ダ・ヴィンチニュース編集部 ひとり1冊! 今月の推し本【1月編】

文芸・カルチャー

公開日:2021/1/29

ダ・ヴィンチニュース編集部推し本バナー

 ダ・ヴィンチニュース編集部メンバーが、“イマ”読んでほしい本を月にひとり1冊おすすめする新企画「今月の推し本」。

 良本をみなさんと分かち合いたい! という、熱量の高いブックレビューをお届けします。

冬が嫌いだから寒い日に読むことにした『冬の本』(夏葉社)

冬の本
『冬の本』(夏葉社)

 冬が嫌いだ。日照時間が短い、寒さを言い訳にどうも動きが鈍くなる。気持ちも塞ぎがちになる。鏡を見れば冬太りした丸顔にげんなりする。振り返ってみて冬がいいと思ったこと、あるのか? 無理矢理冬に楽しみを見出そうとしてきた気がする。熊と同じように「冬眠したい」と思ったことは何度もあるなと思ったら『冬の本』の中で、山崎ナオコーラさんの書き出しがそれだった。本書は、84人もの作家や音楽家が「冬の本」をテーマに2ページずつ書き下ろしたエッセイ集。冬を嫌いでいるより、好きになれそうな側面を見つけようと84とおりの「冬」を味わってみることにした。ちなみに装丁は和田誠さんだ。

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 本を読む楽しみは、意表をつかれたときの高揚とか、この美しい表現を記憶しておきたいとか、自分は同じ地点にいるのにかなり遠い場所に引っ張られた感覚とかがあるが、そんな気持ちになったのが、いがらしみきおさんの「偏食読書家の冬の本」、町田康さんの「冬ごころ」、岡崎武志さんの「冬の夜のカルテット」、曽我部恵一さんの「うつくしいものたち」、能町みね子さんの「一年じゅう冬の国と死」だった。

 冬の西日、ピシッとした空気、おでんの湯気…冬のあれこれを思い浮かべてみたが、早く春来ないかな……。ちなみに自分の中で「冬のような本」で思い浮かんだのは『荒野へ』。

 冬になると思い出す本は何ですか? と色々な人に聞きたい。

中川

中川 寛子●副編集長。エッセイ、社会派ノンフィクション、藤子・F・不二雄作品好き。映画『相撲道』を観て、大相撲1月場所初日を観戦し、相撲に魅了された1月でした。冬に抗うようにランニングを週3ではじめたのも1月。


“世界遺産の旅を妄想する鈴木亮平さん”への妄想が止まらないっ…! 『行った気になる 世界遺産』(鈴木亮平/ワニブックス)

行った気になる 世界遺産
『行った気になる 世界遺産』(鈴木亮平/ワニブックス)

 俳優の鈴木亮平さんが行ったことのない世界遺産に行ったつもりで書いたという前代未聞の旅日記。月刊誌『+act.』(ワニブックス)での連載を書籍化したものだ。

 まず断言したいのが、「行っていない」と言われなければ、絶対に想像で書いた旅日記だと思えない。本当は行ったんじゃない……?と、つい疑ってしまうほど。その土地に立ち込める独特な匂い、温度や湿度… 五感に訴えかけるリアルな表現に驚く。

僕が選んだ俳優という仕事も、想像力の仕事です。自分の想像力が誰かに感動を与えられる瞬間にやりがいを感じて、僕はこの仕事を続けてきました。

 想像力の限りを尽くして、行ったことのない土地へ旅する。もちろん、実際に行ってみないと体験できないこともあるだろう。しかし、“行かない旅”だからこそ楽しめることもあるのだと知った。その世界遺産を楽しむ最高のタイミング、シチュエーションが用意されている。時には旅を盛り上げる素敵な出会いも。

 鈴木さんの“想像力”に圧倒されたが、そのベースには膨大なリサーチがあるのだろう。以前とある番組で、鈴木さんが「世界遺産に登録したいもの」について説明していた。熱っぽく自分の好きなものを説明する姿は少年のようで、その瞬間に、私は大ファンになった。夢中になって調べ、自分だけの最高の世界遺産旅行をものすごい熱量で作り上げる。そんな妄想の旅を楽しむ鈴木さんの姿をムフフと妄想しながら読むという楽しみ方も、いちファンとして密かにおすすめしたい。

丸川

丸川 美喜●育児やホラーなどの連載を担当。遺跡や歴史的建築物が好き。“行ってよかった世界遺産”は「アヤソフィア」「アマルフィ海岸」「カッパドキア」「モン・サン・ミッシェル」など。


40年間の礎がここに!週末はガンプラが作りたくなる一冊『MSVジェネレーション ぼくたちのぼくたちによるぼくたちのための「ガンプラ革命」』(あさのまさひこ/太田出版)

MSVジェネレーション ぼくたちのぼくたちによるぼくたちのための「ガンプラ革命」
『MSVジェネレーション ぼくたちのぼくたちによるぼくたちのための「ガンプラ革命」』(あさのまさひこ/太田出版)

