「アンハッピー」な転職をする人には類型があった! 失敗が量産されてしまう理由/働くみんなの必修講義 転職学③

ビジネス

公開日:2021/5/8

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働くみんなの必修講義 転職学
『働くみんなの必修講義 転職学 人生が豊かになる科学的なキャリア行動とは』(中原淳、小林祐児、パーソル総合研究所/KADOKAWA)

転職が「学びにくい」ものである理由

 この「意識と現実の板挟み」状態にある私たちにとって、転職という選択肢はつねに頭をよぎりつつも、「誰にでも簡単にできる」ものにはいまだになっていません。そうであるからこそ、私たちはなかなか「転職を学ぶ」ということができません。転職の実態について、多くの人々は漠然としたイメージしかもちえていないのが現状です。それが「学ぶもの」になっていない結果、転職によってキャリアが「遭難」した、「沈没」したなどの例は、枚挙に暇がありません。

 もちろん、キャリアの充実をめざして結果的に年収もアップした、管理職への道を捨ててスペシャリストとして歩み出せたなど、「ハッピーな転職」もありますが、その一方で、残念な結果に終わる「アンハッピーな転職」が無数に存在しているのです。

「アンハッピーな転職」とはどんなものでしょうか。事実関係を少し変えてはいますが、実際にあった転職から事例を引いてみましょう。

Aさん(三十四歳・男性・既婚・子どもなし・消費財メーカーの営業部門・転職経験三回)

 一社目、二社目で営業職として働いていたが、ともに上司と馬が合わず、転職という選択肢を選んだAさん。同い年の妻よりも年収が低く、なかなかその水準が上がらないことにコンプレックスを感じていて、「とにかくいまの会社を辞めたい」という気持ちで三社目の転職活動をしていました。しかし転職理由が不明瞭なこと、年齢に比して転職回数が多いこと、面接時に語る転職理由が愚痴っぽいなどの理由でなかなか選考を通過できず、一〇〇社以上応募したものの、一社も内定をもらえない状態でした。

 最終的に内定を得たのは、ワンマン社長が切り盛りする老舗の小さな会社。「若手の採用を通して会社を改革したい」と期待されて入社したものの、ワンマン社長の理不尽な言動や、老舗企業であるがゆえの社風・体制が性に合いません。仕事内容についても、営業以外の業務を求められるなど入社前のイメージとのギャップから、入社後、わずか二週間で転職活動を再開します。そこから半年経った現在でも転職活動中ですが、五〇社ほど応募しても、書類通過すらしない状態が続いています。

 

Bさん(三十一歳・女性・未婚・経理事務・転職経験二回)

 Bさんは会計系の専門学校を卒業後、IT・通信会社の事務アシスタントとして一年半、一般事務に従事。その後、経理経験を積むために社員一〇〇人強規模の税理士法人に転職しました。七年ほどの経理業務を経て、簿記一級を取得。しかし勤務形態がパートタイムだったため、業務の幅を広げたい、と再び転職活動を行ないます。その結果、会計士二人が経営する会計事務所の経理業務担当として働くことになりました。

 面接のときは、「一人で経理業務をすべて行なえます!」と話したBさん。その言葉を買われて採用されたものの、小さな会社で仕組み化されている業務も少ないなかで、任された仕事をBさんは回すことができませんでした。いままでの会社では、できあがった仕組みやルールに基づいて仕事を進めており、「いわれたことをやる」タイプの働き方であったからです。結果的に、ベンチャー気質の会計士たちとの関係はギクシャクし、わずか三カ月でその会社を退職することになってしまいました。

 この手の失敗談が、世の中には溢れています。Aさんのように転職活動が長期にわたり、一〇〇社以上を受け続けるのはかなりの体力と精神力を必要とします。学校のテストと違って合否の理由も曖昧なまま、選考に落ち続けるのはつらい経験です。Bさんのように、入社後わずか三カ月でまた辞めねばならないことも精神的に堪えるはずですが、このように複数の会社を短期間で渡り歩く転職活動をする人がいることも事実です。

 転職の現場をつぶさに見ているキャリア・アドバイザーに話を聞いてみると、「アンハッピーな転職」をしてしまう人には、いくつかの類型があることがわかります。自分がやりたいことへの信念が強すぎる「夢追い系」転職者、自分の境遇を周囲の人たちとつい比較してしまう「キョロキョロ系」転職者、自分の能力を過剰に大きく見せようとする「盛り盛り系」転職者、逆に自らの能力について自覚がない「丸腰系」転職者、さらには、なんとなくいまの会社を辞めたいだけで、次の仕事に何を期待しているのかがわかっていない「フワフワ系」転職者……。

 もちろん私たちは、転職に失敗してしまう個人を責めるつもりは微塵もありません。繰り返すように、現代社会において転職は「学びにくい」ものであり、そこで「アンハッピーな転職」が起こりうるのは、ある意味では必然だからです。

 なぜ日本では転職が「学びにくい」のか。それには大きく分けて、三つの理由があります。

理由① 学校で教えてくれない

 転職のやり方について、私たちが学校教育の場で学ぶことはありません。近年、高校や大学でキャリア教育などの授業が行なわれるようになりました。しかし、その多くは仕事への意識づけや就職ガイダンスであり、社会人になってからの「転職」について詳しく学べるものではないのです。キャリア教育は、学生が就職活動でどのように振る舞えばよいのかを語ってくれますが、その後のキャリアを教えてはくれません。

 また、転職する際には、年収や待遇などが重要な判断基準の一つになりますが、多くのキャリア教育では、お金や待遇などの内容を扱いません。本書のタイトルにある「転職学」という講義は、大学の正規カリキュラムや授業には存在しないのです。

理由② 他者の「経験談」に頼れない

 転職は、他者から話を聞いて学ぶことが難しい行為です。雇用の流動化が叫ばれてずいぶん経ちますが、一人で何十回もの転職を繰り返している「転職のプロ」のようなツワモノは少数派でしょう。個々の「経験談」の多くも、それをそのまま自らに当てはめるのは難しく、それほど役には立ちません。

 転職について「意識と現実の板挟み」にある日本ではなお、「転職へのネガティブなイメージ」も残っています。うっかり会社の上司や同僚に転職相談などしようものなら、おかしな噂が立ちかねません。「転石苔を生ぜず」という格言は、日本においては、落ち着きのない人は大成しない、というような意味で用いられます。ならば、と自分の親に転職相談をしたところで、その世代の多くは「就社」の意識を強くもっていますから、「やめておいたほうがいいよ」とやんわり制止されてしまうことでしょう。

理由③ 後戻りできない

 転職は後戻りができない、不可逆的な活動です。転職してからダメだったからといって、転職前の状況に後戻りしたりするのは極めて難しく、ほんとうにその転職に「成功」したかどうかを実感できるのは、新たな職場で「しばらく働いたあと」になります。そこで成功や失敗という実体験を学び、そこから教訓を引き出すためには長い時間が必要になり、しかもその教訓を得たときは、時すでに遅し、という状況が生まれやすいのです。

<第4回に続く>

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