100円で変わった人生/前島亜美「まごころコトバ」②

アニメ

更新日:2021/4/30

アイドル活動を経て、声優や舞台を中心に活躍中の前島亜美さん。常にまっすぐ生きる彼女が、何を思い、感じ、触れてきたのか。心にあるコトバを真心(まごころ)こめて紡ぎます。

前島亜美「まごころコトバ」
最終オーディション合格直前の囲み取材にて

「100円で変わった人生」

 前回は私の根本にある真心、空手についてお話をさせていただきました。

 今回はそんな空手少女に訪れた“大きな人生の転機”について書いていきたいと思います。

 12歳、avexのアイドルグループの一員としてメジャーデビューをしました。

 デビューしてから、様々なインタビューを受けましたが一番聞かれた質問といえば“オーディションに応募した理由”、“アイドルになりたいと思ったきっかけは?”だったと思います。

 この質問に対し「小さい頃からアイドルが好きだった」と答えてきました。

 ハロプロが好きで嗣永桃子さんを尊敬していたので、これも本心ではあるのですが、本当の理由というのは、別にあったんです。

 オーディションに応募したきっかけは、姉が買ってきたオーディション雑誌でした。当時私は空手に没頭していたこともあり、テレビの世界には全く興味がなく「芸能人って本当にいるのかなぁ」なんて思っていたくらいでした。

 雑誌の見開きにあったavexのアイドルオーディション。「ねぇ、これ一緒に受けない?」と姉に誘われるも、「いやぁ、いいよ」と興味を示さないままでした。

 そんな私に母が「じゃあ応募したら、“ゲームを1回やらせてあげるよ”」と。

 当時私は1回100円でプレイできるアーケードゲームにハマっていました。

 女の子を着せ替えしてリズムゲームをし、1枚ずつオシャレカードを集めていくというゲーム「オシャレ魔女ラブandベリー」。

 たまに行く大きなショッピングモールやゲームセンターで1度だけゲームをやるのがとびきりの楽しみで、集めたカードは何百枚にものぼり、待望のDS版ゲームソフトが発売された日は偶然私の誕生日だったりもして、勝手ながら特別な思い入れがあるゲームでした。当時はそのゲームをやるためならなんでもやろう…!というくらいのハマり具合だったんです。

「じゃあ…受けるよ」

 100円のゲームでもらえる1枚のカードのために、そう返事をしました。

 つまり、“100円で私の人生は大きく変わった”のです。

 1次審査の合格通知が届いたのは、オーディションのことなどすっかり忘れた頃。空手の試合で戦っている合間に母から連絡がありました。

「ねぇ、なんか封筒届いてるよ」

 芸能界のオーディションに1次でも受かる。こんなことは二度とないだろうと、困惑と思い出作りの気持ちで受けた面接の2次審査。

 埼玉から電車に揺られ、到着した東京の街にすごくドキドキしたのを覚えています。

 審査員の方の前で歌を歌い、初めてプロのカメラマンさんに写真を撮ってもらい、終始ド緊張ですごい経験をしちゃったなぁなんて帰ろうとしたところ、合格通知をいただき、またもや驚きました。

「え? ど、どうしよう…」

 ここまでは“受かるわけない”と思って進んでいたため、一気に不安が押し寄せ、親と相談した結果、一度オーディションを辞退しようかという話になりました。

 しかし、その後オーディションスタッフの方からご連絡をいただき、一度話し合いをすることに。

「……折角ここまできたのだから、最後まで頑張ってみませんか?」

 その言葉をかけていただいた瞬間に、知らない世界への大きな不安の中に隠れていた“光の世界への憧れ”がぐわっと出てきたのを覚えています。

 怖いけれど、やっぱり私は、頑張ってみたいのかもしれない。“芸能界という夢を見てみたいのかもしれない”と。やると決めたからには、しっかりと向き合おう。

“絶対に、デビューしよう”と心に決め、その後のオーディションを頑張りました。

 とはいえ、歌やダンスが未経験の私は厳しいレッスンに最初は全くついていけず、朝の情報番組の密着では「悔しいです」と号泣してる私の姿が全国に流れたりと、これは合格は難しいかもしれない……と挫折に近い心境でオーディションの日々を過ごしていました。

 しかし、心のどこかでは全然できない歌やダンスも、やればやるほど楽しいのではと感じ始めていたんです。私ができないことをできる周りの候補生はかっこいい。“心が見えるパフォーマンス”を私もできるようになりたい。

 表現というものに惹かれていくたびに、“もっと表現を知りたい”と、空手で培った負けず嫌い精神に火がつきました。

「ここまできたら、絶対ステージに立ちたい」

 最終審査の合格発表、名前を呼ばれたあの瞬間の気持ちは忘れられません。夢が1つ叶い、デビューの扉を開くことになりました。

 ここから、私の表現の歩みが始まりました。もう10年以上前のことですが、1つ1つを鮮明に覚えています。それほどに私にとって大きな、特別な出来事でした。

 あの時、ゲームに釣られていなかったら今頃どんな風に生きていただろうとたまに考えます。

 時として人を癒すエンタメというもの、応援してくださる方と心を通じ合わせること、生きてきた証であり人生を肯定してくれる作品というもの、あの時一歩踏み出したことで出会えたものが沢山あります。

 心を表現する術を知りたいと、勇気を出して、良かった。

 私は、100円で変わったこの道が好きです。

 時は経ち、現在23歳となりました。これからも訪れてくる転機を楽しみながら、あの頃の飛び込む気持ちを忘れず、表現に生きていきたいです。

<第3回に続く>

まえしま・あみ
1997年11月22日生まれ、埼玉県出身。2010年にアイドルグループのメンバーとしてデビュー。2017年にグループを卒業し、舞台やバラエティ番組などで活躍。またアプリゲーム『バンドリ! ガールズバンドパーティ!』(2017年)でメインキャストの声を演じ、以後声優としても活動中。東京と大阪で4月29日(木・祝)~5月5日(水・祝)に開催される朗読劇『私の頭の中の消しゴム12th Letter』へ出演が決まっている。

Twitter:@_maeshima_ami
オフィシャルファンクラブ:https://maeshima-ami.jp/

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