『ドラえもん』のジャイアンはメタルだ!/メタルか?メタルじゃないか?④

エンタメ

更新日:2021/2/6

 “新しいメタルの誕生”をテーマに“BABYMETAL”というプロジェクトを立ち上げ、斬新なアイディアとブレること無き鋼鉄の魂で世界へと導いてきたプロデューサー・KOBAMETAL。そんな彼が世の中のあらゆる事象を“メタル”の視点で斬りまくる! “メタルか? メタルじゃないか?”。その答えの中に、常識を覆し、閉塞感を感じる日常を変えるヒントが見つけられるかもしれない!!

メタルか? メタルでないか?
Photo by Susumu Miyawaki(PROGRESS‐M)

『ドラえもん』のジャイアンはメタルマスター

『ドラえもん』の主要キャラクターであるジャイアンはメタルなのではないか?

 ふと、そんなことを思った。

 ジャイアンの普段の俺様的な発言や友人たちへの横暴な態度を指してそう思ったのではない。何せ彼は自称「天才歌手」なのだ。

「ジャイアン・リサイタル」と銘打ち、定期的にライブを行なっている。しかも、チラシやポスターを作って、それらを友人に手渡し、町のブロック塀に貼り出し、「当然全員参加、だ・よ・な」といういささか強引なプロモーション活動も堂に入ったものだ。

 そしてライブ会場となるのは近所の子供達の聖地とも言うべき空き地だ。オープンエアの聖地を貸し切りにしてのワンマンショー。

 よく見れば、特設ステージと看板などの舞台装飾まであるではないか。さらにこのリサイタル、その時々によってかもしれないが、基本有料なのだ。

 チラシにきちんと料金が明記してある。「マツ席100円 タケ席50円」。もはややり手のプロモーターもひれ伏す手腕だ。あまつさえ、本人自らがパフォーマンスし演出もこなし、舞台も作っているのだから、ジャイアン恐るべしである。

 

 で、そのジャイアンのどこにメタルを感じるのかということだが、それはズバリ、ジャイアンのリサタイル時におけるファッションだ。派手な色合いのウィッグをかぶり、顔には星やラインのペイントが施されている。首にはドクロを象ったペンダント(たぶん手製?)、腕にはメタラー御用達、スタッズ付きの黒レザーブレスレットを装着しているではないか! さらにビジュアル系の定番ノースリーブ・ロングコートを纏い、下半身はLAメタルばりのピチピチパンツにロングブーツだ。

 まさに世間一般の方が思い描く「メタル」の姿ではないか!

 こうなるとあの、ジャイアン必殺のシャウト「ボエ~~」も、これはもうデスボイス確定だろう。

ステレオタイプは悪いのか?

 国民的アニメである『ドラえもん』に、過激な音楽の象徴としてメタルが取り入れられていることは何を意味するか。これは、メタルというものがステレオタイプ化されていることの証拠だ。

 

 ステレオタイプというのは、固定観念や先入観を表す外来語だ。引いては、偏見や差別といった意味合いまで含む場合もあり、あまり良い意味で用いられる言葉ではない。

 しかしワタクシは、ステレオタイプになることを恐れすぎてはいけないのではないか? と思うのだ。ステレオタイプになるということは、その物事の表層は少なくとも理解されているわけで、しかも超メジャーな状態にあるというわけだ。

 はいはい、メタルって、こういう感じでしょ、と。

 日々正座をして轟音の中に真理を求めようとしているエリートメタラーの諸君からすれば、なんとも悔しい話ではある。

 ただ、人が何かについて100パーセント理解できることなんて果たしてあるだろうか? 日々の暮らしの中で、これについてはすべて知っている、ということはどれくらいあるだろう? はっきり言って、ほとんどない。

 

 例えば、毎年年末になると発表される「流行語大賞」というものがある。発表された言葉の数々に、あーあれね! といちいち納得、友人との会話も花が咲くというものだ。では、つい数ヶ月前である昨年の流行語大賞が何だったか覚えているだろうか?

 一昨年は? その前は? はっきり言って、即座に思い出せる人はそうはいないはずだ。

 

 ちなみに、2020年の流行語大賞に輝いたのは「3密」。

 コロナ禍にあって、感染症の基本的予防策をわかりやすく標語化したものだ。もしこれを100パーセント理解しよう、させようと思ったら膨大な言葉やグラフや数値を費やさなければならないだろう。

 それをステレオタイプ化させることで、3密を避ければいいんだな、という大雑把な把握と行動につながった。100あるうちの20でも30でもいいから掴めれば、まずは成功なのだ。そしてその印象が強ければ強いほど、本質を超えて広がっていく。言うなれば、ステレオタイプとはスタンプ化することなのだ。LINEで返信するときに、スタンプひとつ返せば意味が伝わるように、わかりやすく咀嚼された形を提示してみせる。

 

 もちろん、キャッチーに変換されたからこそ理解がそれ以上進まないという弊害があることも事実だ。しかし、そうした弊害は新たな進化を生む土壌ともなる。スタンプ化された物事に対してのカウンターとなって、またそれらが合わさって大きな流れになることが往々にしてある。そこで重要なのは、ステレオタイプとなった土台がまずあるということなのではないだろうか。

 メタルってこういう感じだよね。

 世の人々が、「こういう感じ」を知っていることは大いなるアドバンテージなのである。そのイメージのまま突き進もよし、覆すもよし。大切なのはそこで立ち止まらず前進していくことだ。

 

 それにしても、ジャイアンはどんなバンドやアーティストに影響されたのだろう?

 描かれた時代によっても異なるので一概には言えない。しかし確実に言えるのは、彼がその年齢にしてはずいぶん早熟な音楽的嗜好を持っているということ。そして何より、有料コンサートまで開いてしまう行動力とビジネスセンスがあるということ。メタラーとしての将来を楽しみにしているぞ。

メタルか? メタルでないか?
Illustration by ARIMETAL

<第5回に続く>

KOBAMETAL(コバメタル)〇プロデューサー、作詞家、作曲家。
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