深夜のコンビニで働くワケありおじいさんの人情劇場『島さん』/マンガPOP横丁㊼

マンガ

公開日:2021/2/19

『島さん』(川野ようぶんどう/双葉社)
『島さん』(川野ようぶんどう/双葉社)

 いつも一緒に働いている同僚の素顔や生きてきた背景などを、あなたはどこまで知っているだろうか? 正直なところ、「いつも見ている姿以外は知らない』がほとんどの人の回答だろう。例えば、見た目は非常に優しく温厚そうな人が、実は驚くべき武勇伝を持っていた……なんていうことを知らずに一緒に働いていることがあるかもしれない。むしろ知らないからこそ人間関係が成立し、仕事にも支障なく取り組むことができるなんてことも。

 今回は、第1話からその真実の一片に衝撃を受ける、すごく良い人だけど実はワケありの過去を持つ、深夜のコンビニで一生懸命働くおじいさんが主人公の人情物語、川野ようぶんどう先生の『島さん』(双葉社)をご紹介!

 コンビニエンスストアで夜勤のアルバイトとして働くおじいさん店員・島さん。彼はここで長い間勤務しているベテランスタッフだ。腰に貼った湿布のにおいを漂わせたり、ネット販売などの最近のレジオペには疎かったりと、若手店員からは少々頼りなさそうに見られがち。しかし、お店へ心当たりのないクレームをつけてくる客や、とってもヤンチャな若者グループ客から圧のかかった要求があっても、経験と持ち前の優しさで解決するという接客対応はピカイチという面を持っていた。そんな島さんの働きぶりから、ヘルプとして他店舗に派遣されることもしばしば。孤独に奮闘する外国人店員や、親子で経営する店の実情など、ヘルプ先のコンビニが持つそれぞれの物語が島さんを待ち受ける。

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 そんな島さんは道を踏み外した過去がある。これらの現状に島さんは果たしてどういう働きかけをしていくのか。島さんの想いが、これから踏み外さんとしている人たちの心に優しく刻まれていく。

 悩める店舗や人物が、とある事情を背負った島さんの言葉や行動で救われていく展開。これがふと私の頭の中である人物と重なった。テレビのドキュメンタリー番組で観た、極道から足を洗い、神の洗礼を受けた牧師さんだ。道から踏み外す者、踏み外そうとする者、これらを島さんが正していく姿は、牧師さんのように本格的とまではいかないまでも、それに似ている。ちなみに、なぜ元極道の牧師さんをたとえにあげたのかというと、島さんが過去に“その環境”で生き、踏み外した証が背中に大きく刻まれているから。その事実はコンビニの同僚を含め、周りの人たちは知らない。そして島さんも公言していない。とはいえ自ら意識して隠しているということもないのだが、奇跡的に見る機会がないだけだ。本編では毎回どこかしらで過去の顔を自然とのぞかせる。

 そんな島さんの子ども時代の話が第8話に描かれ、島さんの心を救ってくれた人物が登場する。少しの間、任侠の世界で生きる稲三という人物に島少年は面倒を見てもらっていた。最初は稲三へ心を開かなかったが、島少年の気持ちに稲三が寄り添ってくれたことで、島少年はだんだん心を開いていく。ここで島さんの悩めるコンビニスタッフに優しく寄り添うスタイルが確立したといってもいいだろう。さらに怒涛の踏み外し人生を送ってきたからなおさらだ。このことを知った上で最初から読み返すと、島さんの温かみをさらに強く感じることができる。

 ありそうでなかった夜のコンビニ人情物語。実写ドラマ化を熱望します。その時の島さん役は、田口トモロヲさんか光石研さんで!(※ドラマのバ◯プレイヤーズに相当影響されてます。)

マンガPOP横丁

文・手書きPOP=はりまりょう

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