黄門様とスティーブ・ジョブズ、メタルの刻印/メタルか?メタルじゃないか?⑥

エンタメ

公開日:2021/3/6

 “新しいメタルの誕生”をテーマに“BABYMETAL”というプロジェクトを立ち上げ、斬新なアイディアとブレること無き鋼鉄の魂で世界へと導いてきたプロデューサー・KOBAMETAL。そんな彼が世の中のあらゆる事象を“メタル”の視点で斬りまくる! “メタルか? メタルじゃないか?”。その答えの中に、常識を覆し、閉塞感を感じる日常を変えるヒントが見つけられるかもしれない!!

メタルか? メタルでないか?
Photo by Susumu Miyawaki(PROGRESS‐M)

 昭和生まれのメタラー諸君は、もちろん思春期に携帯電話なんてなかったはずだ。スマホもパソコンも、そういうものはマンガなんかの空想の世界の産物でしかなかったわけである。

 で、いざ携帯電話が登場し、世に普及しだした頃にはこう思った人もいたのだろうか。

「線、つながってないけど、大丈夫?」

 そんな昭和の遺物となりそうな光景も、平成、令和と時が流れた今であれば、「え? 電話って線で繋がってたの?」と若者から怪訝な顔をされてしまうのであろう。

 

 これまで手を替え品を替え触れてきていることだが、メタルとは継承であり、大いなる予定調和こそに美学を見出すものだ。

 そしてそれは、ある意味人間の持つ基本的な精神構造そのものなのではないかと。要するに、人間というのは、突拍子もなく新しいものに対して、まずは不安を感じてしまうものなのだ。村社会がよそ者を警戒してしまうように。新型コロナウイルスのワクチン大丈夫? という不安も、もしかしたらそういうことなのかもしれない。

 

 例えば、往年の大ヒット時代劇シリーズ『水戸黄門』。

 水戸のご老公こと、時の副将軍水戸光圀とその一行が諸国を旅し、その地その地で困っている人たちを助け、悪徳代官や商人を成敗するという、これぞ紋切り型の勧善懲悪ストーリーが全編にわたってうなりを上げる人気時代劇だ。

 ヒットの要因は、いろいろあるだろう。キャラクター設定しかり、歴代の俳優さんたちの熱演しかり。しかし最大の要因は、そのわかりやすすぎる展開だ。その象徴が、物語のクライマックスで出てくる葵の三つ葉紋が刻印された印籠を「控えおろ~!」と出すシーンだ。もう、誰がなんと言おうとこれこそメタルの刻印。いかにピンチに陥ろうとも、印籠さえあれば、どんな悪党でもひれ伏すという魔力。次週もその次も、場所や設定こそ異なれど、物語の基本構造は同じ。ひたすら鋼鉄のリフを刻み続けるクラシック・メタルさながらの愚直さだ。

 

 もし、印籠をバーンと見せつけられた悪党が、「はあ? だからなんだっつんだこのじじい!」みたいな感じで意にも介さなかったら、当の黄門様よりも視聴者の不安がマックスだろう。あるいは、助さん&格さんが、「俺たちもう年寄りの世話して旅すんのとかマジ超キチーんで、一抜けっすわ! PON PON!」と、EXITのりんたろー&かねちーみたいなことを言い出したら、もうどうしたらいいかわからない混沌の極みに叩き落とされる。ま、そういう『水戸黄門』も見てみたい、とも思うのだが。

安心感を与え続け、紙一重で裏切ることの重要性

 ただし、特にエンタテインメントに関して言えば、いい意味での裏切りというのは必要だ。前提条件として、物語やキャラクターに型があることはマスト。それによって安心感を与え続け、そしてたまーに、紙一重で裏切る。この塩梅が良質のエンタテインメントかどうかの差となってくる。だから『水戸黄門』が、これだけ人気シリーズとして愛されたということは、どこかで裏切りや驚きを入れて自らをアップデートし続けたからなんだろう。

 

 我々の社会や生活も同じで、基本は似たような毎日の繰り返しである。でもそこに、予想もしなかった事態が起こったり、刺激があったりして、不安になるということは往々にしてある。急に転勤しろって言われたけど、大丈夫? 受験の方式が新しいものに変わったけど大丈夫? などなど。

 しかし、こうした不安を乗り切った先に、また新しい自分の定番が待っているのだ。

 今、スマホを使わない人はいないだろう。また、仕事のツールとしてパソコンは必要不可欠なものだ。ただ、ワタクシが冒頭に携帯電話が普及し始めの頃の不安を冗談めかして書いたが、遠からずほとんどの人がそういう感じだったのだ。メールって本当に送れてるのかな? とか。重要な文書はメールで送らずに郵送しようとか、そんなことが当たり前だった。

 人間とは、それほどまでに新しいものに対して懐疑的で不安になるものなのだ。

 だから、イノベーターと言われる一部の人たちは本当にすごいと思う。

 自分以外の多くの人間が「ええ?」と眉唾に思っていることに、確信と信念を持って、「大丈夫、これは絶対にいけるんだ!」と人生丸ごとベットできる人だけが大きな成功をつかめるというわけだ。

 故スティーブ・ジョブズ氏が、常に黒のタートルネック・トレーナーにデニムのパンツというファッションだったことを思うと、その「定番ファッション」と「斬新すぎる発想の数々」といった相反するものの歪みが、ワタクシにはメタルの旋律を帯びて響いてくるのだ。

メタルか? メタルでないか?
Illustration by ARIMETAL

<第7回に続く>

KOBAMETAL(コバメタル)〇プロデューサー、作詞家、作曲家。
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