「まつもとあつしのそれゆけ! 電子書籍」 【第15回】楽天koboはなぜつまずいたのか?そして盛り返せるのか?
更新日:2013/8/14
かべ :ちょっと、現実と乖離がありますよね。なぜなんでしょう?
まつもと :1つには、三木谷さんがインタビューで応えていたように、「出版社から預かれるはず」のタイトルで予想を立てていて、しかし実際には調達できていなかったり、あるいはEPUB3への変換が追いついていない、元データは大量にあるけれどkoboストアに並べられる状態になっていない、という状況が考えられます。後者の方はEPUB3の現状を考えるとありそうな話です。
かべ :というと?
まつもと :EPUB3は日本語の縦書きにも対応する国際標準フォーマットですが、まだ仕様が確定している訳ではありません。そのため元のデータをツールで自動変換すれば万事OKとは限らず、手作業で調整しないと正しく表示されない、ということもまだ起こりえます。
かべ :おっと……、そうすると時間が掛かってしまいますよね。あ、楽天さんからもこんなお返事が。
日本語のコンテンツを本格的にEPUBで展開するのは、今が初めてです。
よって、各コンテンツの変換、クオリティーチェックに一定の時間を要しておりますが、今後のグローバルでのコンテンツ供給も見据えるに、世界標準規格のフォーマットを採用したことは、プラスになると考えております。
まつもと :なるほど、逆にEPUB「だけに」対応するkoboの弱点が表面化したとも言えますね。先日の電子出版エキスポで発表されたBookLive!の独自リーダーも既存のストアのデータを読めるようになっていますし、Yahoo!ジャパンがスタートしたブラウザで電子書籍が読めるサービスも、EPUBに加え、.bookのような従来のフォーマットに対応しています。
かべ :そういう資産を使えず、はじめから変換を行っているわけですもんね。
まつもと :現場はホントに大変だと思います。タイトル数は確かに重要な指標なのですが、達成できないとサービスへの期待や信頼が下がってしまいますから、確実にクリアできる数字を示して欲しいですね。
koboはkindleに対する選択肢になり得るのか?
かべ :さて今回は楽天koboに対してかなり厳しい内容になってしまいました(涙)。
まつもと :個人的にはそれでも期待したいという思いがあります。多くの出版関係者がkoboに期待しているのは、名指しはしないものの、アマゾンKindleに一極集中となってしまい、結果、出版界にとっては厳しい取引条件(記事リンク)を呑まざるを得なくなることへの懸念の裏返しという面もあります。
かべ :なるほど。選択肢は有った方が良い、ということですね。
まつもと :あとはやはり前々回も述べたように、koboはグローバル事業と捉えて成長すれば良いという見方もあると思います。ただそれにしては、日本語タイトルの目標設定が現状からすればかなり高かったりするのが気になりますが。年内に示した20万タイトルは、既存の他の電子書店よりも多い数ですからね。
かべ :まつもとさんが仰っていた「パブリッジ」からのタイトル供給も踏まえて、ということなんでしょうか?
まつもと :そうだとしても、EPUB3で供給されるケースはまだ少ないはずですから、変換作業は頑張らないと、ですね。
かべ :ふーむ……。
まつもと :とはいえそういった困難も、最初に述べた「公正さ」があれば、出版界や読者の理解のもと乗り越えて行くことができるはずです。逆に言えばそれがなければ、日本はもとより” fairness”がより厳格に求められるグローバル市場での展望も暗くなってしまうでしょう。誠実さ、と言い換えても良いかも知れません。
かべ :なるほど。厳しい時期はしばらく続きそうですが、楽天さんには誠実・着実に頑張ってもらいたいですね。
■ダ・ヴィンチ電子ナビ編集部:d-davinci@mediafactory.co.jp
イラスト=みずたまりこ
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