DMで嫌いと言われた/『運動音痴は卒業しない』郡司りか㉓

小説・エッセイ

更新日:2021/5/16

郡司りか

 少し前にこんなDMが届きました。

「こんにちは。初めてメッセージします。前に付き合っていた人と、付き合っていた当時、月曜から夜ふかしを見ていたんですけど、そのときに彼が言ったんですよ。『郡司さんみたいな人っていいな。こんな人と結婚したい。』と。そのときは同調したけど、別れた今でも好きにはなれないし、なんなら嫌いなんです、郡司さんのこと。ごめんなさい。」

 今でも好きになれないの私かーい!! だいぶ引きずってるじゃないですか!

 でもわかる。それって、彼が言っちゃいけない言葉だったんですよ。どんなに彼女にヤキモチを焼いてほしくても、どんなに話題がないから絞り出した言葉だとしても、どんなに運動が苦手で頑張ってる人に興奮する系の人でも言っちゃいけないのです。

 わかります。私も3年程前に旦那がハシカンを可愛いと言ったときの嫌悪感は忘れられません。つい手が滑ってビンタしそうになりました。

 それは嫉妬やヤキモチとは少し違っていて、普遍的に自分を好きでいてくれるだろう相手が誰か違う人を好きになるかもしれない心の隙間を察知するから不安になるんですよね。その彼も別に私と本気で結婚したいわけじゃないし、旦那もハシカンを好きなわけじゃない。(よな?)

 では、なぜそんなことを言ったのかというと、パートナーを信頼しているから口走ってしまったのだと思います。何も考えずポロッと喋ってしまうほど、ふたりの空気は居心地がよく互いを信頼していたのでしょう。

 そして、よく読んでほしいのが「郡司さん良いな」ではなく「郡司さんみたいな人って良いな」というところ。直接私を良いとは言ってないんですよね。

 では、なぜその彼が郡司を引き合いに出して「良いな」と言ったのか? ということをもう一度考えてほしい。普通、郡司を選ぶか? 郡司とグラビアアイドルが並んでいたとして、郡司を選ぶ可能性は0/100。つまりゼロなんです。

 ゼロなのに、その彼がわざわざ運動音痴芸人を選んだ理由は、「好きな対象としてちょうど良かったから」だと思います。

 スキキライの意思表示というのは、相手を好きであることを伝える他に、この相手を好きだという自分の表示、いわば個性の表現でもあると思うのです。例えば、「海の見える喫茶店でコーヒーを飲むことが好き。」と言ったとして、それは純粋に海の見える喫茶店でコーヒーを飲むことが好きという場合と、「海の見える喫茶店でコーヒーを飲むことが好きな私だ!!」という個性を提示したい場合があるのです。え、あるよね? 少なからず私にはあります。(そのコーヒー、SNSにアップとかしたら最高だよね。)

 彼の言った「郡司みたいな人いいな」という言葉は(その真相ははっきりしませんが)、ほぼ後者で間違いないでしょう。つまり、「僕は見た目重視ではなく、頑張ってる人を可愛いと思うんだ。」ということを伝えたかったのだと思います。

 結論、伝え方が悪かったということですね。

 長くなりましたがそういうことなので、そろそろ元カレと私から解放されちゃってください。

<第24回に続く>

プロフィール
1992年、大阪府生まれ。高校在学中に神奈川県立横浜立野高校に転校し、「運動音痴のための体育祭を作る」というスローガンを掲げて生徒会長選に立候補し、当選。特別支援学校教諭、メガネ店員を経て、自主映画を企画・上映するNPO法人「ハートオブミラクル」の広報・理事を務める。
写真:三浦奈々