親の再婚で始まる、凸凹きょうだい物語『転がる姉弟』/マンガPOP横丁㊻

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公開日:2021/2/12

『転がる姉弟』(森つぶみ/小学館クリエイティブ)
『転がる姉弟』(森つぶみ/小学館クリエイティブ)

 突然だが、私はひとりっ子だ。なので、“きょうだい”のいる世界は当然知らない。そこにいきなり自分に兄や姉、もしくは弟や妹が“別の家庭”から新しい家族としてやってきたら。きっと戸惑いは隠せないと思う。そしてずっと維持してきた心安らぐ居場所を崩してくるのではないかと身構えるかもしれない。企業でいうところの“合併”みたいなものか。超ザックリなたとえだけど。

 そんな双方の親の恋の交渉によって成立した“家庭の合併”で一緒になり、それぞれ“姉”と“弟”となった“きょうだい”の日常を描いたホームドラマ漫画が発売された。ちなみに選書の際、第1話をしっかりと読んでから決めているのだが、今回の作品は、優しいストーリーと姉弟の楽しいキャラクターに即引き込まれ、「推したい!」という強い気持ちを担当編集さんへ訴えた結果、実現した。そんな“はりま的2021年上半期イチオシ作品”として自信を持ってお薦めする、森つぶみ先生の『転がる姉弟』(小学館クリエイティブ)をご紹介する。

 ある日、母親を亡くした女子高生の宇佐美みなとの生活に大きな変化が訪れようとしていた。それは、父親の再婚により小学生の弟ができるということ!顔合わせを明日に控え、みなとは母親の遺影が飾られている仏壇の前でこのことを報告する。そしてついに訪れる顔合わせ当日。舞台は寿司屋の御座敷。弟となる男の子の名は光志郎。父親から彼のことに関しては『とてもかわいい男の子』『元気でいい子』と伝えられ、さらに新しい母親に似た優しい目元ということから、みなとは美少年を想像し期待を膨らませていた。だが顔を合わせた瞬間、その期待は一気に崩壊。みなとが感じた光志郎への第一印象は、スゴくアホそうな子! しかし改めて見ると、愛嬌ある顔してるしカワイイと勝手に失望した自分に反省……していたら、光志郎もみなとを見て同じように失望していたのだった! 実はどちらも同じ気持ちだったというまさかの衝撃的事実から始まる初対面。さらにその後、みなとが光志郎の独特なペースに飲まれる凸凹なやりとりがほのぼのと炸裂。こうして食事会を終えたのだった。果たして、新しくできたちょっと変わり者な弟の光志郎と仲良く暮らすことはできるのか。お互いの生活に今まで無かった“きょうだい”が存在する新しい日常の幕が上がる。

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 その素直で無邪気な感情を見せる光志郎がもう可愛くてしょうがない。たまねぎ頭に、一流芸能人たちが格付けされるテレビ番組で使うアイマスクのような目、そして好きな食べ物をもらって『ありがてぇ』という独特な言い回し(下町ことば)と、確かに存在的には“変な子”ではあるが、彼に中にはしっかりと自身の価値観があり、その考え方や答えはとても優しくてキラキラで、ものすごく心にグッと突き刺さってくる。きっと優しくのびのびと育てたのだろうなと光志郎の母親の雰囲気で感じる。新しいお姉ちゃん・みなとに会えることにまるで遠足があるかのようにはしゃぐ食事会前夜のシーン、非常に愛おしいです。一方、新たに姉となるみなとは、光志郎への面倒見が非常に良く、すっかりお姉さんとして役目を果たしている。これは亡くなったみなとの母譲りというところが出ている。

 初対面の時こそ凸凹感で溢れていたが、同居開始の日の夜に初めて姉弟としての絆が作られるシーンが個人的にすごくお気に入りだ。2人に募った不安が温かく溶けて消える様子が大変心に響いた。その他にも、みなとの家に移り住む光志郎の転校先の小学校で起きる友達の話や、高校生というお年頃のみなとのアオハルな展開など、それぞれの外でのドラマも盛りだくさん。

 タイトルにある通り、あっちに行ったりこっちに行ったりとコロコロ転がりながら探り合い、お互いの絆と家族愛を大きく成長させていく2人の物語『転がる姉弟』。誰もがこの2人に笑ったり泣いたり、ほっこりさせられたりするだろう。私の拙い文章でどのくらい伝わったか不安ではあるが、今年の名作のひとつと思っているので、ぜひこの作品を手に取って、読んでいただくことを願う!

マンガPOP横丁

文・手書きPOP=はりまりょう

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