池島小学校/和牛の一歩ずつ、一歩ずつ。②

小説・エッセイ

公開日:2021/3/15

人気お笑いコンビ・和牛の初エッセイ『和牛の一歩ずつ、一歩ずつ。』。日常のひとコマから子どもの頃の思い出、劇場のことなど和牛節が全開! 本書から人気のエッセイを全6回でお届けします!

和牛の一歩ずつ、一歩ずつ。
和牛の一歩ずつ、一歩ずつ。』(和牛 水田信二、川西賢志郎/KADOKAWA)

池島小学校 川西賢志郎

 僕の母校である池島小学校から、仕事の依頼が入った。漫才と子ども達に夢を与えるような話をしてほしいという内容で、スケジュールの都合もついたので行けることになった。こういった形で呼んでもらえるなんて、卒業生としてはすごく光栄なことだ。子ども達に夢を与える話ができるかなんて自信はないけど、とにかく、ちゃんとしよう。そう思った。

 電車で実家の最寄り駅まで行き、そこからタクシーに乗った。よく考えれば、その駅からタクシーに乗るのは初めてのことだった。学生時代は自転車だったし、今も実家に帰るとなると駅までおかんが車で迎えに来てくれるからだ。だから、タクシーに乗ってるのが新鮮で、より仕事をしに行くんだという気持ちが強くなった。小学校に行くのは卒業して以来だから22年ぶりかぁと思い返していると、一度だけ行ったことがあるのを思い出した。中学生になってすぐの夏休みに、友達と3人で勝手に小学校のプールに忍び込んで、バカンス気分で泳いでいるところを先生に見つかり、追いかけまわされ、逃げ切ったものの結局バレて、中学の先生にババちびるくらい怒られながら謝りに行ったのが最後だった。その母校にもうすぐ着く。今日、ちゃんとしよう。

 小学校はまったくと言っていいほど変わっていなかった。出迎えてくれた先生も、僕が通っていた当時からいる先生で、髪が白くなってる以外はほとんど変わらなかった。校舎の中へ案内され、控え室として通されたのは校長室だった。僕はこの部屋に一度だけ入ったことがある。

「もう勝手にプールには入りません」

 深々と頭を下げ、体をガラケーみたいな形にしながら謝ったのがこの部屋だ。先に準備をしますねと伝えて、スーツに着替えて、ネクタイをしめた。今日ほんとにちゃんとしよう。

 全校生徒が体育館に集まってくれて、後ろの扉から登場した僕らを、大きな拍手と歓声で迎えてくれた。冷房がついてない体育館特有のムンとした熱気の中で、約20分ほどの漫才だったが、子ども達が好意的に、素直に、純粋に楽しもうとしてくれてるのが伝わってきて、安心して楽しくできた。その後、生徒さんが考えた各学年クラスごとの質問に答えていくトークコーナーがあった。ここで僕らが子ども達に夢を与える話をしなければならないわけだが、質問は自由かつ様々で、6年生の中には

「月収はいくらですか?」

 と、そういう角度からの夢を与える話を聞きたいんやと思わされる質問をしてくる子もいた。可愛かった質問が

「ママが和牛さん大好きです。もっとおもしろくなりますか?」

 というものだった。これに対して相方が、

「まぁでもおもしろいかどうかはもう決まってることやから」

 と、小学2年生の女の子には渋すぎる返答をした。でも、これは確かにと僕も思っていることだったので、補足をした。

「どのくらいおもしろいことを考えられるかっていうのはもう決まっていることだけど、その発想をどんな言葉で、どういう言い方で伝えるか、その伝え方でおもしろさが変わってくるんです。だから、ちゃんと伝えられるように頑張って、もっとおもしろくなるようにするね。お笑い以外にも言えることだと思うから、相手にどうしたら自分の気持ちや考えが伝わるか、伝え方をよく考えてね」

 と言ってその女の子を見ると、お友達とお喋りをしていた。伝え方って難しい。もっと考えようと思った。

 最後に花束をもらって、手を伸ばして握手を求めてくれる子ども達に見送られながら、校長室に戻った。ちょうどお昼時で、先生が僕らに給食を持ってきてくれた。僕が大好きだったひじきと、パンに塗る白いミルククリームがメニューにある日だった。昔とほとんど変わらない味を口にしながら、思い出を振り返る。僕はまた母校に来てほしいと思ってもらえるよう、これから先、ちゃんとしようと思った。

和牛の一歩ずつ、一歩ずつ。

<第3回に続く>

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