 アニメ『機動戦士ガンダム』シリーズのプラモデル=ガンプラが2020年に40周年を迎え、その記念プロジェクトの一環で横浜に18メートルの“歩くガンダム”が登場した。私はほぼ40年間、現在進行形でガンプラを楽しんでいるので、アニメ設定のサイズで歩くガンダムというのはまさに夢の出来事であった。建造に携わった関係者各位の情熱に心から敬意を表します。

 そんないい歳の大人たちを夢中にさせているガンダム、ガンプラの人気の理由を知ることができるのが本書。「MSV(モビルスーツバリエーション、読みはエムエスブイ)」とは、1983~84年にリリースされ、社会現象となったガンプラ人気をさらに加速させたプラモデルシリーズのことで、本書はその誕生背景やファンから熱狂的な支持を受けた様子を詳細に解説している。あくまで私の考えだが、今に至るガンプラの方向性を「MSV」が示し、今もなお続く人気の礎を築いたと思っている。だからこそ40周年で注目されている今、「結局ガンダム、ガンプラの魅力って?」を再確認する良い機会であると思い、推し(布教とも言う)の一冊とした。

 推し(布教)もそうだけど、やはり子供のころに町の模型屋さんでガンプラを買い求めたアラフォー世代にはぜひ読んでもらいたい。ガンプラの箱を開けるワクワク感、接着剤の匂い……。あのころの思い出が甦り、久しぶりにガンプラを作りたくなってくるはずだから。

坂西

坂西 宣輝●2021年1月からダ・ヴィンチニュース編集部に加入。ガンダムとスニーカーをライフワークに、毎日物欲と戦っている。どちらも箱がかさばるので、部屋が倉庫状態なのが悩み。最近のニュースは、ガンプラの「MG ガンダムMk-V」と、スニーカーの「エアジョーダン6 カーマイン」の発売情報。


ノワール歴史漫画。成り上がっていく様を見届けたい『満州アヘンスクワッド』(門馬司:原作、鹿子:著/講談社)

満州アヘンスクワッド
『満州アヘンスクワッド』(原作:門馬司 著:鹿子/講談社)

 最近、というかコロナ禍になってからか、家で観る映画や読む本の傾向が変わってきている気がする。今までは重いテーマの作品を好む傾向にあったのだが、在宅での仕事がメインとなり、仕事とプライベートの境界線が曖昧な今では、何も考えず、すっきり爽快に楽しめるエンタメ作品を好む傾向になっているような。

 という感じで、なにげなく読みたい本を探していたところ、目に留まったタイトルが『満州アヘンスクワッド』。海外ドラマの『ブレイキング・バッド』が好きな私にとっては気になるタイトルである。ストーリーは簡単にいうと植物に詳しく、嗅覚に優れているという主人公・日方勇が病気の母親の薬を買う金を稼ぐため、中毒者もびっくりな純度の高いアヘンを作り上げ、満州裏社会の頂点に君臨していく、というある意味、サクセスストーリーになっている(うーん、ストーリーも割とブレイキング・バッドに近しい…)。

「満州で一番軽いものは、人の命だ」というセリフがあるように、混沌とした暗い時代である満州が舞台となっているが、そこまで暗い気持ちにならず、テンポよく話が進んでいくので読みやすい。今後、勇がこの(どこまで史実に基づいて描かれているのかは不明だが)やばすぎる満州国でどう成り上がっていくか楽しみ。近日、発売予定である3巻が待ち遠しい。

松江

松江 孝明●自宅近くで、よく通っているサウナ。そこに、なんとサウナ利用者は自由に使っていいトレーニングジムが併設された。正月太りというか在宅太りに陥っている私にとって、利用しない手はないと思いつつ、今日もトレーニングジムゾーン(3F)を横目に見ながらサウナフロア(4F)に急ぐ。


人間になるとは言葉を知るということなのかもしれない『言葉にできない想いは本当にあるのか』(いしわたり淳治/筑摩書房)

言葉にできない想いは本当にあるのか
『言葉にできない想いは本当にあるのか』(いしわたり淳治/筑摩書房)

 私は自分が感じたことを日頃そのまま話せているんだろうか。そもそも、感情を言葉にするって何だ…??この本を読んでいてそんな基本的な部分への疑問を持ってしまった。SUPERCARで作詞・ギターを担当し、多数の名曲を生み出してきたまさに「言葉のプロ」であるいしわたり淳治さんが、世にある“キラーフレーズ”を分析する本書。自分でもなんとなくいいな、気になるな、と感じていた言葉の表現が、氏によって論理的かつ軽やかに分析されていて、「なるほど」「たしかに……」と読みながら何度もつぶやいてしまった。

