俳優・IKKI/他がままに生かされてスピンオフ企画「僕を生かしてくれた人たち」

小説・エッセイ

公開日:2021/3/26

 山中拓也初著書『他がままに生かされて』の刊行を記念した特別短期連載。2月は4回にわたり、本書から抜粋したエッセイを配信してきた。 3月からは本書のスピンオフ企画「僕を生かしてくれた人たち」を本連載限定で公開!書籍に掲載しきれなかった、山中拓也の恩人たちを紹介していく。

山中拓也

 IKKIは、中学校から付き合いのある、2つ年下のかわいい後輩。なかなかやんちゃな中学校に通っていた僕は、中学3年生の頃に彼と初めて出会った。

 僕の学年までは、いろいろと問題を起こすような生徒が多かったけど、僕よりも下の学年の子は大人しくていい子ばかりだった。新入生よりも3年の僕たちの方が先生に怒られることは多かったと思う。

 そんな中、僕が中学3年のときに、彼が同じ学校に転入してきた。僕と同じ野球部に入部したときの第一印象は「なんかツンツンしてるやつ」。最初のうちは、先輩と仲良くしようという雰囲気もなく距離感を感じたが、野球部で会話を交わすうちに、僕のことを慕ってくれるようになった。

 ある日、休み時間に遊びに誘おうと、IKKIの教室に顔を出したときのことだ。IKKIは同級生を小突き回してケタケタと笑い声をあげていた。小突き回す…なんてマイルドな表現だろう。先述したように、僕の学年はやんちゃだったから、大したことでは驚かない。でも、そんな環境にいた僕が「何してんねん!」と声をあげるくらいの状況だったことはここに書いておこう(笑)。

 話は少しややこしいが、僕が卒業してから、僕の親友にIKKIが呼び出されて、ボコボコにされそうになったことがある。僕のところに彼から「拓也さん、助けてください!」と連絡があって、助けたことがあった。

 しかし、この呼び出し事件によって、彼は僕たちの学年と距離を置くようになってしまう。その日から、連絡を取ることもなくなって僕たちは疎遠になった。

 時間は過ぎて、僕は上京し、活動の拠点を東京に移すことになった。久しぶりに地元へ帰り、「やっぱ地元はいいなぁ…」なんて思いながら居酒屋で酒を飲んでいたら、隣の席から聞いたことのある声で話しかけられた。

 声の主はIKKIだった。「やっぱり拓也くんだ! 俺、今俳優目指してて、東京で頑張ってるんです。連絡取りたかったんですけど、あの一件以来怖くなっちゃって…」と言う。そんな偶然の出会いから、僕たちは再度連絡先を交換することになった。

 彼は、俳優として活動することに対する悩みを抱えていて、東京に戻ってからも連絡を取り合い、相談を聞くような関係になっていった。

 IKKIは僕にとってはずっとかわいい後輩で、関係が途切れた時期はあったけどそれでも10年以上の付き合いになる。IKKIが、自分がダサいと思った先輩にはついていかない性格なのも、僕は分かっている。だからこそ、彼に恥ずかしい姿は見せられない。自分のことを慕ってくれる後輩のために、僕はこれからもカッコいい背中を見せないといけない。

 誰かに自分の背中を見せることは、まわりまわって自分の力になる。そして、人との繋がりを大切にしていれば一度切れたように見えても、めぐり会って夢を語れるようになる。これが、彼と出会って僕が気付かされたことだ。

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山中拓也●1991年、奈良県生まれ。ロックバンドTHE ORAL CIGARETTESのヴォーカル&ギターであり、楽曲の作詞作曲を担当。音楽はじめ、人間の本質を表すメッセージ性の強い言葉が多くの若者に支持されている。17年には初の武道館ライブ、18年には全国アリーナツアーを成功におさめ、19年には初主催野外イベント「PARASITE DEJAVU」を開催し、2日で約4万人を動員。20年4月に発売した最新アルバム『SUCK MY WORLD』は週間オリコンチャートで1位を獲得。