お湯をかけて生き返る、死者との3分再会ドキュメント!『インスタントライフ』/マンガPOP横丁(58)

マンガ

更新日:2021/5/7

インスタントライフ
『インスタントライフ』(江戸川治/新潮社)

 地球上の生物が生きている以上は必ずやって来るものがある。死だ。そしてそれはいつやって来るのかは誰にもわからない。年齢順で来るわけでもなく、事故などで突然ということもある。伝えたいことがあった大切な人が……。この心残りというのは尋常なものではない。

「これだけは伝えたかった」

 そんな叶わぬ願いを、“生き返る”という形で実現したら、あなたは誰を選び、その思いを伝えたいだろうか? そんな奇跡を呼び起こせるオカルティックファンタジー作品、江戸川治先生の『インスタントライフ』(新潮社)をご紹介したい。

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 都市伝説を紹介するユーチューバー「都市伝説さん』によると、いま巷では『カップラーメンのように“とあるもの”にお湯をかけたら、命を蘇らせられる男がいる』というウワサがあり、その男が街に来ているときは、電柱に広告が貼られるという。そのサービスの名は『インスタントライフ』――。

 ある中年女性は悩んでいた。それは、この女性の息子が自分の部屋に引きこもり、外へ出てくれないことだ。そのことを庭に安置したペットのお墓の前で報告をする毎日。そんなとき、この動画を目にする。もちろん第一印象は胡散臭さでいっぱい。しかし女性は依頼者として『インスタントライフ』へと向かった。

 到着し、入り口のドアを開けると、闇市と名乗る男が前のめりに歓迎! まるでホストのようなその風貌に更なる不安が増す中、闇市が女性の所持品に注目する。それは、外出の際にペットを入れるキャリーケース。その中に入っているのは、この日のために庭に数日間埋めていたところを掘り起こし、少し姿が変わってしまっている愛犬・クッキーの死体だった。そう、この愛犬を蘇らせてほしいというのが今回の依頼内容であった。早速、闇市は蘇らせるための準備に入るが、その方法は、蘇らせたい死体に闇市がお湯をかけるだけ。そして料金は10万円。女性が戸惑う仕草を見せると、闇市がデモンストレーションとしてその様子を見せる。すると、クッキーの姿が元に戻ったではないか! あとは、別に用意した砂時計をひっくり返したと同時に蘇るという。その蘇生時間は、わずか3分間。

 かくして、女性は蘇生させると決断。そしてその決行場所は、息子のいる自宅。果たして、閉ざした息子の心の行方は……。3分間の再会ドラマが、砂の流れとともに始まる!

 ほか「親友の自殺の真相」など、蘇った故人に思いを伝える依頼者にとっての勝負の3分間は、感動アリ、衝撃アリとさまざまだ。そこで重要となるのは、“3分”という制限時間である。

 この3分という時間は非常に絶妙だ。ちなみに、年末の漫才日本一を決めるコンテストの決勝でのネタ見せ時間は4分。なので仮にとてもお笑いが好きだった人と一緒にあの決勝のネタが見たいと依頼してもオチを見届けずに終了してしまう。これははりま的にちと辛いが……。話を戻そう。本編では、同じ3分でも、緊張感に満たされた3分は短くして、2人きりでじっくりと話す3分は長く感じさせるような演出をページ数で表しているように感じた。

 この後も続々と依頼者によって実現していくインスタントな再会劇。この作品を読みながら、友人や家族など大切な人と過ごせるよろこびを改めてかみしめよう。

マンガPOP横丁

文・手書きPOP=はりまりょう

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