうっかり出来心で” “もう耐えられなかった”

なんて気持ちの重なり合いから偶然生まれた事件は、あまりにも残酷で、誰に非があったのか私には決めきれなかった。

 

実際に私たちが生活している中でも、表向きの顔、友達といる時の自分、気を許せる人にしか見せられない心の内、こんな風に沢山の仮面を付け替えながら人は生活している、と私は感じる。

たとえば学校で三者面談をしたときは、学校用の仮面をつけた私を家族に見られているみたいで、すごく恥ずかしかったことを覚えている。

 

人には見せたくない部分や、「こういう風に自分を見せたい」という理想像は、誰しもが持っているものだ。

だが、その理想を追い求めすぎるとトラブルや事件が発生する可能性は十分にあり得るのだと改めて物語から感じた。

そして、自分が創りあげた仮面が壊れてしまうのも一瞬だ。

 

何もかもがネタバレになってしまうから、まずは先入観なしにページをめくって欲しい。

ミステリーのチュートリアルのような感覚で楽しめるので、是非普段ミステリーを読まない方にも手に取って頂きたい。

 

さとう・ひなた
12月23日、新潟県生まれ。2010年12月、アイドルユニット「さくら学院」のメンバーとして、メジャーデビュー。2014年3月に卒業後、声優としての活動をスタート。TVアニメ『ラブライブ!サンシャイン!!』(鹿角理亞役)、『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』(星見純那役)のほか、映像、舞台でも活躍中。

公式Twitter:@satohina1223
公式Instagram:sato._.hinata
レギュラー配信番組『佐藤さん家の日向ちゃん』:https://ch.nicovideo.jp/createvoice