後ろ姿って描くの難しい/和牛の一歩ずつ、一歩ずつ。①

小説・エッセイ

更新日:2021/3/15

人気お笑いコンビ・和牛の初エッセイ『和牛の一歩ずつ、一歩ずつ。』。日常のひとコマから子どもの頃の思い出、劇場のことなど和牛節が全開! 本書から人気のエッセイを全6回でお届けします!

和牛の一歩ずつ、一歩ずつ。
和牛の一歩ずつ、一歩ずつ。』(和牛 水田信二、川西賢志郎/KADOKAWA)

後ろ姿って描くの難しい 水田信二

 四国は香川県に「こんぴらさん」という愛称で親しまれている神社があります。ここの特徴はね、とにかく階段が多いってことです。その数なんと1368段です。観光客の方も多い有名な神社ですがみんながみんな最後までは上りません。だって1368段ですから。

 和牛はコンビを組んで12年目になります。本人達も、おそらく近くで見てきた芸人さん達もみんな和牛というコンビはゆっくりと一歩ずつ階段を上ってるという印象を抱いているんじゃないでしょうか。もちろん下りもありましたけど。

 こんぴらさんの階段にもね、下りの部分があるんですよ。「1368段もあるのに下ってどうすんねん!」って思いますけどね。必要なんでしょうね。

 他のコンビがエスカレーターやエレベーターで昇っていくのを何度も見ました。最初からヘリに乗ってる人もいましたよ。「え? ヘリポートどこにあったん? 俺階段しかないって聞いたんやけど!? あ、自家用なんや……は〜、なるほどぉ」みたいな。色んな才能を持った人が集まってくる世界ですからね。

 焦っても焦らなくても自信を持ってやれることはネタしかなかったのでひたすら作っては稽古の日々でした。いや、この言い方だと焦ることなく平常心で努力を重ねてきたみたいにもとれますね。もちろん数えきれないくらい焦ったり心が折れそうになったり劣等感や汚い感情にまみれまくりでした。

 寝て夢を見るといつもなにかから逃げてる夢でした。なぜか凶悪犯から追われたり、自分が囚人で脱獄を企てたり、狭い道でめちゃくちゃでかい鉄球が転がってきたり、シチュエーションは変われど毎回逃げてました。思い通りにいかない現実から抜け出したかったんでしょうね。今思えば自分の意志で芸人になった時点で思い通りの人生の入り口にはちゃんと立ててるんですけど、当時は「いつか辞めなあかんていう日が来るんかな? 俺いつか辞めるんかな?」なんて毎晩考えてました。

 それでも辞めなかったのは、「芸人以外の人生はもう自分には絶対無理っ!!」っていうわがままが5割と、他の芸人に対して負けを認めたくないという子どもみたいなプライドが3割と、「俺はすごくおもしろい…はず!! …たぶん!!…」という2割の自信を持ち続けたからです。

 この2割のうす〜い自信がね、持ち続けるのキツイんです。ご褒美がないと。

 ご褒美とは「結果」もしくは強烈な「褒め」ですよね。でもたくさんのお客さんや、絡んだこともないような大先輩や近くで見てくれてた芸人の皆さんの「褒め」によって結果に左右されない自信をほんのちょっとずつですけど持てるようになるんですよね。ありがたいです。

 こんぴらさんでいうと365段目にある「大門」と呼ばれる大きな門の前まで来たという感じでしょうか。「ほらほら! 頑張って! もうすぐ大門やで! 写真撮り! いくよ〜! カシャ! いい顔してるやん〜!!」と言われて頂上はまだまだなのをわかりながらも嬉しくて照れながら笑ってる感じでしょうか。2位ばっかりなんです、和牛は。2位の数なら1位。

 今後和牛に関わってくれる皆さん、和牛は褒めてチヤホヤして認めてそのまま持ち上げ続けといてほしいです。ダメな部分はね、自分で見つけられると思います。根がネガティブですから。「根がティブ」ですね。

 さぁ皆さんお気づきでしょうか? 今回のコラム、1368文字でございます。

和牛の一歩ずつ、一歩ずつ。

<第2回に続く>

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