 物心ついたときから私たちは感じたことを言葉にしている。ご飯が美味しくてうれしい、傷が痛くて悲しい、友人と遊んで楽しい、アニメ『進撃の巨人』にゾクゾクした高揚感を覚える、YouTubeで猫を見て心がギューっとなる、読んだ本に感銘を受けて噛みしめる……。改めて考えると、感情を言語化することで、自分の中で明確化して認識している気がする。人に伝える必要があるならなおさらだ。ならば、語彙を増やし、表現の仕方を広げてより正確に言語化することは、自分に自分が近づいて重なっていくことになるのかもしれない。そして他の人の感情や認識を知ることで他者や世界に近づいていくのだろう。“言葉”の奥行きと人間を人間たらしめる力を実感する。こうして、言葉――読書や音楽のおもしろさを再発見できる本書、おすすめです。

遠藤

遠藤摩利江●年始に『ハイキュー!!展』へ。練られた展示、そしてやはり原画の力というのは素晴らしく、描かれた線やベタやトーンや描きこみを息をつめながら見てきました。感染対策もしっかりされていて、主催・スタッフの方々の努力にもじーんとしつつ……ありがとうございました。


明日への希望に満ちていた昭和を振り返る『多様性を楽しむ生き方: 「昭和」に学ぶ明日を生きるヒント』(ヤマザキマリ/小学館)

多様性を楽しむ生き方: 「昭和」に学ぶ明日を生きるヒント
『多様性を楽しむ生き方: 「昭和」に学ぶ明日を生きるヒント』(ヤマザキマリ/小学館)

「昭和」という言葉がネガティブな文脈で語られるとあまのじゃくな自分がなぜか登場し、「昭和の良さも見直したい」と考えてしまう。ヤマザキマリさんが「昭和に学ぶ」とタイトルで語る本書を目にして即飛びついてしまったのもそういうわけだった。

 本書の中の昭和のエピソードの中で、私にも多少覚えがあるのが、ジーコロ電話がレースのカバーをかけられていたり、エロ本が道端に落ちていたり、といった話。テレビの「演出」も今よりはるかにゆるく、小学生でもその「演出」を笑って楽しんでいた時代。多くの人が豊かではなくても楽天的で支え合って生きていたのだということが、ヤマザキさんのお話からも伝わってくる。

 本書のメインタイトルの「多様性」は現代のキーワードだが、昭和はその多様性をよりリアルに体感していた時代だったのだと気づかされる。現代で語られる「多様性」のうち、どのくらいが物理的に近くにいる人々をさすのか、とつい考えてしまう。

 多様性と言いながら同調圧力に敏感で、個性の時代と言いながら横並びでいないと落ち着かない。昭和のように楽観的な将来を描けない私たちに、ヤマザキさんは不条理な体験の重要性と、人間の生き物としての自覚を促す。ああ、それでいいんだな、とホッとした。

 昭和に思いを馳せたところで、昔父に勧められて読んだ、ねじめ正一さんの『高円寺純情商店街』を再読したくてたまらなくなった。スマホの登場しないフィクションの世界を求めてしまうようなものかもしれないけれど。

宗田

宗田 昌子●積読本の増え方が半端ない。遅読なので読めない本がたまっていく。『NO RULES 世界一「自由」な会社、NETFLIX』も買ったけれど、図書館で借りた本も読みたい…。そんなこんなで置く場所はないのに本棚がほしいこの頃です。


まぶしさと整然たる描写が誘う、清冽な読書体験。『旅する練習』(乗代雄介/講談社)

旅する練習
『旅する練習』(乗代雄介/講談社)

 ひとめぼれ(?)だった。打ち合わせで出向いた出版社で頂戴した、1冊のプルーフ(見本本のこと)。「ふたりは利根川沿いに、徒歩で鹿島アントラーズの本拠地を目指す旅に出る」。いやこれ、スタート地点が絶対に地元じゃん。そして、歩いてJリーグクラブの本拠地(自分にとっては敵地だけど)に向かう、ときた。千葉県柏市育ちで、四半世紀以上柏レイソルのサポーターをやっている身としては、読まないわけにはいかないのである。

 この1年で、「コロナによって、当たり前だったはずの日常が失われた」という言葉を、何度も耳にした。『旅する練習』は、世界が一変してしまった2020年の春を舞台にしている。「鹿島の合宿所から持って帰ってきてしまった本を、一泊二日で返しにいく」はずが、学校が休校になったために、徒歩で鹿島を目指すことに――サッカーが大好きで春から中学生になる亜美は、ボールを蹴りながら。語り部で小説家の叔父は、手賀沼や利根川の風景を描写しながら。旅の途中で出会うジーコファンのみどりは、自らの進路への悩みを抱えながら。

 作中の世界は、現実と同じように脅威にさらされているけれど、彼らの旅路を文字で追っていくのは、清冽な読書体験だった。前向きで素直な亜美の姿に感じるまぶしさと、整然と描写される風景に繰り返し触れていると、自分の中にある感情が純度を増していくような感触があり、とても心地がよい。ぜひ多くの方に、そんな体験をしてほしい、と思った。

清水

清水 大輔●音楽出版社での雑誌編集や広告営業などを経て、20年7月よりダ・ヴィンチニュース編集長。『旅する練習』の序盤、亜美のセリフ。「これだ! 春休みの四月四日、アントラーズ対レイソル!」。最愛のクラブが小説に登場した、人生で初の瞬間。感動がすごかった。